第15章 依頼核心部

第58話 入口前の戦闘

 妖精を出して3分程度は、何事もなく経過した。

 この、何もないのに張り詰めている緊張感は、どうも苦手だ。

 

 もちろん技術がわからない他部署の偉い人とか、道理が通じないクライアントが背後にいるというのよりはましだろう。

 それでも、何もしないで待つという経験があまり無かった俺には疲れる時間だ。

 何もしないというか、まあ警戒はしているのだけれど。


「そろそろ妖精の1体が戻ってきます。そうすれば向こう側の状況がある程度わかるでしょう」


 問題は妖精に、どれくらいの観察能力と説明能力があるかだ。

 でもクリスタさんの魔法で造られた妖精なら、そう酷い事はないだろう。

 そう思いたい。


 坑道奥の穴に、魔力の気配を感じた。

 すぐに先程クリスタさんが放った妖精だとわかる。


「穴を出た向こう側は幅4m、長さ80m位の空間だそうです。壁に硬化魔術がかけられている四角い空間で、明らかに人工的に造られたと思われます。そして長さ80mのうち、奥側50mは水が貯まっているようです」


 確かにそんな四角い空間で硬化魔術がかかっているなんて、人工でしかありえないだろう。


「魔物は水が無い30m程度の部分にスケルトンが15体。この中にはアークスケルトンも含まれているようです。それより上位種のスケルトンはいません。また水中にも魔物がいるようです。ただし水上に出てくる気配がないので、まだ種類はわかりません」


「アークスケルトンまでならそう怖くないのニャ。弱点は基本的にスケルトンと同様ニャ。動きが少しだけ速くて少し頑丈な程度なのニャ」


 アークスケルトンは、初心者講習の教本には載っていなかった。

 少しだけ早くて少し頑丈か。

 そう怖くない、というのがミーニャさん基準なのか、一般的な冒険者としての基準なのかは不明だ。

 でもまあ、そのミーニャさんがいるから大丈夫ではあるだろう。


「それでクリスタ、魔法的痕跡は何かあったかニャ?」


「穴の奥、水が貯まっている場所からそれらしい魔力が出ているようです。それ以上は確認出来ていません。実際に行って確認する必要がありそうです」


 いずれにせよ、溜まっている水が邪魔だ。


「水を抜いたり、魔法で蒸発させることは出来ないかニャ」


「出来るかどうかは今はまだわかりません。向こうへ行った後、スケルトンを倒して安全を確保した上で、改めて調査確認する必要があるでしょう。今わかるのはそこまでです」


「わかったニャ」


 ミーニャさんは頷いた。


「それじゃとりあえず、スケルトン15体を排除するのニャ。クリスタ、こちらへスケルトンの追い出しを頼めるかニャ」


「わかりました。次の妖精が戻りましたら、今戻った妖精を送り込んで攻撃を仕掛けましょう。坑道が崩れると不味いので、弱めの風属性魔法で攻撃して誘導します」


「わかったニャ。次の妖精はいつ戻るニャ?」


「あと2分程度です」


 それまでは待ちか。

 そう思ったところで、穴の方でまた魔力を感じた。

 クリスタさんの妖精の魔力と、それ以外の魔力の両方だ。


「訂正します。妖精の出入りに、スケルトンが気づいたようです。こちらに出てきます」


 クリスタさんの言葉が終わる前に、ジョンとミーニャさんが立ち上がる。


「わかったのニャ。まずはジョン、頼むのニャ」


「わかりました」


 ジョンが弓を構え、矢をつがえる。

 ミーニャさんは両手に斧を握り、クリスタさんは立ち上がった。

 俺も立ち上がって、椅子を魔法収納アイテムボックスに収納する。


 穴の魔力が濃くなって、そして白い骨が出現する。

 スケルトンだ。片手剣を装備した標準的なものが1体、また1体。


 ジョンの弓が矢を放った。

 最初のスケルトンは2本目の矢で頽れた。そして続いて出てきたスケルトンも、やはり腰骨に矢を受けて崩れる。

 そしてまた1体、更に1体……


 合計10体のスケルトンが出てきて、そして倒れた。

 完全に倒しきった訳では無い。

 骨がまだ振動しているし、魔力反応も残っている。

 それでも立ち上がったり、剣を振り回したりは出来ないようだ。


 そして穴からは、追加で出てきそうな魔力は感じない。


「残りは出てこないようです」


 クリスタさんも俺と同じように判断したようだ。

 ミーニャさんが頷く。


「弓が優秀だと楽でいいのニャ。でもせめて、とどめくらいは刺してくるニャ。両手斧より戦斧の方がいいニャ。エイダン、頼むニャ」


「どうぞ」


 ミーニャさんから斧二本を受け取って収納し、代わりに戦斧を出してミーニャさんに渡す。

 ごつくて重い、俺だと両手でしっかり持たないと支えられない戦斧をミーニャさんは片手で受け取って。 


「ありがとニャ。では行ってくるにゃ」


 ミーニャさんは50m以上ある間合いを一気に詰めて、戦斧を軽く振りかぶった。


「終わりニャ」


 振りかぶっては戦斧をスケルトンの頭蓋骨部分に叩きつける。

 派手な音が何回かした後、スケルトンの動きが完全に止まった。

 魔力の反応から倒した事がわかる。


「魔石を回収します」


 クリスタさんがそう言いつつ、歩き始めた。

 俺とジョンもミーニャさんの方へと歩いて行く。


 穴から更に妖精が出てきた。


「向こう側にあと5体、アークスケルトンが残っているようです」


「わかっているニャ。ニャので乱戦用で両手に斧装備ニャ」


 ミーニャさんが俺に差し出した戦斧を収納し、さっきまでミーニャさんが出していた斧を一丁ずつ、ミーニャさんに渡す。


「ありがとニャ。それにしてもここまでが楽過ぎて、逆に不安なのニャ。クリスタと一緒でこんなに楽なのは、今までになかったのニャ」


 ミーニャさん、よっぽど酷い目にあっているようだ。

 冗談という感じでは無い。

 クリスタさんはいつも通りの表情で頷いた。


「エイダンさんとジョンさんが優秀なおかげですね。普通の攻略をすれば、入口から最初の分岐までで1日、ここまで1日かかっても不思議ではないですから」


「この後もこんな感じで終わって欲しいのニャ。で、穴の向こうはどうなのニャ?」


「アークスケルトンが5体。穴の出口の左右で2体が待ち構えていて、その後ろに3体が控えている状態です」


 つまり穴を通ると同時に戦闘になるという事のようだ。

 それって結構、危険な状態なのではないだろうか。

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