第55話 はじめてのスケルトンと間違った常識
「そこからが本番なのかニャ、クリスタ」
俺は戻るべきだと思う。しかしミーニャさんにとってはそうではないようだ。
そして今の時点までのこの廃坑探索、考えてみれば順調過ぎた。
ミーニャさんが散々警告したような事態と比べて。
「ええ、そのようです。ただ先はそう長くはないでしょう。その見えない部分のそう遠くない場所に、この事態を引き起こした元になる何かがある。つまりあと一息で、ここの問題は解決するか、少なくとも原因の手がかりがつかめるだろう。そう私は予想しています」
何となく前世にこういうパターンがあった気がする。
甘い見通しで突っ込んだあげく、死屍累々と言う状況が。
もちろん前世の場合は実際に死者が出た訳では無い。
廃人と退職者は出たけれど。
「まだ先が見えないので、撤退すべきという判断はしません。もう少し先、第12採掘坑分岐まで行ってみましょう。スケルトン数匹程度なら問題無いですね」
「大丈夫ニャ。あとジョン、弓でスケルトンを狙う場合は、背骨の下にある広がっている骨を狙うのニャ。そこを砕けばスケルトンは立てなくなるニャ。背骨を砕いても動けニャくなるが、細くて狙いにくいニャ。頭蓋骨を割っても動きが止まるのニャが、弓では多分無理ニャ。それ以外の部分は大体折れても割っても、スケルトンは気にせず動くのニャ」
そう言えばそんな事が教本に書いてあった気がする。
だからスケルトンが出た時は、基本的に光か聖属性魔法で倒せとも。
念の為ミーニャさんに聞いてみる。
「此処までと同じように、雷魔法で倒していきましょうか」
「エイダンの魔法は温存しておいた方がいい気がするニャ。それにスケルトンなら十数体程度出ても問題無いのニャ」
ミーニャさんにとっては問題無いと。
「ここからは隊列を変えましょう。先頭はミーニャさんのままで、二番目はジョンさんでお願いします。次がエイダンさんで、私が最後に行きます。この隊列で第12採掘坑分岐まで進みましょう」
とりあえず第12採掘坑との分岐までなら大丈夫な筈だ。
そこまでなら俺の魔力探知と透視魔法で見えている。
万が一奥、見えない部分から何か出てきても、クリスタさんの魔法で脱出は出来るだろう。
だから多分、問題無い。
「わかったニャ。念のためスケルトン以外が見えた時はエイダン、教えて欲しいのニャ。そしてジョンは必要とあれば弓を射って欲しいのニャ。こっちに判断を求める必要は無いのニャ」
「わかりました」
「では行くニャ」
ミーニャさんは先程よりゆっくりと歩き始める。
ジョンも弓を左手に持ち、いつでも射る事が可能な状態だ。
俺はこの坑道が終わって先が見えない地点を、魔力探知と遠視魔法で監視しながら歩いている。
何かが出てきたらすぐわかるように。
更に並列思考を使って前方、見える範囲に対して魔力探知をかけている。
何か不明な魔物その他が出てもすぐわかるように。
このくらいなら魔力の消費と魔力の回復がほぼ同程度。
だから問題は無い。
一歩ずつ歩いて行く。
そして、前方からカツカツという足音が聞こえ始めた。
こちらの照明魔法に気づいて、スケルトンが近づいてきている足音だ。
まだ視界に入らないが、魔力反応でわかる。
「ここで止まるニャ。私は10mを切ってから動くニャ。それまではジョンに任せたニャ」
「わかりました」
ジョンが一歩左に出た。
右手は既に背負った矢筒から矢を抜いている。
50m程度の距離でスケルトンが視界に入った。
骨だけの身体に片手剣を装備した、教本に載っているのと同じ標準タイプのスケルトンだ。
それが2体、人間なら早歩き程度の速さで接近してくる。
これだとミーニャさんと戦闘になるまであと10秒もないな。
そう思った瞬間だった。
ジョンの腕が動いた。
1秒もかからずに2射して、さらに矢を1本つがえた姿勢でそのまま手を止める。
まずは右のスケルトンが崩れ落ちるように倒れた。
一歩先で左のスケルトンも同様に崩れる。
「とどめを刺してくるニャ」
ミーニャさんがダッシュした。
高速移動魔法を使ったかのような加速で崩れたスケルトンに接近し、低く飛びながら蹴りを放つ。
バリッ、バリバリッ。
そんな音が響いた後。
ミーニャさんはこっちを振り向いた。
「終わりニャ。魔石の回収は頼むニャ」
「わかりました」
クリスタさんが魔法を起動した。
多分転送魔法だろう。
それにしてもだ。
「あの速さで動いている敵の、あんな狭い部位を狙えるんだな」
「飛んでいる鳥を狙うよりは楽だ」
いや、ちょっと待って欲しい。
「飛んでいる鳥って弓で狙って落とせるものなのか?」
「ヒヨドリ程度なら難しくは無い。それに鴨が集団で飛んでいたりする場合は速射が出来ないと獲物を取り逃がしてしまう」
そう言えば昨日、ミーニャさんが言っていたなと思い出す。
『普通の弓使いは飛んでいるバットを速射で討伐、なんて事は出来ないのニャ』
やっぱり何かおかしい気がする。
冒険者で弓使いならそれくらい当然、という事ではなさそうだ。
この場合、誰に聞けば一番正しい答が返ってくるのだろうか。
ミーニャさんのさっきのダッシュも、常識とは少し違った気がするし。
ここはクリスタさんに聞いてみるのが正しいだろう。
「冒険者の弓使いって、こんな事が普通に出来るものなんですか?」
クリスタさんは首を横に振る。
「ジョンさんの弓の腕は、現時点で既に現役冒険者の中でもかなり上位の方です。そもそも普通の弓使いは鳥を狙う場合、どこかに止まっている状態を狙います。飛んでいる状態を速射で仕留めるというのは、少なくとも私の知識では一般的ではありません」
どうやら俺の常識は間違っていなかったようだ。
そう思ったところで、ジョンの呟きが聞こえた。
「そうだったのか……。俺は鳥は飛んでいるところを狙うものだと信じていたんだが……」
「ヘンリーが英才教育を施したのでしょう。速射と狙撃が高いレベルで両立できれば、討伐任務の際に圧倒的に有利になりますから」
村には他に狩人はいないし、冒険者も滅多にこない。
田舎とは言え平野部の中心で、魔獣や大型獣が出るような環境ではないから。
だから『その狩りは普通じゃない」と指摘するような同業者もいない訳だ。
結果、ジョンは普通ではないやり方を常識とうけとめ、実際には英才教育状態で弓をマスターしたのだろう。
でもそれなら、槍の腕も……
「ジョン、参考までに聞くけれどさ。槍の腕も同じ位じゃないよな」
「いや、槍は普通だと思う。少なくともミーニャさんのように、槍が届かないところにいる敵まで落とすなんて事は出来ない」
いや、届かないところにいる敵を落とす事自体、そもそもおかしい。
こまった時はという事で、クリスタさんを見る。
「あの技が使えるのは、B級以上の冒険者でもごく限られた者だけです。そもそも近接戦闘について、ミーニャを基準にしてはいけません」
「大したことは無いのニャ。そこそこ程度の奥義が使える程度なのニャ」
「槍でも剣でも無手格闘でも奥義が使える、なんてのはミーニャくらいです。ですから参考にしないで下さい。なおジョンさんの槍の腕については、後でミーニャ相手に訓練して貰うつもりです。そうすればどれくらいのレベルか、今後どう鍛えればいいかがわかるでしょうから」
ミーニャさん、やっぱり相当な実力者のようだ。
そしてクリスタさん、そこまで考慮済みという事か。
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