第54話 見えない、その先
目が覚めた。
周囲が暗いのでまだ夜かと思ったが、よく考えると明るくなる訳はない。
穴の中なのだから。
時間確認魔法を起動、朝4時ちょっと前。
最近は毎朝、夜明け前に砂浜で舌平目拾いをするのが日課だ。
だからこの時間に起きてしまったのだろう。
起きるのは五時予定だから、まだ早過ぎる。
なのでここは邪道だが、前世でお世話になった短時間睡眠魔法を使おう。
疲れすぎているときは往々にして眠れなくなる。
それでも眠った場合、時間通り起きる事が出来なくなる。
そんな時に便利な魔法がこれだ。
やっと修理が終わった現場の機械室の隙間のような空間でも、報告書を書き終わった後の事務所の硬い床でも、この魔法を使えばきっちり設定時間だけ寝ることが可能だ。
しかも眠った事により、疲れが完全に取れた気になる事が出来る。
実際に身体がどれくらい消耗しているかは別として。
さて、5時起床ならちょうど1時間寝ればいいだろう。
という事で魔法を起動。
◇◇◇
意識が戻ったところで、時間確認魔法を起動。
朝5時ちょっと前。起床していいだろう。
ただついでだから身支度もベッドの上で済ませておこう。
身体洗浄魔法を起動する。
これはどんな場所にいようと、どんな姿勢だろうと、風呂&歯磨き&整髪が出来てしまうという便利魔法だ。
ただこれを使いすぎるのは問題だったりする。
たとえウン十連勤で、かつここ数週間家に帰っていなくても、先程の短時間睡眠魔法とあわせれば、朝はすっきりさっぱりしてしまう。
だから周りにボロボロ状態だと理解して貰えないのだ。
結果、ある日ばったりと……
いや、この世界にはもう関係ないことだ。
だから気にする必要はない。
ささっとベッドで服を着替えて準備はOK 。
そう思ったところでカーテンの向こうが明るくなった。
クリスタさんが起床して、照明魔法を起動したのだろう。
梯子を下りて、仕切っているカーテンに触れないようにして、テーブルがある方へ移動する。
それでは朝食を出すとしよう。
冒険者ギルドの用意した朝食は、
○ 分厚いベーコンエッグ
○ レタス、トマト、キュウリ、マッシュポテトのサラダ
○ 野菜スープ
○ パン
という、過不足ない食事。
しかしミーニャさんは魚を欲しがるだろう。
だから小魚のフライも出しておく。
「
ミーニャさんが起きたようだ。
◇◇◇
重野営セットを
昨日と同じ隊列で歩き始めて30分程度経過し、第10採掘坑との分岐直前まで来たところで。
俺の魔力探知と透視魔法が今までと違う状態を捉えた。
「この先、第11採掘坑との分岐を過ぎた辺りから、一気に周囲の
「スケルトンだけならそう怖くはないのニャ。でもダンジョンでも遺跡でもないのにスケルトンが出てくるのは変なのニャ」
確かにミーニャさんの言う通りだ。
「ええ。おそらく奥に何かあります。洞窟の外に流れている水にアンデッド系の汚染が見られたのと同じ原因でしょう。
一度ここで止まりましょう。エイダンさん、見える範囲ぎりぎりまで先を確認していただけますか」
「わかりました」
俺の透視魔法はその気になれば、余裕で数キロ先まで見ることが出来る。
そこまで行くと透視魔法というより遠視魔法になるけれど。
この2つの魔法はどちらも空間を短絡して先を見るという意味では同じ魔法。
だから名称以外の違いはそれほど無かったりする。
少なくとも俺の認識では。
本当はこういった探索にではなく、水中のどの辺に魚がいるかを探すのに使いたい魔法だ。
でもまあ、今は仕方ないから先を確認。
「第11採掘坑分岐の先から、概ね80mおきに2体か3体ずつスケルトンがいるのは、さっき報告した通りです。
第11採掘坑には魔物なし。第12採掘坑にはゾンビバットが30匹程度。
第12採掘坑分岐から先、80mのところでこの坑道は終わっています。略図より少しだけ長くなっていますが、他は略図の通りです」
そこまでは魔力探知と透視魔法で問題無く見えている。
問題はその先だ。
「その先、本来なら坑道が終わるはずの所に穴が開いています。そこから先に進めるようですが、
そう、
こんな反応は俺にとって、前世あわせても初めてだ。
ただ他にわかる事はひとつだけある。
「見えないですが、その先にかなり大きな魔力反応があるように感じます」
神殿の超大型自動祈祷装置並か、それ以上。
そう言いそうになってまずいと思って、俺は口をつぐむ。
この世界では俺はあくまで冒険者としてやっていくつもりだ。
だからそういった事は言わない方がいい。
「大きい魔力反応って、スケルトンが一杯いるという感じかニャ」
いや違う、ミーニャさん。
「スケルトンでは何体集まってもこんな反応にはならないと思います。遙かに強力な魔物か、もしくは
そう、俺の知識では何があるのかわからない。
ただ言えるのは、近づきたくないという事だ。
はっきり言ってここまでの魔力反応、もう俺は危険としか感じない。
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