第56話 第12採掘坑

 スケルトンを合計10体を倒し、第12採掘坑との分岐まで来た。


「エイダンさん、今現在、先はどのように見えているでしょうか」


 俺の透視魔法と魔力探知で見える状況は、今までとそう変わらない。


「この先60mで坑道が終わるところまでは敵はいません。その先、そこにある穴の先はやはり見えません。穴の大きさは高さ2m、幅1m程。強大な魔力を感じるところは先程と同じです」


 この坑道にいたスケルトンは全て、こっちに寄ってきたから倒した。

 だからもうスケルトンはいない。


 しかし問題はまだ見えない穴の向こう側だ。

 見えないのは距離的な問題ではない。

 俺の魔法を阻む何かがあるようだ。


 一方、こちらの方は単純だ。


「第12採掘坑は、ここから60m続いています。ここから20m先からは天井にゾンビバットが合計32匹ついています。それ以外には特に変わったところは見当たりません」


「わかりました。それでは第12採掘坑の方を片付けてしまいましょう。

 この後にそれなりの活動が待っているようなので、時間と体力を節約しましょう。第12採掘坑には全員で入ってさっさと片づけます。私が強制冷却魔法をかけますので、動きが鈍ったバットをミーニャさんとジョンさんで片づけてください」


「わかりました」


 今度は俺の出番は無さそうだ。


「それでは行くニャ」


 今までと同じ隊列で先へ。

 第12採掘坑はやや上り坂でまっすぐ。そして少し先の天井に黒いのがくっついているのが見える。


「ではゾンビバットに強制冷却魔法をかけます」


 すっ、と魔力が流れたのを感じた。

 ゾンビバットの魔力反応が一気に低下する。


「まずは私が連続攻撃をかけるニャ。漏れたのの始末を頼むニャ」


「わかりました」


 無手のミーニャさんと、槍を持ったジョンが前に出る。


「衝撃拳連打ニャ」


 ダダダダダダッツ!

 そんな感じの連続音が響き渡った。

 天井についていた蝙蝠が落ちていく。


 どうやら拳で衝撃波を放つ技のようだ。

 魔法無しの拳で衝撃波を放つとか、それでで30m位先のバットをたたき落とせるなんて、冗談としか思えない。

 やっぱりミーニャさん、チートだ。

 

 バットの大部分は床に落ちた後、そのまま動かなくなった 

 しかし一部は弱々しくも羽ばたいて、こちらに飛んで来ようとする。


「あとは任せたニャ」


「はい」


 ジョンの槍が飛んでくるバットを的確に突く。

 6匹ほどのバットが槍を受けて床に落ちた。

 更にジョンはゆっくり歩いて、まだ動いているバットにとどめをさしていく。


 魔力反応を見て、そして俺はジョンに声をかけた。


「それで終わりだ。生きている反応は無くなった」


「わかった。ありがとう」


「それでは回収します」


 クリスタさんの声とともにゾンビバットの死骸が消えた。

 転送魔法で魔法収納アイテムボックスに収納したのだろう。


「エイダンさん、これで第12採掘抗の方は終わりでしょうか」


 俺に聞かなくてもクリスタさんにはわかっているだろう。

 だがこの討伐は訓練を兼ねている。

 それがわかっているから俺は素直に答える。


「ええ、もう残っていません」


「それでは分岐に戻って休憩しましょう」


 時間確認魔法によると、今の時間は午前9時35分。

 6時に起きて6時30分には探索を開始したから、確かにそろそろ休憩にはいい時間だろう。


 分岐の場所には外に繋がる通風口も開いている。

 だからか何となく空気がいい感じだ。

 例によってテーブルと椅子を出して、今度は間食用のおにぎりを出す。


「こっちは塩味の魚、こっちは甘く焼いた魚が入っています」


 食べる前におにぎりの中身の説明をしておく。

 なおこの説明はジョン用だ。

 クリスタさんは自分で中身を見る事が出来るだろうし、ミーニャさんは両方とも食べるだろうから。


 なお本当は、海苔と呼ばれる海藻加工物で飯の周りを巻いてあるのが正しいおにぎりらしい。

 しかし海苔はドーソンの店で売っていなかった。

 だからこのおにぎりは中におかずを入れ、御飯を握っただけのものだ。


 それでも普通の御飯より食べやすいだろう。

 だから間食用には以降これを使う予定。


「いただくのニャ」


 ミーニャさんが真っ先に口に運ぶのは予想通り。

 それはそれとして、俺はここで聞きたい事がある。


「クリスタさん、この洞窟の終点より先に何があるかわかったでしょうか?」


 俺には見えていなくともクリスタさんには見えている可能性がある。

 案の定、クリスタさんから返答があった。


「水の気配がします。おそらくは地中湖です」


 えっ!?

 予想外の言葉に、思わず確認してしまう。


「地中湖ですか?」


 クリスタさんは頷いた。


「その通りです。地下水が溜まった湖が有り、 そこに魔物がいるようです。ですのでスケルトンの他、水中の魔物とも戦う可能性があると思って下さい」


「スケルトンもいるんですか」


 これはジョンだ。


「ええ。スケルトン類が主でしょう。この坑道に出てきているスケルトンは、穴の向こう側から出てきたと考えるのが自然です」


 なるほど。


「つまり穴の向こう側はスケルトンがわんさかいて、それがこっちに出てきたという事かニャ」


 ミーニャさん、わんさかなんて表現を使わないでくれ。

 おにぎり3個目を食べながらで、緊張感はないのだけれど。


「ええ。それなりの数がいると思われます。透視魔法で見えないのは、魔法陣や魔術式、儀式魔術などで内部を特殊空間にしているからでしょう。ここから観察すると、僅かながらそういった魔力を感じますので」


「ニャらそれを倒して仕掛けを消せば、この件は終わりかニャ。あとエイダン、お代わりニャ」


 おにぎりを追加で2個出しつつ、クリスタさんに尋ねる。


「終わりといっても、敵を全部倒してからでないとそういった処理はしにくいですよね」


「ええ。まずはあの穴の奥、地底湖がある空間にいる敵を全滅させる必要があります。ただこの調子でいけば、今日中には解決まで持って行けるかもしれません」


 いや、下手に焦らない方がいい。

 焦ると事故の元だ。

 前世で何度もヤバい事態に遭遇した俺は、そう思うのだが……


「そうなってくれれば正直なところ嬉しいです。これでもエルフなので、緑も太陽の光もない場所にいるのは少々辛いのですよ。ですからさっさと終わってくれると助かります。初心者講習生のピックアップ作業にも1日早く戻れますから」


 確かにエルフの特性としてはそんな事があるかもしれない。

 ただ、だからと言ってここで作業を急ぐのは危険だと思うのだ。 


「ですが、いきなり穴の向こうへ向かうのは流石に危険です。ですから偵察用に妖精を飛ばそうと思います。そうすれば穴の向こう側について、具体的にわかりますから」 

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