第42話 今日の討伐の終わりに

 そして、午後4時過ぎ。本日7か所目の釣り場。

 トリック仕掛け&投げサビキでも釣れなくなってきた。


「そろそろここもさかニャ」は終わりかニャ」


 ミーニャさんがそう言うと。


「そんな感じです」


 ジョンもそう返す。

 そんな状態だ。


 全くいないという事はない。

 まだ底の方に幾つか反応はあるのだ。

 しかし餌を底に垂らしても寄ってこない。

 ならばだ。


「それじゃ最後に、少し効率は悪いですけれど、動く獲物を追いかける習性がある魚用の仕掛けを試してみます」


 そう、ルアーだ。

 今日は1匹でも多く討伐する事を目的にしていたから、使う暇がなかった。

 しかし他の方法で釣れなくなっているし、時間的にもう最後。

 だからやってみてもいいだろう。


「どんな仕掛けなんだ?」


「これだ」


 作ったルアーの中で、一番小魚に近いタイプを出す。

 8㎝位の銀色と黒のシンキングミノーだ。


「魚を模した餌か?」


「ああ。これを水中で動かして、動く獲物に反応する魚を狙う」


 魔力反応で居場所はわかっている。

 だからその前を通りそうなルートを考え、風魔法を併用して目的の場所まで軽く投入。


 あとは底ぎりぎりを泳ぐような速度でだだ巻きリトリーブ

 透視魔法が使えるから、障害物をぎりぎり避けて泳がせるなんてのも簡単。

 幾つかある魔力反応の前を通して……


 よし、追いかけてきた。

 透視魔法でタイミングを伺いつつ、少しだけ巻く速度を落とす。

 食いついた瞬間、竿を引いて針をかけフッキングさせる。


 よし!


「ヒット!」


 手応えはかなり重く感じる。

 岩や流木等の障害物に引っかかったかと思う位だ。


 しかし透視魔法で魚がかかっているのが見えている。

 魔力反応があるので魔魚に間違いないとも。


 それに昨日お試しで釣ったスズキよりは引きが弱い。

 だから強気で引っ張らせて貰う。


 竿を上げて魚を寄せ、下げつつ一気に巻いて、竿を上げてを繰り返して魚を手前へ。

 水面上に出た瞬間に冷却魔法を放って、動きを止める。


 全長40cmくらい。今日、他の場所でウキ釣りで釣ったものより大きい。

 魔魚カンディルーとしては最大級ではないだろうか。


「面白そうなのニャ。やってみていいかニャ」


 透視魔法と転送魔法があれば、障害物にルアーがひっかかっても問題はない。

 だからここで2人にも試して貰うとしよう。


「それじゃまずはミーニャさん、どうぞ」


 竿ごと仕掛けを渡す。


「ありがとニャ。ニャげ方はさっきの、ウキ付きとおなじニャから……」


 ◇◇◇


 3人、交代で合計30投してみた。

 ミーニャさんもジョンもなかなか上手い。

 2人ともキャストミスは10回中3回ずつだけ。

 

 そして餌で釣れない大型カンディルー、ルアーには弱かった。

 結果、ミーニャさんが1匹、ジョンも1匹、そして俺は3匹釣り上げる事に成功した。


 俺は透視魔法で魔魚の居場所や水中の状況が見える。

 風魔法や水流魔法で投げる場所を調整する事も可能だ。


 その俺が3匹で、それら魔法を一切使っていないミーニャさんやジョンが1匹ずつ釣れている。

 これは結構凄い事ではないだろうか。


「こっちの方が面白いのニャ。ただ討伐として考えると効率は悪いのニャ」


「確かに小さいのも大きいのも同じ報酬ですからね。それじゃそろそろ終わりにして、帰りましょうか」


「そうなのニャ。あと今晩も当然、さかニャパーティなのニャ」


「はいはい。ジョンも来るだろ、夕食。この大きいのはまた別の料理が試せそうだからさ」


「いいのか」


「3人で釣った魚だからさ、問題無いだろ」


 魔魚カンディルーの大きいのはナマズっぽい形だった。

 なら前世にあった、ナマズ丼を作れるかもしれない。

 捌いた身を蒲焼きにして、白御飯の上にのせて、つゆをかけた料理だ。


 作り方はだいたい覚えているし、透視魔法と転送魔法を使えばさばくのも簡単だ。

 そして蒲焼きサイズの大型カンディルーもウキ釣りとルアーで9匹は確保している。


 いや、全部蒲焼きというのも面白くないか。

 骨を取った後にたっぷりの油で揚げて、青マンゴーとソースで食べるヤプドフーもいいかもしれない。

 帰りに青マンゴーとライム、適当なナッツを買って帰ろう。


「それならさっさと帰って、料理なのニャ!」


「その前に冒険者ギルドに寄りますけれどね」


「それは仕方ないのニャ」


 いや、仕方ないというのとはちょっと違う気がする。

 一応これは討伐依頼なのだし。


「それじゃドーソンの南門まで収納しますよ」


「楽でいいのニャ」


 何だかな、そう思いつつミーニャさんとジョンを魔法収納アイテムボックスして、そして俺は走り始める。


 ◇◇◇


 冒険者ギルドに入って、そのまま受付をスルーして面談室へ。


「それでは冒険者証を預かるのニャ。討伐証明はさかニャそのままで出しても、魔石でもいいけれどどうするニャ」


 まずは冒険者証を出す。


「討伐証明は魔石でお願いします。ただごくごく小さいものもありますから、これで」


 即席だが魔法収納アイテムボックス内で鉄製の箱を作っておいた。

 何せメダカサイズの魔魚カンディルーの魔石は、直径2mm程度と小さい。

 それでも1匹750円以上だから、無くさないように。


 本当はもっと軽い素材で作りたかった。

 しかし魔法収納アイテムボックス内にある素材では、鉄が一番手っ取り早かった。

 木材だと隙間に小さい魔石が入ってしまうと面倒だし、この程度のものに木炭由来魔法加工物質カーボンを使うのも何だし。


「ありがとニャ。それでは計算してくるニャ」


 ミーニャさんはそういうと事務室方向へと消える。


「そういえばあれ、何匹分あったんだ?」


「1,000匹ちょっとだ。一応数えてはいたんだが、途中で幾つか数え忘れた気がする」


 魔法収納アイテムボックス魔法も万能ではない。

 同じような、それでいて明らかに違う大きさのものがあると、別のものとして整理されてしまうのだ。


 同じ場所に入れて、魔法で数を数えてみても、

  〇 直径2mm~2.5mmの魔魚カンディルーの魔石 497個

  〇 直径2.5mm~3mmの魔魚カンディルーの魔石 354個

  〇 直径……

という感じで分けられてしまう。

 

 だから正確に知るには、それらを足し算して求めなければならない。

 流石に足し算が幾つもあると、暗算でやるのは面倒だ。

 かといっていちいち紙とペンを出して計算するのも……

 

 という事で、『だいたいこれくらい』しか把握していなかったりする。

 それでも相手がミーニャさんやクリスタさんなら、数を誤魔化すことはないだろう。

 だからきっと問題無い。


「あと今日の昼食や装備でかかった金額は、ちゃんと請求して三人で分けてくれよな。その辺はなあなあにしたくないからさ。エイダンが自作で作ったものは、材料費に手間賃を加えた金額で」


 うーむ、それはちょっと難しい。


「今日の昼食は魚の他は、以前ミーニャさんが持ってきた野菜や米や調味料を使っているからさ。金額がよくわからないんだ。俺としてはミーニャさんからの貰い物だし、ミーニャさん自身が一番食べるから、これでいいかと思うんだが」


「……確かにそれは難しいな。それじゃ取り敢えず、食事代についてはそれでいいか。それじゃ装備、竿とかあの仕掛けとかはどうなんだ」


 これもまた難しい。


「あれは俺の趣味の道具を兼ねている。ついでに言うと材料費は例によってかかっていない。その辺の流木や砂から作っているから。ついでに言うと、少なくともドーソンでは同じような道具を売っていない。だから参考価格も出せない。強いて言えば糸だけは買ったな。200mで1,200円のを」


 ジョン、渋い顔になる。


「何というか、会計的には無茶苦茶微妙かつ難しいな。本当は全て均等にして人数割りか、パーティ共有費から出すべきなんだが」


「今回はこんな感じだから、まあいいんじゃないか。実際俺自身は金を使っている訳じゃないから」


「まあ、そうするか。実は此処へ来る前に親父に言われていたんだ。パーティ内の金銭管理はこれでもかという位わかりやすくきっちりとしておけってさ。特にD級とかE級あたりのパーティだと、金銭関係でも問題が起きて解散するなんてのが多いらしいから」


 なるほど。


「そういう事もある訳か」


「C級以上だと割とお金持っているし、気にならないのかもしれないけれどさ」


 ジョンはそう言って、一拍おいてまた口を開く。 


「あともう一つ気になっている事があるんだ。今日の討伐、俺がD級としてふさわしいかどうかの試験も兼ねていた筈だよな。でもそんな試験ぽい事、全然していない気がするんだけれど」

 

 あっ! それは……


■■■■■

※ 骨を取った後にたっぷりの油で揚げて、青マンゴーとソースで食べる

  わかる人にはわかると思いますが、タイ料理のヤムプラードゥックフーです。

  正確には『骨を取ってほぐしたナマズの身をカリカリに揚げて、青マンゴーと甘すっぱ辛いソースをかけて食べる料理です。

  魚が原型をとどめていないですし、見た目ではこれが魚料理だともわかりません。揚げ玉みたいな感じですから。でも美味しいです。

  ただこれ、日本のタイ料理店で見たことがない気がします。

  もちろんある所にはあるのでしょうけれど……

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