第43話 廃坑調査依頼の受領

 まさかミーニャさん、魚に気を取られて、その辺をすっかり忘れていたって事はないよな。


 ミーニャさん、ここ数日の言動から、C級冒険者としてそれなりにしっかりしている点見えてきた。

 それでも俺が知っているミーニャさんは、大食い駄猫部分の方が多い。


 なのでとっさにその辺をカバーできる言葉を口に出せない。

 そんな事は無いよとか、ああ見えてちゃんと考えているんだよとか。

 

 どうすべきか。そう思った時だった。


「ご心配なく。ミーニャから確認事項の報告は受けました。判断に充分な内容を把握出来たと認めます」


 声とともにクリスタさんが出現する。


「えっ!」


 ジョンの1オクターブ高い声。

 そりゃ何もない場所にいきなり出現されたら、普通の人は驚くだろう。

 俺はもう慣れているけれど。

  

「よくある瞬間移動魔法です。あまり気にしないで下さい」


 いや、そんな魔法、よくある筈はない。

 この辺は後でジョンに解説する必要があるだろう。

 今はまあ、なあなあで任せることにして。


「体力面については、既に冒険者講習での資料があります。ですからミーニャに確認させたのは、それ以外の冒険者としての資質に対してです」


 具体的にはどんなところだろう。

 俺にはそんな部分を観察しているようには見えなかったのだが。

 そう思いつつクリスタさんの言葉に耳を傾ける。


「今回は釣り、それもあまり一般的ではないやり方で討伐をしたようです。確かにジョンさんも一回、半日ほどこの討伐をやって事はあるでしょう。しかし今回はその時と比べても更に特殊な方法を使ったようだ。そうミーニャは報告しています」


 ミーニャさん、どうやらきちんと報告をしているようだ。

 クリスタさんの説明は更に続く。


「そしてどの方法にも、ジョンさんはすぐにそのやり方に慣れたようです。特殊な道具を使って仕掛けを決まった位置に投げる動作についても、エイダンさんの動作を観察し、すぐに出来るようになったと報告を受けています。

 そして最後に、魚の偽物を使って魔魚をおびき出す方法。その時に的確に魔魚のいそうな場所を見極め、適切な場所へと仕掛けを飛ばして動かす。そういった事もあっさりとこなしていたと、ミーニャは報告しました」


 訂正だ。

 ミーニャさん、しっかり観察しているし報告も的確だ。

 ただの大食いの駄猫という訳じゃない。


「以上の事からミーニャは、ジョンさんを、近距離だけで無く中遠距離で力を発揮する戦士として、充分な能力があると認めました。その上で力で押して戦うのではなく、状況と相手を観察して、その場にあった動きをするタイプだと。

 以上をもちまして、当冒険者ギルドはジョンさんをD級冒険者にふさわしいと認めます。新しい冒険者証はミーニャが現在作っていますので、もう少しお待ち下さい」


 うーむ。ミーニャさんに対する俺の印象が大分変わった。

 食意地が張ってはいるけれど、冒険者ギルド職員としてはきっと有能だ。

 

「冒険者証が来る前に、討伐報酬の話をしておきます。魔魚カンディルーの魔石は1,017匹分ありました。これに3人分の日当6万円を加え、報酬合計は145万5,600円となります。1名あたりは48万5,200円です」


 よし、それなりに金を稼ぐことが出来た。

 ジョンもこれで冒険者ギルドから出て部屋を借りる事が出来るだろう。

 

「それぞれ現金で支払う事も可能ですし、一部または全部を商業ギルドの通帳に入れる事も可能です。エイダンさんのように魔法収納アイテムボックスを使えないならば、10万円以上は持ち歩いたり家に保管したりしない事をおすすめします……」


 そんな感じでギルド共通預金の手続きをしたところで。

 

「失礼するニャ」


 ミーニャさんが戻ってきた。


「まずは冒険者証を返すニャ。あとジョンは記載事項が間違っていないか、確認して欲しいのニャ。あとエイダンの冒険者証も、今回の実績を加えてあるニャ」


 確認して見る。

 冒険者証の表記そのものには何も変更はない。

 実績を書き加えたのは内部的なもののようだ。


「さて、それでは全員揃いましたので、次の依頼の話に移りましょう。明後日、18日火曜日から2泊3日のつもりで計画しています。まず日程的なものはそれで問題無いでしょうか」


「ええ、問題ありません」


「はい、大丈夫です」


 ジョンと俺が返答する。


「ありがとうございます。この討伐はエイダンさんとジョンさん、そして当ギルドから私とミーニャが参加します」


 やはりミーニャさんの言った通りだった。

 そしてクリスタさんが参加するとなると、それなりにきついものとなる可能性が高い。


「それでは依頼の内容について説明します……」


 この辺は以前聞いた内容とほとんど同じだった。

 準備は冒険者ギルド側が行い、18日火曜日朝7時30分に冒険者ギルドにて俺が積み込み、という内容もほぼ同じだ。


 ただし廃坑についての情報が少し詳しく説明された。

 廃坑当時の地図による内部構造とか、廃坑周辺で確認された魔物とか、この廃坑の調査状況とか。


「カサクラ廃坑はメインの坑道が入口から第12採掘坑の少し先までの2km。第1採掘坑から第12採掘坑があわせて0.7km、かつてのドワーフの居住坑が100m程。総延長3km、その他あわせて約3km程の坑道となります。概ねこの略図の通りです」


 略図は3枚組だ。

 1枚目は入口部分からこの分岐、そしてこの先、第4採掘坑分岐までの本坑と、今俺がいる場所から分岐するドワーフの居住区・生活関連施設部分、同じくここから分岐する初期坑道、そして第1採掘坑から第4採掘坑までの坑道が記載されている。


 同様に2枚目は第4採掘坑分岐から第8採掘坑分岐までの本抗と、第5採掘坑~第8採掘坑までの坑道。

 3枚目は第8採掘坑分岐から第12採掘坑分岐までの本抗と、第9採掘坑~第12採掘坑までの坑道が記載されている。


「この略図では直線になっていますが、実際は本坑は入口側から見てゆるく右側に弧を描く形になっています。地図で見るとこのような形です。

 また内部はこの略図の通り、採掘坑が150mごと、通気坑兼脱出坑が450mごとに設置されています」


 山の中を、地上からある程度の距離を保ちつつ、同じ標高でぐるりと半周回っているような感じだ。


「カサクラ廃坑は西岸山脈の東側麓にあります。その為魔獣も魔物も多いですが現在までの所、特に変わった魔獣や魔物が出たという情報は入っておりません。ただし冒険者が滅多に行き来しない場所なので、情報が少ないことも事実です」

 

 つまり特殊な魔物はいないだろうという情報と、そもそも情報が少ないから宛てに出来るか今ひとつわからないという情報。


「カサクラ廃坑は廃坑直後の昨年3月に入口付近を調査して以降、全く調査されていません。ですのでこの資料と異なる状況になっている可能性も充分にあります」


 更に、『実際の所は調べないとわからない』という状況提示。

 だからこそクリスタさん引率で調査なんてのが行われるのだろう。


 そして準備は、前に聞いた通り、ほとんど冒険者ギルドの方でやってくれるそうだ。


「エイダンさんやジョンさんが準備するものは、個人の装備のみとなります。装備といっても寝袋や食事関係等は必要ありません。武器と防具、あとはタオルや着替え等が必要ならば用意して欲しい程度です。

 それではこの依頼、エイダンさんとジョンさんは受けていただけますでしょうか」


 ミーニャさんの言っていた事が本当なら、これは地雷案件だ。

 しかしジョンも参加するとなると、参加しない訳にはいかない。

 その辺がクリスタさんの陰謀という気がしないでもないけれど。


 それに説明内容そのものは今のところ問題はみられない。

 だからここは受けるしかないだろう。


「わかりました。この依頼を受けます」


「俺も受けます」


 俺の返答を聞いてからジョンが返答した。

 俺の出方を伺っていたようだ。


「わかりました。受けていただいてありがとうございます。それでは明後日の朝7時、よろしくお願い致します」


 クリスタさんがそう言って頭を下げた。

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