第41話 午前の小休憩まで

 大分魔魚が少なくなってきて、水中が見やすくなった。

 現在主に釣れている魔魚カンディルーは全長5cm程度。

 これでも一応魔石はある。だから問題無く報酬を受け取れる筈だ。


 しかし川の中には、他にも魔力の反応がある。

 これらはもう少し大きい魔魚カンディルーだろう。

 ただしこいつら、用心深くてこちらの竿の届く範囲に近づいてこない。

 

 という事でジョンは次の作戦に移行だ。

 まだ釣れなくなっているわけではないので、ミーニャさんはもう少し小魚方面を頑張って貰うけれど。


「ジョン、それじゃ次は釣り方を変えてみる。投げサビキという方法だ。針がついている仕掛けはほぼ同じだけれど、ウキと、このリール付きの竿を使う」


「それでどう変わるんだ」


 よしよし。


「今度は」


「釣れたニャ」


 ミーニャさんの方の魚をさっと取り込んで、そして次の説明。


「今までと同じように餌をカゴに入れ、針にもつける。つけたら竿を持って、リールのこの部分、糸巻きから出ている糸を人差し指でつまんで固定し。リールのこの部分ベールをこっちへ動かす。これで糸が自由に出ていく体制になるのはわかるよな」


「ああ、大丈夫だ」


 よしよし、それでは次。


「あとはこうやって勢いをつけて、適当なところで人差し指を離してやればいい。そうすれば仕掛けが飛んでいって」


 横投げで軽く仕掛けを投げる。6m位先に着水。大体想定通りの場所だ。


この部分ベールを元に戻す。そうすればここを回せば糸を巻けるという仕組みだ。これで竿の真下でなくても狙える」


 ドラグ調整だの逆転レバーだのの説明は今はパス。

 魚が小さいので問題無いだろう。


「釣れたニャ」


 冷却魔法、収納、取り出しを半ば自動でやった後。

 そしてジョンにリール付き竿を渡す。

 

「以上だ。狙う場所はだいたい今投げた辺りで頼む」


「わかった」


「釣れたニャ」


 まだまだ順調なようだ。


 本当はこの辺りでルアーを投げて、大物がかかるか試してみたかった。

 しかし今の状態では、そんな時間的な余裕が無い。

 

 釣れた魔魚の取り込みをジョンやミーニャさんにやって貰えば、それくらいの余裕は出来ただろう。


 しかしこういった数釣りの場合、釣り上げて魚を外し、エサをつけ、仕掛けを投入する時間の短さ、釣り用語で言うと『手返しの早さ』が重要だったりする。


 だからいちばん時間がかかり、仕掛けが絡む事がある魚を外す工程を、俺の魔法収納アイテムボックスでやるのは正しい。

 魔法収納アイテムボックスでやれば、ほぼ一瞬でかかった魚だけを回収できるから。


 そして魔魚カンディルーがそこそこ溜まったので、俺は別作業の方も進めることにする。

 昼食の準備だ。


 魔法収納アイテムボックス内には、昨日、ギルドからの帰りに購入した食材がきっちり詰まっている。

 米は既に魔法収納アイテムボックスで炊き上げた。

 ミーニャさんの胃袋を想定して、7合ほど。

 

 俺は並列思考スキルを持っている。

 だから同時に幾つかの事を、考えたり行ったりする事が可能だ。

 これも前世の業務で得てしまった能力だが、あの世界の事はもう思い出したくないから理由は省略。


 そしてここで俺は並列思考を釣りと調理に使用した。

 つまりミーニャさんやジョンと釣りをしながら、魔法収納アイテムボックス内で昼食の調理をする事に。

 

 魔魚カンディルーは頭と魔石、内臓を取れば白身の美味しい魚だ。

 小さいものなら、しっかり揚げれば骨ごとバリバリ食べられる。


 素揚げもいいし、フライもいいし、天ぷらも悪くない。

 小さいのはかき揚げ風にしてもいいな。

 ついでに付け合わせの野菜もガシガシ揚げよう。


 揚げ物だけというの何だから、小さい物をくぎ煮風にしてもいいか。

 もう少し大きいものの甘露煮も。

 先程ウキ釣りで釣った大物は、蒲焼きなんてのもいいな。

 

 並列思考で釣りと料理を同時進行させつつ、ミーニャさんやジョンの様子も確認しつつ。

 そんな感じでこの釣り場で1時間。


「釣れなくなったのニャ」


「こっちもだ。どこへ投げても釣れない」


 ぴたっ、と釣れなくなった。

 

 水中にはまだ数匹程度の魔力反応がある。

 しかし多分この辺は、釣れない魚なのだろう。

 少なくとも今の方法では。


 討伐という依頼でなければ、その数匹を相手に勝負を挑みたいところだ。

 ルアーとか、別の仕掛けとかで。

 しかし依頼内容は全滅ではなく、とにかく数を減らすこと。

 ならこれ以上ここで時間をかけるべきではないだろう。


「次のポイントに移動します。近いので全員で歩いて行きます」


「了解」


「わかったニャ」


 次の場所へと移動する。


 ◇◇◇


 次の場所でも概ね同じパターンで攻略。

 やっぱり1時間で釣れなくなった。


「またこれで移動か」


「でも、そろそろお腹が空いたのニャ」


 いや、まだ早い。

 先程ダグアル村から聞こえた鐘は、午前10時のものだった。

 つまり昼食まであと2時間ある。


 ただ冒険者は活動量が多いから、その分補給をするなんて事があるかもしれない。

 そう言えば村でも朝10時と午後3時の間食があった。

 一日中農業をやっていると、食べないと動けなくなるから。


 仕方ない。

 幾つか魔法収納アイテムボックス内で出来ているうち、食べやすそうなメニューを出すとしよう。


「ジョンは米は大丈夫だよな」


 ミーニャさんには聞く必要はない。

 何度もうちで料理を食べているので把握済みだ。


「食べた事はないけれどさ。多分大丈夫だと思う」


 ならこのメニューでいこう。

 皿ひとつでしっかりボリュームを稼げるから。


 そこそこ大きくてしっかり深い皿に、炊いた白米を1合入れ、上に魔魚カンディルーのかき揚げ、ナス天、カボチャ天、シシトウ天をのせ、特製タレをかければ完成。

 

 これもバラモさんから貰ったレシピにあったものだ。

 なおレシピには『天丼のタレは濃いものより、つゆに近い程度のものが上品だ。誰が何と言おうとも』なんて、手書きで付け加えてあった。


 意味はよくわからないが、きっとレシピにも色々な流派があるのだろう。

 それではという事で、家から魔法収納アイテムボックスに入れてきたテーブルと椅子を出して、天丼を3つ置く。


「美味しそうにゃ。これは何という料理ニャ」


「天丼というそうです。漁業組合で貰ったレシピにそう書いてありました。それではどうぞ」

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