第28話 強烈なお誘い

「そんなに被害者がいるんですか?」


「元々ヘルミナ西部には、冒険者が少ないのニャ。田舎で具合がいい依頼が少ないから、仕方ないのニャ」


 ミーニャさんはそう前置きして、そして続ける。


「儲けるつもりニャら、栄えている北部に行くのニャ。戦いたいのニャら、ダンジョンや遺跡が多い北部や東部がいいのニャ。だからC級以上の冒険者のほとんどは、そういった場所に行ってしまうのニャ。残っているのは大した依頼を受けられない、D級以下の冒険者ばかりになってしまうのニャ」


 地理を勉強したから、俺もその辺の事情は理解出来る。


「だから未解決のまま残っている依頼も結構あるのニャ。ちょっと強力な魔物が数多く出た。それだけでも達成できなくなるのニャ。魔狼の群れとかゴブリンの集落、部族単位で移動しているオークなんて緊急に近い依頼でも、対処できないままだったりするのニャ」


 何か聞き覚えがある事案が混じっている気がする。

 気のせいではないだろう。


「ただあまり放っておくと、国としても冒険者ギルドとしても問題になるのニャ。結果、数少ない冒険者に何らかの理由をつけて依頼を押しつけて解決するのニャ。実績が足らない、昇級の考慮に入れる、割増し金を出す、特別な装備の便宜を図るとか名目をつけてニャ」


 なるほど、そうやってミーニャさんもかり出された訳か。

 俺も既に体験済みな気がするけれど。


「ただそういった依頼は冒険者1人で解決するようなものでない事が多いのニャ。というか通常の冒険者パーティ1つで解決出来るような事案なら、そこまで放っておかれる事はないのニャ。西部にもB級C級あわせて4パーティはいるのニャ。その辺が大体は片付けるのニャ」


 まあそうだろう。俺は頷く。


「だからそういった依頼を受けさせる際には、何かしらの名目をつけて冒険者ギルドの方からも人をつけるのニャ。そして特にヤバかったり対処が難しかったりする時に出てくるのがアレなのニャ」


 アレとは当然クリスタさんの事だろう。

 ならばという事で、ここで今の話の要旨を確認してみる。


「つまりクリスタさんが出てくるのは、解決が困難な事案の時だけ。だから一緒に行くと大抵は大変な事になる。そういう事ですね」


「その通りニャ」


 ミーニャさんはうんうんと頷いて、そして続ける。


「アレはどう考えてもB級なんてレベルではないのニャ。本当ニャらアレ一人で大概のものは片付くのニャ。でもアレは冒険者ギルド幹部として、自分で倒すより冒険者をレベルアップさせる事を優先させるのニャ。結果、地獄のような依頼が西部の、数少ないC級以上の冒険者に振られる羽目になるのニャ」


 なるほど。そういう意味でも職務に忠実な訳か。

 構図は理解出来た。


 しかしそのクリスタさん、何者なのだろう。

 ただの調査担当というのとは違う気がするのだ。

 気になるので聞いてみる。


「ところでクリスタさんって何者なんですか? ギルド本部の調査担当と本人は名乗っていましたし、エルフだというのは知っていますけれど」


「それ以上は禁則事項なのニャ。一介のギルド員でしかないミーニャの口からは言えないのニャ。言うとそれはそれは怖い目に遭う気がするのニャ。いっそ殺してくれと言いたくなるような、それはそれは惨い依頼に拉致されるのは避けたいのニャ」


 つまりミーニャさんは知っている。けれど言えないという事か。


「わかりました。それ以上聞かないことにします。でもそれなら危険な依頼が無ければ、C級試験を受けても大丈夫ですよね」


「未解決のヤバい依頼ニャんて、探さなくても転がっているものなのニャ。ドーソンの冒険者ギルドにだって幾つかあるのニャ。どんな依頼かは、守秘義務があるので私の口からは言えないニャ」


 つまりそういった依頼はまだまだドーソンの冒険者ギルドに眠っているという訳だ。

 そしてクリスタさんがその解消を狙っていてもおかしくはないと。


 ただ……

 俺は今までクリスタさんから受けた依頼を思い出す。

 どれもそこまで大変なものではなかった。

 魔魚カンディルー討伐はむしろ楽しかったくらいだ。


 いずれC級試験は受けなければならない。

 ならここで足踏みする必要はないだろう。

 

「わかりました。でもどうせC級は受けなければならないので、明日の朝、試験を受けに行こうと思います」


「わかったのニャ。ニャら明日、出勤途中にギルドの方にそう伝言しておくのニャ。そうすれば行ってすぐ試験を受けられるニャ」


 それは大変ありがたい。


「あと、もし試験の後に依頼を受けたなら、装備その他の相談は聞くニャ。ニャんなら私の装備を貸してもいいのニャ。冒険者ギルド貸与の装備よりはいいのが一応揃っているのニャ」


 ミーニャさん、親切ではあるんだよなと思う。

 年上だけれど綺麗で可愛いくてエロいし。

 ただ魚介類に対して食意地がはっているだけで。


「ありがとうございます」


「エイダンがいなくなると私の夕食が寂しくなるのニャ。ニャんなら試験を受けずにこのまま結婚でもいいのニャ。2人なら私の収入でも何とかなるのニャ」


 強烈なお誘いだ。確かにそれ、ある意味理想かもしれない。

 昼はのんびり釣りや採取活動をして。

 夕食で釣ったり捕ったりした魚や海産物を料理してミーニャさんと食べて。

 夜はしっぽり……

 まずい、この永久就職って最高かもしれない。


 しかしだ。

 俺はまだ村から出て来て半月も経っていない。

 それにミーニャさんはこれでもC級冒険者。

 ならせめて資格だけでも、並び立つくらいにはなった方がいいだろう。


「せっかくのお誘いですけれど、とりあえずはC級を受けてからにします」


「残念なのニャ」


 俺も残念だと思う。本音だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る