第8章 優雅な日々の後に

第27話 優雅な日々の後に

 前回の搬送依頼と今回の魔魚討伐、この2件でかなり儲かった。

 おかげで当分は仕事をする必要はない。

 このまま冒険者ギルドに向かわず、舌平目拾いや釣りでもやってのんびり過ごしたいところだ。


 勿論勉強はやる。C級にはなっておいた方がいいだろうから。

 しかしそれ以外の仕事関係は後回し。

 まだやっていない釣りがあるから、そっちを試しておきたい。


 そんな訳で午前中は速読魔法を使って教本を読んで、必要なところだけざっとメモをする形で勉強。


 午後は干潮時に釣り餌用のゴカイや小蟹、貝を捕ったり、それを利用して釣りをしたり。

 

 ゴカイとは表面がギザギザしているミミズのような虫だ。

 海釣りでは最上の餌の一つと前世で読んだ本に書いてあった。

 前世では釣具屋で餌として売っていたようだが、ドーソンには釣具屋なんてものはない。

 だから餌として使うには採取するしかない訳だ。


 採取方法は前世で読んだ本によるとこんな感じ。

  ① 水深1cmぐらいの泥っぽい海岸を探して、

  ② 餌の肉片を撒いて

  ③ 出てきたゴカイが肉片に噛みついたところを捕まえて

  ④ 捕まえたのと反対の手で砂を掘って捉える


 俺の場合は魔法収納アイテムボックスが使える。

 そしてカンディルー用の撒き餌で余った肉片がまだまだ大量に残っている。


 だから、やり方は少し変わって、こんな感じとなる。

  ① 以前にマテ貝掘りをした時の場所に行って

  ② カンディルー用の撒き餌をまいて

  ③ 出てきたゴカイを周囲の土ごと魔法収納アイテムボックスで確保


 こうすれば割と簡単に捕れる。


 そしてゴカイはウキ釣りにも投げ釣りにも有用な餌だ。


 ウキ釣りにも本来は色々ある。

 ウキや重りによって餌の動きや、ついばんだ際の違和感等で、釣れない事があるような敏感な魚もいる。

 そういう場合用に水と同じ重さのウキなんてのもあるくらいだ。

 少なくとも前の世界では。


 しかし此処の魚は釣りなんてのに慣れていないようだ。

 そこまで敏感な仕掛けを使う必要はない。

 だからウキは波があっても問題無くわかりやすい物でいい。

 仕掛けもウキが立つくらいの重りと、餌を刺した釣針がある、という程度のものでいい。


 そんな仕掛けを河口部の流心を狙って投げる。

 潮の満ち引きとともに浮かんで揺られつつ、餌の臭いで魚を誘う訳だ。


 この仕掛けで黒鯛やスズキの小さいのが釣れた。

 まあ30分に1匹程度のペースだけれど、のんびりウキを見るのも楽しいものだ。


 また風魔法を使える今の俺ならば、投げ釣りでとんでもなく遠方を狙う事だって可能だ。

 仕掛けはL字形の左下部分に重りがついた、通称天秤重りの先に糸と釣針が着いているというだけのもの。

 これで底にいる魚を狙うわけだ。


 ただし遠くに投げれば魚がいるという訳ではない。

 早朝なら歩けるくらいの場所に舌平目がいる、なんてのは確認済みだし。

 そうやって砂浜で投げ釣りをした場合の獲物は、舌平目の他にキスとかメゴチとか。

 1回だけ大きいヒラメがかかったけれど。


 こんな感じで午前中勉強をして、午後は暗くなるまで釣りをして。

 そして釣った魚をさばいて夕食に使うと、必ず食べる直前にミーニャさんが出現する。

 黒鯛とヒラメの刺身を、白御飯&茶漬けで食べようした時も。

 キスの天ぷらと塩焼きがいい感じに仕上がった時も。

 

 肉料理や舌平目の時はやってこない。

 それ以外の魚介類だと必ずやってくる。

 そして俺の倍食べて、そして帰って行く。


「こう毎回ごちそうになるのは申し訳無いとは思っているのニャ。でもさかニャの誘惑には耐えられないのニャ」


 一応ミーニャさんも、申し訳無いとは思っているらしい。

 なので昨日は野菜だの調味料だのを買い込んでやってきた。


「毎回いただいているばかりで申し訳ないニャ。なので少しだけれど気持ちなのニャ」


 持って来たのはトマト、大根、葱、タマネギ、ホースラデッシュ、ショウガ、ディル、フェネル、オリーブ油、バター、白ワイン。


 魚料理にちょうどいい野菜やハーブが多い気がするのは、気のせいだろうか。


 ◇◇◇


 そんな感じで、前世から見たら間違いなく、のんびりとしていて優雅な一週間を過ごした結果。

 貸与してもらっていた教本全てを速読で読破して、中身もほぼ覚えたと確信出来た。


 なので今日もやってきたミーニャさんに、スズキのカルパッチョ&バターソテー、小鯖や鰯のフライなんて夕食を食べながら聞いてみる。


「ひととおり貸与してもらった教本の内容を覚えました。ですのでC級試験を受けようと思っているのですけれど、いつ行っても受験できるのでしょうか」


「学科の方はいつ行っても大丈夫ニャ。ただし試験時間が3時間かかるから、午前なら9時前に、午後なら1時までに行った方がいいニャ。そうすれば1日で学科試験が終わるし認定もして貰えるニャ」


 流石ギルド職員だ。あっさりと答えてくれる。


「明日行って学科試験を受ければC級になれるでしょうか。実技の方は以前認定してもらっています」


「それなら学科試験だけでC級になれるニャ。ただしエイダンくらい順調に行くと、実績が足りないと言われてしまうのニャ。だからC級に昇任すると同時に、何か実績確保と実務能力の証明という事で、難しめの依頼を受けさせられてしまう可能性が高いニャ」


 そう言えば前にミーニャさんから聞いた気がする。


「C級の確認で魔狼の群れを全滅させた、って聞きましたね」


「全滅させたのじゃニャいニャ。全滅するまで戦わされたのニャ!」


 戦ったのと戦わされた・・・・・のは違うと言いたいようだ。


「そう言えばまだ事務所にアレがいるニャ。だからどんな凶悪な依頼を受ける事になるか、わかったものじゃないのニャ。何なら骨は拾ってやるのニャ」 


 骨は拾ってやるか。何というか……

 よほどの目に遭ったのは確かなようだ。

 しかし俺はそこまでC級試験の後にあるという依頼を不安に思っていない。


「なんやかんや言ってクリスタさんも、達成できない依頼は出してないんですよね。なら大丈夫ですよ」


「それはそうなのニャ。ただ私以外にもぎりぎりな目に遭っている被害者は多いニャ。というかヘルミナ西部のC級以上の冒険者はほぼ全員被害者なのニャ。だから無理はしない方がいいのニャ」


 えっ! ほぼ全員?

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