第26話 大漁だけれど、結局は……

 それでは四つ手網を仕掛けるとしよう。

 まずは網を引っ張り上げる為の支柱を岸に設置。


 この支柱からワイヤーを通して四つ手網をぶら下げる。

 このワイヤーを支柱下側に設けたリールで巻きとり、網を揚げるという仕組みだ。


 なお網を揚げたら冷却魔法で魔魚カンディルーを殺して、転送魔法で回収する。

 水中で動き回っている状態では転送魔法を使えないから仕方ない。

 まあ四つ手網漁法を試したかった結果、こうなったというのもあるけれど。


 支柱に網と繋がったワイヤーを通し、ワイヤーの網と反対側の端を支柱下に取り付けたリールに固定。

 リールと言っても釣り用の精密機器とは違い、ハンドルを回してワイヤを巻き取るだけの簡素なものだけれども。

 あとは一度リールを巻いて網を空中に上げ、ゆっくり降ろせば仕掛けは完了。


 網が水中に沈んで一分少々、水中が落ち着いたようだ。

 それでは漁を始めるとしよう。


 屠殺場で仕入れた血みどろの臓物を魔法収納アイテムボックス内で更に刻んで、そして網の上にさっと撒く。

 底に大量に沈む程には撒かない。

 網の下に魚が群れても意味がないから。


 水面が波打った。早くも魔魚カンディルーがやってきたようだ。

 思った以上に反応がいい。

 目視でもわかる位に集まり始める。


 もう少し集めよう。網の中心に再び撒き餌を投入。

 うむ、いい感じに集まった。


 それじゃという事でリールをまいて網を上へあげる。

 リールはかなり重いので身体強化魔法で腕力を強化。


 網が水面から出てきた。上でビチビチ小さいのが跳ねている。

 思い切り小さいのが網の目をすり抜けて落ちたりするのも見える。

 勿体ないが仕方ない。

 網からもれるサイズは後で釣りによって回収だ。


 完全に上がったところで冷却魔法一発。

 跳ねていた魚が動かなくなった。

 転送魔法で回収しまくった結果、最初の成果は54匹。

 それではまた網を沈めて再挑戦しよう。


 ◇◇◇


 流石に同じところで5回もやると網に入る魚も少なくなる。

 網の上まで来る魚のほとんどが、網の目をすり抜けられるサイズになってしまった。


 なら今度は釣りで挑戦だ。

 網を支柱やリールごと魔法収納アイテムボックスに回収。


 此処に魔魚カンディルーがいるか確かめる時に使った延べ竿とサビキ仕掛けを取り出して、岸から離れた水中へ。

 仕掛けの上から撒き餌を投入。魔魚カンディルーらしい魚があっさり集まる。


 すぐに竿先がビクビクと動き出した。

 明らかに水中に引っ張られたところで竿をあげる。

 5本の針のうち2つに小魚がかかっていた。

 すぐに冷却魔法で殺して、転送魔法で手元に取り寄せ、魔法収納アイテムボックスへ。


 仕掛けを投入するとすぐに反応する。

 竿を上げて魚を回収してまた投入。

 反応が無くなっても撒き餌を使えばすぐに魚が寄ってくる。


 釣れる魚は今のところ魔魚カンディルーだけだ。

 大きさはかなり小さくほとんどが全長10cmに満たない。

 ただし小さくても1匹は1匹として報酬になる。

 だから確実に釣って回収。


 魚の大きさといい仕掛けといい、前世の稚鮎釣りと同じような感じだろうか。

 餌は違うし魚も大きさ以外全然違うし、稚鮎釣りとは違って撒き餌を使っているけれど。

 そんな事を思いつつ、半ば機械的に投入→釣り上げ→回収の作業を繰り返す。


 ◇◇◇


 最初の場所で釣れなくなると移動して次のポイントを探す。

 なお二回目の場所からは四つ手網ではなくサビキ釣りのみで挑戦した。

 四つ手網を設置するのにちょうどいい場所が無かったからだ。


 餌を撒いて釣って、餌を撒いても魔魚カンディルーが群れなくなったら移動。

 これを繰り返す事6回。

 バラモさんから貰った資料にあった、魔魚カンディルーの分布場所はほぼ回りきった。


 まだまだ捕り残した魔魚カンディルーはいるだろう。

 しかしかなり数は減らした筈だ。

 最低でも1,000匹超は網で捕ったり釣ったりしている。

 

 なお魔魚から内臓と魔石を取り出す作業は自動化した。

 魔術式にして50行程の簡単なシステムを組んだのだ。

 勿論魔法収納アイテムボックス内でやっている。

 だから魔魚は新鮮なままだ。


 さて、午後3時を回ったし、ドーソンに戻るとしよう。

 冒険者ギルドで報酬を受け取らなければならないし、バラモさんにお裾分けをする必要もある。


 家で料理する時間も必要だ。

 定番はフライだろうけれど、他に何かいい料理法はあるだろうか。

 バラモさんに聞いてみればいいかもしれない。

 俺は全ての道具を魔法収納アイテムボックスに収納し、そしてドーソンに向けて走り始めた。


 ◇◇◇


 1匹あたり500円でも1,000匹を超えると流石にいい額になる。

 数多く捕れれば捕れるほど高額になるなんてシステムがそれに拍車をかけた。

 結果、冒険者ギルドで受け取った報酬は100万円超え。


「これで魔魚カンディルーによる被害も大幅に減るでしょう。お疲れ様でした」


 受付嬢モードのクリスタさんから報酬を貰った後、次に訪ねるのは漁業組合の事務所。

 勿論バラモさんにお裾分けする為だ。


 ただ魚のまま手渡したらすぐに傷みそうだ。

 だからまず、魔魚カンディルーを釣る場所を探した時に入手した流木で木箱を作った。

 この位の工作なら歩きながらでも出来る。


 この木箱の中に氷を敷き詰め、その上に魔魚カンディルーを100匹ほど並べて入れた。

 これで今日くらいは持つだろう。

 ということで組合事務所へ。

 予想通り中にいたバラモさんに手渡す。


「いいのかよ、こんなに貰って」


「ええ。まだまだ沢山ありますから。その代わりこの魔魚の調理方法を知っていたら教えていただけますか」


「数が少なきゃ頭を取ってフライ一択だがよ。これだけあると……そうさなあ、この辺だっけか」


 バラモさん、例によってファイルを漁って幾つかの紙を出してくる。


「これは小ハゼの調理法だがよ。身の質が似ているから頭以外はこれと同じように調理出来ると思うぜ」


「ありがとうございます」


 唐揚げ、南蛮漬け、焼き干し、甘辛煮等のレシピが書かれた紙をコピーさせて貰い、事務所を出る。

 帰り道で調味料やつけあわせの野菜等を購入し、帰宅。


 到着したら早速料理だ。

 大量に作っても魔法収納アイテムボックスに収納しておけばいつでも作りたて状態。

 だから一気に作りまくる。


 まずはフライから。

 頭を取って小麦粉をまぶして、魔法で180℃に熱した油でガシガシ揚げまくる。

 なお取った頭は魔法で焼いて、その後、乾燥させる。

 いい出汁が出そうな予感がするから。


 途中でつける粉を小麦粉から芋粉にチェンジ。

 こちらは南蛮漬けにも使う予定だ。ただフライにしただけ状態でも食感がちょっとサックリ固めで悪くない。


 数日間食べられるよう、大量に揚げておく。

 ついでに南蛮漬けに一緒につけるニンジンやカボチャ、タマネギも一緒に揚げまくる。


 あとは焼き干しなんてのも美味しそうに見えた。

 これは全行程を魔法で作れそうだ。

 魔法で高温にして、更に表面だけ高温にしてメイラード反応させた後、やっぱり魔法で乾燥させてやればいい。

 この状態であぶって食べても美味しいし、これを甘露煮風に甘く煮付けてもいいようだ。


 そしてこういった魚料理なら、やっぱりパンより御飯だろう。

 だから御飯も炊いておく。


 本当は前回大量に炊いて、魔法収納アイテムボックスからちびちび出して食べるつもりだった。

 しかし猫が登場して食べ尽くした結果、ストックが無い。

 だから今回こそストックできるよう、大量に炊く。 

 

 御飯が炊けたら汁も欲しくなる。

 頭を焼いて乾燥させたもので出汁をとってみた。

 うむ、なかなか上品な汁に仕上がった。

 

 それでは今日の夕食は魔魚カンディルーのフライと南蛮漬け。

 頭で取った出汁に葱を散らした汁。

 それに白い御飯でいただくとしよう。


 それではいただきます。そう思った時だった。

 トントントン、トントントン。門扉に着いたノッカーの音。


 このパターンはいい加減慣れた。

 だから夕食セットを魔法収納アイテムボックスに収納してから出よう。

 そう思った時だ。


「いい臭いがするニャ」


 すぐそばで声がした。

 リビングの窓のすぐ外にミーニャさんの顔がのぞいている。


「どうしたんですか。まだ門を開けていないのに」


「いい臭いがしたニャ。猫まっしぐらニャ」


 どうやら塀を跳び越えてやってきたようだ。

 確かに冒険者の猫獣人ならそれくらいは出来るだろう。

 油断していた俺のミスだ。


 そして猫は既に食卓上のメニューを捉えている。

 今更仕舞ってももう遅い。


 仕方ない。俺の用心が足りなかっただけだ。

 臭いが籠もるからと窓を開けて調理していたのが敗因だった。

 多分、きっと。


「良かったら食べていきますか。準備しますけれど」


「ありがとニャ」


 ■稚鮎釣り■

  鮎は海で産卵して孵化し川を上る。その川を上る前のメダカ程度~ワカサギ位の大きさの鮎を釣るのが稚鮎釣り。

  海(もしくは大きい湖)で、小さい針がいっぱいついたサビキ釣りの仕掛けで狙う。撒き餌は使わない。疑似餌つきの針のみ。

  季節と場所を間違えなければ100匹くらいは簡単に釣れる。味も美味しい。フライもいいけれど、佃煮風に甘辛に似るのも捨てがたい、春の風物詩。

 

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