第25話 そして現場へ
更に現地の川について知っていそうな人という事で、ベルクタ漁業・水面管理事務所へ。
予想通りバラモさんがいた。
なので魔魚カンディルーについて聞いてみる。
「ああ、あの魔魚か。ここにも調査報告の写しが回ってきていたな。ちょっと待ってくれ」
バラモさんは、壁の棚に置かれているファイルの一冊を取り出して、パラパラとめくる。
「ああ、あった。これが調査報告だ。まずはこれが魔魚カンディルーについての報告書本文。そしてこれが当時の魔魚カンディルーの分布や生息場所、生態数の資料。もう10年近く前の図だから様子は大分変わっているかもしれんがな」
これは大分助かる。
何処にどれだけいるか、少なくとも10年前にはこうだったという資料が手に入ったのだ。
充分釣り場の参考になるだろう。
「
「もちろんだ。複写用紙が必要なら、そこにあるのを使ってくれ」
「ありがとうございます」
複写用紙とは、熱を加えた部分が黒くなる紙だ。
① 元の紙を複写用紙の上に置いて
② 黒い部分を意識して熱を加えると
③ 下に敷いた複写用紙に熱で黒い部分が転写される
という仕組み。
実際は②で複写魔法を使うので、いちいち紙の黒い部分を意識するなんて事はしないけれど。
「それでどうやる気だ」
「四手網方式で餌を撒いて、集まったものをすくいます。それでも捕れないものはサビキ釣りの要領で釣り上げようと思っています」
「なるほどな。ただあの魔魚、ちっこいから細かい網でないと無理だぞ。あと普通の糸はかみ切るから、鉄ワイヤー位強力な糸でないとな」
それは想定の範囲内だ。
「網は鉄ワイヤーで作った特製のものを用意しました。これである程度はすくうことが出来ると思います。
釣り用の糸も特製を用意しました。こちらは詳細は言えませんけれど、鉄ワイヤー以上に頑丈かつ細い糸です」
「なら心配いらねえな。普通はそんな装備を持ち運んだり出来ねえが、エイダンだったら問題ねえだろう。
でもそれなら撒き餌が必要だろう。何なら農業組合の屠殺場に、紹介状を書いてやるがどうだ」
おっと、それはありがたい。
「そうしていただけると大変助かります。お願いしていいですか」
「あたぼうよ。魔魚がいなくなったら、また川が賑やかになる。魚種だって大分増える筈だ。今は回遊魚の半分近くが、あの魔魚にやられちまっているからよ」
バラモさんはささっとその辺の白紙をとって、書状をしたためる。
「おいよ。これを屠殺場のカムラ辺りに渡せば、食肉や素材にならない内臓肉とか脂肪部分、血液なんてのをわけてくれる筈だ。
この辺は乾燥させた後肥料にするんだが、少し位わけでも問題はねえ。だから屠殺場でもあっさりわけてくれる筈だ。バケツ単位になるけれど、エイダンは
「カムラさんですね。ありがとうございます」
「カムラがいなくても大丈夫だ。漁業組合のバラモからと言って渡せば。あそこの職員の半分以上は知り合いだからな」
何というか、本当に助かる。
これなら撒き餌も無料で大量に手に入る。本当にありがたい。
「それじゃ魔魚は頼んだ。あともし大量に捕れたら少しわけてくれ。魔石をとった後でいい。魔魚とは言えちっこいのは二度揚げにすると美味いらしいんだ」
魔魚、食べられるのか。
「揚げれば食べられるんですか」
「ああ。調査に行った奴が食べた話を聞いた。5匹釣った時点で仕掛けが食われちまってそれ以上釣れなかったらしいけれどな。
身そのものは白身で美味しいそうだ。ただ魚が小さいから魔石だけとって揚げちまった方がいいらしい。あと頭はとった方が良い。歯と顎の骨がとんでもないからな」
いい事を聞いた。
「わかりました。その時は釣りで捕ったんですね」
「ああ。普通の浮き釣りの仕掛けだったらしい。それもその資料に載っている」
「ありがとうございます。捕れたら魔石を抜いて持ってきます」
「ああ。無理はしなくていいぞ」
紹介状を貰って事務所を出る。
◇◇◇
その後、家畜の屠殺場で内臓や血、骨や脂肪等食べられない部分を90リットルのバケツ3つ分いただいた。
血まみれの中に、赤い黒い臓物だの黄色い脂肪だのが混じっていて、なかなか凶悪な見た目と匂い。
ただし
これをミンチにして撒けば、魔魚カンディル-は寄ってくるだろう。
という事で屠殺場から近い東門から出て、ダグアル村目指して高速移動魔法で突っ走る。
基本的に川沿いの平坦な道で、距離はおおよそ45km。
この程度なら大した事はない。
予想通り20分しないでダグアル村に到着。
早速川岸に出て、水に落ちないよう注意しながら川岸をゆっくり歩く。
網をしかける部分は、
〇 川岸がしっかりしていて
〇 水深があって
〇 出来れば流れが緩やか
な部分が望ましい。
そして勿論、魔魚カンディルーがいる事が条件だ。
バラモさんから貰った資料を確認しながら歩いて行く。
なるほど、魔魚カンディルーは普段は底近くにいる。
だから川に直接、電撃を叩き込んでも効果はそれほどないと。
実際に電撃魔法による討伐を試したが、効果はあまり無かったと、報告書に書いてある。
ならやはり餌でおびき寄せて、網か釣りかで捉えるのが最適だろう。
そして魔魚カンディルーがいて、なおかつ網を仕掛けられるしっかりした岸があって、出来れば深さがそこそこあるところ。
ちょうど良さそうな場所があった。
川が少し向こう側へむけてカーブしている地点だ。
水深がそこそこ深くて、そして岸が岩混じりでしっかりしている。
流れも今は緩やかだ。
ならば早速、魔魚カンディルーがいるか確認してみよう。
俺は今回の釣り道具を取り出す。
長さ5.4mの延べ竿の先に長さ3mの糸、更にその先に1m程の長さの仕掛け、そして最下部に重り。
仕掛けは長さ20cm毎にエダスが5本ついている。
エダスとは糸の先に針がついているもので、今回は長さおおよそ5cmの糸の先に舌平目の皮がついた釣り針がついているという状態。
つまり針全てに魚がかかれば5匹釣れるという訳だ。
そんな事はまず無いけれど。
その針のひとつひとつに、あえて餌をつける。
針には疑似餌として既に舌平目の皮がついている。しかし生の餌の方が食いつきがいいだろうから追加してみた訳だ。
今回は豚の皮と脂肪の境目の硬い部分をつけた。
これなら肉っぽい匂いをまいてくれる上、外れにくそうだから。
さて、ターゲットの魔魚カンディルーが釣れるかどうか。
収納しているうち血液部分を水面に撒いて、そして仕掛けを落とす。
これで近くにいれば食ってくる可能性が高いのだが……
おっと、明らかに魚が寄ってきた。
これが魔魚カンディルーかはわからないけれど。
そしてすぐ、釣り竿の先が水中に引っ張られる。
非常にわかりやすい引きだ。
竿を上げるとビクビクッという手応え。
全長10cm程度と小さい魚が針3つにかかっている。
冷却魔法で殺した後、
普通の魚とドジョウとを足して2で割ったような形、全体的には白色で背中がやや青黒い色。
そして腹部分に小さい魔石を確認。
これが魔魚カンディルーだろう。
ならこの場所で決定だ。
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