第13話 お約束な茶番劇?
俺は一人、冒険者ギルドの中へ。
今の時間は朝9時半。このくらいになると冒険者ギルドはそこそこ空いているようだ。
朝一番、新しい依頼を探す辺りが一番混んでいるのだろう。
あとは依頼終了報告に訪れる夕刻あたりとか。
空いている一番手前のカウンターに行って、冒険者証と依頼受領証を出す。
「すみません。こちらの運送依頼の立ち会いをお願いしたいのですけれど」
「わかりました。まずは依頼を確認させていただきます」
俺が渡した受領証と俺の冒険者証を魔導機械にかける。よくある真偽確認の魔導機械だ。
「確認がとれました。こちらをお返し致します。そちらの待合室で少々お待ち下さい」
ここまではパターン通りだ。
ただしここからは少々用心した方がいい気がする。
これから会う冒険者ギルドの人と鉱山組合と両方とも。
事務所の方から30代前半くらいの男性が一人やってきた。
「失礼します。立ち会い要請でお待ちのエイダンさんはどちらでしょうか」
「俺です」
軽く手を上げて合図する。
「失礼しました。エダグラ冒険者ギルドのミラクと申します。エダグラ鉱山組合からの荷物搬送業務の受け入れ確認でいいでしょうか」
「はい。お願いします」
彼がクリスタさんの調査ターゲットなのだろうか。
それとも彼
その場合、どこまでがターゲットなのだろうか。
勿論そんな考えは表情に出さないけれど。
「それでは参りましょう」
冒険者ギルドを出て左へ。鉱山組合方向へ。
冒険者ギルドから鉱山組合まではそれほど遠くない。
200mも行けばそれらしい大煙突がある建物が見えてくる。
煉瓦部分と焼土塗り木造部分混成という造りの鉱山組合へ。
ミラク氏は勝手知ったという感じで建物に入る。
そして受付のカウンターではなく事務机が並んでいる中への中央近くの席へ。
「今日はドーソン鍛冶組合依頼の鉄インゴット搬送依頼です。連絡は来ていますでしょうか」
「少し待って」
その席で事務作業をしていた40前後位に見える女性が、机上の棚からファイルを取り出してめくる。
体型的にドワーフ族っぽいけれどひげはない。
前世のドワーフは女性でもひげを生やしていたが、こちらでは違うのだろうか。
「あったわ。ドーソン鍛冶組合発注。鉄インゴット、量は5tから10tまでで、輸送請負者が持ってくる書類で確定。ドーソンからの書類は?」
「これでしょうか」
鍛冶組合で受け取った封筒を渡す。
女性は封筒を手で破いて中を確認。
「今回は10tね。あんた一人? それとも馬車か何か待たせている訳?」
よくいるんだよな、こういった態度が悪いおばさん。
しかし一応は依頼関係者だ。丁寧に受け答えをしておこう。
「私一人です。大容量の
「ふーん」
そういって彼女は引き出しから鍵を取り出して。
「行ってくるから」
同じデスクの誰という感じでもなくそう言って立ち上がって歩き始める。
ミラク氏がついて行っているから、一緒について行く。
廊下の突き当たりの扉から入ったところで空気が変わった。
ドーソンの鍛冶組合と同様、魔法で空調管理しているようだ。
倉庫の広さそのものはドーソンの鍛冶組合のものと変わらない感じ。
こちらは鉱石無しで、インゴットだけ置いているからこれで充分なのだろう。
なおインゴットは種類別ではなく注文別に置いてあるようだ。
ただし注文先では無く番号で書いてあるから何処からの注文かはわからない。
注文先を保護する為にそうやって番号表記にしているのだろうか。
それとも……
7番と書いてある場所で彼女は立ち止まる。
「これよ。注文通りのインゴット10t。さっさと収納して」
どれどれ。いきなり収納せず目の前のインゴット全体を意識して確認。
うむ、アウトだ。間違いない。
「ミラクさん。確認はいいですか」
「もちろんだ」
でももう一度確認させて貰う。
「そちらの方、これがドーソン宛てのインゴット10tに間違いないですね」
「何よガキのくせに。たかが冒険者なんだからさっさと収納!」
ここまで喋らせればいいだろう。俺は小声で確認する。
「もう少し粘りますか」
「いえ、充分です」
返答は小声ではなかった。俺以外の2人にもはっきり聞こえる声量だ。
クリスタさんが出現する。フードをとってエルフ特有の耳があらわになった状態で。
「随分とあっさり尻尾を出しましたね。エダグラ鉱山組合販売主任ナオラ、及びエダグラ冒険者ギルド検認部主任ミラク」
「何よあんた。いきなり出てきて不法侵入よ!」
ナオラと呼ばれたおばさんは金切り声を上げる。
「これは冒険者ギルド本部による横領事件の捜査活動です。なお被害届は最低で5件、確認されています。
そして現在、この場における詐欺の現行犯を確認しました。これより捜査の為の身柄拘束に移らせていただきます」
「何よこのくそエルフ」
おばさん、いきなり近くのインゴットを掴んで投げつけた。
やはりドワーフのようだ。
人間のただの中年では一個100kgのインゴットを片手で投げたりしないから。
なおミラク氏はクリスタさんが出てきた時点で固まっている。
魔法的なものなのか、それとも単に精神的に弱いだけなのか。
「実力確認と実績確保にちょうどいい場面です。エイダンさん。そこの容疑者の身柄拘束をお願いします。貴方の魔法なら怪我をさせずに1人くらい拘束するなんて、訳もないですよね」
なんというか俺には容赦ないな、クリスタさん。
まあ出来るけれど。
「わかりました。電撃弱」
「ぶぎゃっ!」
おばさんが叫ぶと同時にびくっと身体を震わせ、ゆっくりと床に倒れた。
倒れた時に支えたりしないのは俺の身の安全を考えてだ。
ドワーフは頑丈な分、体重が無茶苦茶重い。
下手に支えようとしたら俺ごとひっくり返ってしまう。
まあ頑丈だから倒れた位では怪我なんてしない。
だから問題は無いだろう。
「あえて通常の麻痺では無く、電撃を使いましたね」
クリスタさんの言葉に俺は頷く。
「ええ。こちらは調整次第で意識を保ったまま身体を動かなく出来ますから」
本当は微妙に別の理由もある。
麻痺魔法はただ身体の自由を失うだけ。
しかし電撃で麻痺させた場合は強烈な痛みが全身を襲うのだ。
犯罪その他は別としてもこのおばさんは気にくわなかった。
つまりはそんな理由。
なおおばさんが投げたインゴットは空中で停止していた。
俺ではないからクリスタさんの魔法だろう。
重量物を空中に留めておくなんて魔法は結構難しい。
時間停止か重力操作か……
とりあえずクリスタさんには逆らわない方が良さそうだ。
「それでは証拠保全に参りましょう。面倒なので2人はアイテムボックスに入れておいていただけますか。エイダンさんのアイテムボックスは生物だろうと1tは時間停止で入りますよね」
「わかりました」
2人を収納して、そして今度はクリスタさんについて事務所方向へと戻る。
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