第12話 追加依頼?
走り始めてしまえばあとは早い。
南門が見えたところで左の街道へ入って一気に飛ばす。
「なるほど、エダグラまで1時間というのはかなり余裕をみた値だったのですね。理解しました」
クリスタさんがそう言った時点で速度はおよそ220km/h。
この街道の整備具合ではこれがほぼ限界の速度だ。
道の整備具合は前世の方が上だった。
前世の一級街道なら500km/hで走っても大丈夫な程度に整備されていたから。
「クリスタさんも余裕そうですね。流石です」
「ええ。私が担当して正解でした。この速度で高速移動出来る冒険者はドーソンには他にいませんでしたから」
なるほど。
なお東門でクリスタさんが冒険者証を出した時に記載内容が見えた。だから彼女の実力はわかっている。
「B級冒険者に直接指導員を担当して貰えて光栄です」
「長く生きていますからね。それに応じて使える魔法が多くなるというだけです。
エイダンさんはどうも私の種族についてご存じのようですね」
俺が驚かなかったところからそう察したのだろうか。
魔法でも言語化した表層思考以外は読めなかった筈だから。
ただし俺は村から出てきて初心者講習を1日受けただけ。
だから怪しまれない為にはある程度誤魔化す必要があるだろう。
文字が読み書き出来て魔法が各種使える辺りで、既に破綻しているとは思うけれど。
「あくまで話で聞いた程度です。長寿だとか、あまり目にする機会はないと言うことくらいで」
「いえ、これだけの魔法を持っているという事は、おそらく別の記憶も持っているのでしょう。
往々にしてそういう人はいるものです。ですのであまり心配する必要はありません」
なるほど、そういうものなのか。
しかし用心はしておいた方がいいだろう。
だからあえて俺は返答しない。
「あと先程の鍛冶組合の倉庫で、魔法収納能力以外にも試されていた事にお気づきだったでしょうか?」
それは想像出来る。
「高価なミスリルの鉱石
「やはり気づいていましたか」
「ええ」
ドワーフの中には金属の分量や質を見ただけで把握出来る能力を持つ者がいる。
精錬されていない鉱石の状態であってもだ。
もし先程のハルベクさんがその能力の持ち主ならば。
俺が一個でも鉱石をがめたなら、その場で気づくだろう。
その辺も勿論わかっている。
だから念の為、アイテムボックス内に残っていないか再確認したのだ。
「参考までに伺います。あれが本当は何の鉱石だったか、そしてどれくらいの重さだったか。
またそれは収納してわかりましたか、それとも収納前にわかりましたか」
どう答えるべきか考える。
能力を把握される事がプラスかマイナスか。
少し考えて決めた。
ここは逆質問して様子をみてみるとしようと。
「返答によって、これからの展開が何か変わりますでしょうか?」
「今回の依頼に更に別の依頼が追加されるかどうかです。返答によっては今回の依頼を素直に終わらせ、予定通りの報酬をお渡し致します。
ですがプラスして、冒険者ギルド本部の調査部からの追加依頼をここで発注する事も可能です。この場合の追加報酬は20万円、ただし本件についての守秘義務が発生します」
何やら怪しい話になってきた。
そう言えばクリスタさんは調査部と言っていたなと思い出す。
調査部が絡むなんてのは大体……
「その依頼を受領する事で、俺に危険が生じる事はありますか」
「守秘義務と身の安全について、双方に対する魔法証文として保証します」
なるほど、信用はしていいようだ。
ならばこう回答するとしよう。
「魔法選鉱する前の銅鉱石ですね。重さは20,160kg。
ただし収納する前の段階では種類はともかく厳密に重さまではわかりません。20tちょっと、そう認識出来る程度です」
「わかりました。それでは追加依頼をお願いしましょう。一度止まります」
速度を落として停止する。道の左端に寄って、そしてクリスタさんは書類を取り出す。複写式の書類だ。
「まずこの文面を読んで、受けるかどうか判断して下さい。この時点では守秘義務は発生しません」
書類のタイトルは『調査協力依頼』。
文章はそこそこ長いが、要は、
〇 冒険者ギルド本部による調査に協力すること
〇 その調査及び協力内容が脱法的なものではないこと
〇 協力に際し冒険者本部は別記金額の謝礼を支払うこと
〇 協力者の身体及び財産の安全は保証すること
という内容が書いてある。
ただし何についてどう協力するかは書かれていない。
「俺が何をすればいいかは、ここで規定しないのですか」
「今回に関してはその必要はありません。エイダンさんは搬送依頼を受けた冒険者として、エダグラの冒険者ギルドに立ち会い要請をして、鉱山組合でインゴットを受け取る。それをその通りやっていただければ結構です。
なおエダグラの街に入った時点で私は姿を隠します。何かあれば小声で呟いていただければ伝声魔法その他で返答しますが、出来るだけ私がいるということを悟られないようお願い致します」
なるほど。俺はあくまで何も知らない冒険者として振る舞えということか。
「わかりました。受けましょう」
「では私からサインします」
『調査協力依頼』という複写式の書類にクリスタさん、そして俺がサイン。
更にクリスタさんが契約魔法を起動。
これでこの書類は魔法的に内容を保証される。
たとえばこの契約をなかった事にする為にクリスタさんが俺を殺害しようとすると、契約魔法が発動。
俺を殺せないばかりか最悪殺そうとするクリスタさんが自殺するなんて事になる訳だ。
まあそんな事態になる可能性は極めて低いけれど。
契約内容はしごく妥当なものだから。
契約魔法が偽物でないのも確かだし。
一応神殿勤務だったのでそういった魔法はわかるのだ。
更にクリスタさんは何かカード状のものを取り出す。
そこに何やらペンで書いた後、ふっとカードを放り投げた。
カードは空中でふっと消え失せる。
おそらくこれは転送魔法だ。
俺が初日の依頼確保に使った魔法だが、今回の送り先はおそらくずっと遠方。
遠くの誰かに連絡を取ったのだろう。
なおカードに何を書いたのかは見えなかった。
見ない方がいいと判断したというのもある。
「それでは急ぎましょう」
クリスタさんの言葉で再び高速移動魔法を起動。
速度を上げられるところは220km/hで走り、途中人や荷馬車が多かったミルケスの街周辺では60km/h位まで減速し。
結局1時間かからずにエダグラの街に到着。
街の手前で減速、歩く速度でミシェルミー川の橋を渡る。
この辺でも川は結構太いし水量も多い。流れも緩やか。
ここならコイやフナといった魚がターゲットになりそうだ。
渓流の魚を狙うならまだまだ上流へ行く必要がありそうだと感じる。
エダグラの東門も冒険者証を見せるだけであっさり通過。
まずは冒険者ギルドへ。
「それでは失礼します」
街へ入ってすぐにクリスタさんは姿を消した。
隠蔽の魔法を使って隠れているのか、それとも単に離れた場所から見ているのかはわからない。
長年生きているエルフの魔法使いに本気の隠蔽魔法を使われた場合、いくら俺でも見破れないだろうから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます