第11話 運送依頼開始

「次に貸与するのは冒険者C級に必要な知識を網羅した教本となります。

 地理、歴史、法律及び取引、動物及び魔物・魔獣等、その他、地図帳とジャンル別に別れています。

 これも9月30日までに返却で、こちらが借用書です」


 これはありがたい。しかし……

 サインしながら気になった事を尋ねてみる。


「こういった本は何処へ行けば買えて、幾ら位するでしょうか」


「ドーソン程度の街ですと本を扱う場所は冒険者ギルドと教会くらいです。

 どちらも組織内で大量に印刷していますので1冊5,000円くらいで頒布出来ます。どのような本を扱っているかはそれぞれ図書室がありますのでそちらでお尋ね下さい」


 実用本とか聖典なんかは購入可能と。

 ならそれ以外はどうだろう。


「それ以外、例えば小説や百科事典等は無いのでしょうか」


「そういった本となるとせめてアクラ、出来れば王都ハイファや商都ナムティ等に行かなければ手に入らないでしょう」


 なるほど、一般的ではないという事か。

 なら釣りの本とかも存在しないか、あっても手に入りにくいだろう。


 ならばドーソン周辺の魚を攻略してからだ。

 まだ川しか見ていないが、海も近いしポイントや釣物は山ほどあるのだから。


 サインし終えた借用書をクリスタさんに渡して、教本を全部収納する。


「貸与するものは以上です。次に今回の依頼に必要な最低限の地理的知識となります。先程お渡しした教本のうち、地図帳を出して下さい」


 つまり今回の経路の説明という訳か。

 俺は言われた通り地図帳を出す……

 地図上で場所と経路を確認。

 更に防具系の装備を全て着装した後。


「では鍛冶組合に行きましょう。買い物はしません。それだけの速さで移動可能なら準備は特に必要ないでしょうから」


 確かに一日で往復するならそういった細かいものは必要ない。

 悪天候でも1時間くらいならマントを被って高速移動すればいい。

 魔物も100km/h以上の高速移動にはついてこれないし。


「わかりました」


 俺達は立ち上がり、面談室を出る。

 そしてそのまま冒険者ギルドの外へ。


 ◇◇◇


 鍛冶組合の担当者さんであるハルベクさんはドワーフだった。

 身長が150cm位と低いが身体も腕も足もぶっとく体重は余裕で100kgを超えてそう。

 顔もお約束通りひげもじゃだ。


 そして当初は微妙にこちらに難色を示しているように感じる。

 俺が若すぎる事とD級という事で。


「指導員がついているのはわかっている。しかし依頼する冒険者が新規で実績のないD級という事で、念の為に魔法収納の実力を確認させて欲しい」


 それだけの用心は当然必要だろう。反対の立場だったら俺もそう思うだろうから。


「ええ、どうぞ」


 俺では無くクリスタさんがそう返答し、更に続ける。


「ただし確認に1時間以上かかるようでしたら、その分についても依頼受領という事で報酬が必要になります。よろしいでしょうか」


 なるほど、俺は納得する。確かにそれで実質ただ働きになってはまずいものなと。

 やはりこの世界、前世と違ってその辺がしっかりしているようだ。


「大丈夫だ。奥にある倉庫でどれだけ魔法収納が出来るか確認するだけだからな。

 こっちだ」


 鍛冶組合の事務所横を通り、裏の倉庫に案内される。

 入ってすぐわかった。明らかに外より涼しいうえ、かなり乾燥している。


「魔法か魔術で空調を維持しているのでしょうか」


 俺の質問にハルベクさんは頷いた。


「その通りだ。鉄はすぐ駄目になるからな。インゴット状態ならまだしも、製品にしてしまうとどうしても錆びやすくなる」

 

 この場合の『すぐ』には注意が必要だ。

 ドワーフはエルフと同様、寿命が人間よりずっと長い。

 だから時間の感覚も人間とかなり違うのだ。

 これは前世での常識だが、この世界でもきっと同様だろう。


 エルフもそうだけれど、『すぐ』が年単位という事だってあるんだよなあ。

 あれで神印に絶対必要な水晶柱の納入が三ヶ月遅れてえらい目にあったりしたんだよな。

 なんて昔の事を思い出したりもする。


 さて、倉庫の中は結構広い。

 冒険者ギルドの2階まで全部くらいのスペースに、鉱石と思われるものやインゴット等が積まれている。


 物としては鉱石の方が圧倒的に多い。インゴットは各種あわせても部屋の10分の1も使っていない気がする。

 ハルベクさんはそのうち倉庫の左手前側に積んである、青灰色の鉱石の前で立ち止まった。


「これはミスリル鉱石だ。これなら比重は鉄のインゴットとほぼ同じ位だろう。これを収納してみてくれ」


「わかりました」


 鉱石を全部意識する。確かに石としては結構重いようだ。何の鉱石だかは別として・・・・・・・・・・・20tちょっとある。

 全部を収納する必要は無い。追加依頼を受けても10tだけれど、此処の鉱石はその倍ある。


 それでもここで魔法収納の実力・・・・・・・を見せておいた方がいいだろう。

 俺は鉱石を強く認識して、そして収納を起動する。あっさり全部収納出来た。


 魔法収納で確認、20,160kg。やはり20tちょっとあった。

 依頼に必要な量よりずっと多いが、魔法の実力を見せつける為だからこれでいい。


「えっ……20tあったと思うが、全部収納出来るのか」


「ええ。これくらいなら問題ありません」


 実際余裕だ。


「なるほど。これなら確かに5tや10tくらい問題無いだろう。それでは今の鉱石を戻してくれないか」


「わかりました」


 戻す範囲を意識して魔法収納からの取り出しを意識。

 どさっと採石風の鉱石が出てきた。

 大体前と同じような感じに出せた事、魔法収納内に残っていない・・・・・・事を再確認してから尋ねる。


「これでいいでしょうか」


 ハルベクさんは頷いた。


「ああ。それじゃ10tの方でお願いしよう。実際もう少しで無くなりそうで困っていたんだ。

 以前は河川運送出来たから比較的楽に取り寄せられたんだけれどな。途中で魔物が出るようになって河川が使えなくなった。以来こうやって少量ずつ陸路を運ばざるをえなくなったって訳だ」


 この辺もドワーフ管理だと実は注意が必要だ。

 もう少しというのが10年先という事は往々にしてあるから。

 以前はなんてのは何十年前だかわかったものじゃない。

 今回の依頼には直接関わらないだろうから無視していいだろうけれど。


 他にも気になった事があるが、ここでは口に出さない。

 再び事務所の方へ戻って書類を作成。

 

「エダグラ鉱山組合の事務所はこの略図を見てくれ。ここがエダグラの東門で、ここが冒険者事務所、ここが鉱山組合の事務所だ。

 冒険者ギルドに依頼受領証を出して、鉱山組合にこの封筒を出せば、インゴットを10t渡してくれる事になっている。

 それを持ってこの事務所まで来てくれ。さっきの倉庫にインゴットを出せば依頼完了だ」


 ここでクリスタさんが補足説明。


「運送依頼等で5万円以上の物品を取り扱う際は、冒険者ギルドの方から立ち会う事になっています。これは以前荷物の収受で詐欺行為が多発した為です。

 ですので今回も鉱山組合の前に冒険者ギルドに寄ることになります」


 なるほど、それなら安心だ。


「わかりました」


 依頼内容は単純だ。

 エダグラに行って冒険者ギルドに寄って、更に鉱山組合に封筒を渡し、インゴットを受け取って帰ってくる。

 これだけだ。

 

「では頼む」


「わかりました」


 頭を下げて、そして鍛冶組合の外へ。


「本来エダグラへ行くには南門が一番近いのですが、高速移動魔法を使えるなら東門がいいでしょう。ここからすぐですから街の中を通らないで済む分、時間が短縮できます」


 地図帳にはドーソン付近といった細かい部分の地図はなかった。

 だからこの辺はクリスタさんの言う事に従っておこう。

 実際高速移動魔法は街中では使えないし。


「わかりました」


 東門はキヌル村から出た時に通ったから場所はわかる。

 なので迷わず歩いて、そして東門へ。

 門の衛兵に冒険者証を見えるように提示すれば普通にフリーパスだ。


 キヌル村から来たときは証明書が無いからここで街に入る手続きをしたなと思い出す。

 勿論手続きをしたのは俺達では無く引率のクレイグさんとジルさん。

 引率される村の子供は誰も文字が書けないから、手続きの書類を作れない。


 門を出たところで道が分かれた。

 門からそのまま東方向へ行く道と、南西へと街壁に沿って向かう道。


「それでは高速移動魔法を使って先導します。速くてついていけない、もしくはもっと速くていい。あるいは小用等に行きたい際は声をかけて下さい」


「わかりました」


 俺達は走り始める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る