第10話 手続きをしましょう
朝の自由時間を製造と製造計画に費やし、朝食を食べ、部屋にある数少ない私物を魔法収納。
布団やシーツもたたみ直して来た時と同等以上に整頓。
そしていよいよ冒険者ギルドの受付へ。
この時間の冒険者ギルドは混み合っている。
朝一番で依頼を受け、そのまま出るという冒険者が多いからだ。
先輩方の邪魔にならないようささっと端に寄って室内にいる冒険者を観察。
とりあえず此処にいる冒険者は12名。
C級以上で現役の冒険者はドーソンには7名しかいないと聞いた。
その全員がこの場にいるとしても、5名はD級以下の冒険者の筈だ。
そして実際は1人を除きD級以下のようだ。E級すら最低3人はいる。
依頼掲示板は級で掲示位置がわかれている。だから見ている場所で級がわかるのだ。
そして除いた1人は……
この人が俺の指導員だ。そう確信する。
年齢は一見20歳前後の女性。金髪の長髪で耳の上部先端をわざとらしくフードで隠している。
装備は灰色のローブ。他に何も持っていないように見えるのは
さて、ここまでは俺の知っているその人とは外見年齢と性別以外異なっている。
しかし身体から発している固有の魔法パターンが同じだ。昨日俺が見たものと。
それならさっさと挨拶をしておこう。
俺は彼女の前に行って頭を下げる。
「まさかご自身で指導担当をやっていただけるとは思っていませんでした。今日と明日、宜しくお願いします」
彼女は微笑んだ。
「迷いもしませんでしたね。流石です」
「魔法的なカムフラージュを一切していませんでしたから。俺の能力を確認する為にわざとそうしたのでしょうけれど」
彼女はクリスタさんだ。
受付嬢姿の時は茶色の短髪、しかし今は金髪でしかも長髪。
そしてフードで隠しているけれど耳の上部が尖っている。
わざとそう手術したのでなければ、この耳の形はエルフだ。
この世界ではエルフは初めて見る。
以前の世界には普通人の他にエルフ、ドワーフ、獣人(熊、犬、猫)がいた。この世界も同じだろうか。
前の世界では神様が作った人間の設計図のうち、2箇所の違いによって普通人、エルフ、ドワーフ、獣人になるとされていた。
だから親が両方普通人でも子供がエルフやドワーフ、獣人に生まれる可能性はない訳ではない。
人数的には圧倒的に普通人が多く94%以上。次いで熊獣人3%、犬獣人1%、猫獣人1%。
ドワーフとエルフはあわせても1%いなかったと思う。
そしてドワーフとエルフは同じ種族で群れる事が多い。
特にエルフはその傾向が強く、森の奥等に独自の村を築いて生活しているなんてのがほとんどだ。
しかし前世では神殿のような重要機関には必ず1人2人はエルフがいた。
何せ長命だし魔力が大きいので自然と重要な役職におさまっているのだ。
おそらくこの世界のエルフも前世とほぼ同じ特徴をもつ種族だろう。
魔力が大きく寿命が長く、概ね器用で見た目麗しい者が多いという感じで。
「依頼に関するギルド側の手続きは既に終わっています。あとは貸与の装備等を確認していただいて、貸与の書類を書いていただく事。そして今回の依頼に必要な最低限の地理的知識を確認する事くらいです。
その後鍛冶組合に向かいますが、途中で街の中を通るので買い出しは可能です。途中何か購入が必要なものはありますでしょうか?」
買い出しが必要なものか。それを決めるには前提条件が必要だ。
なので聞いてみる。
「目的地のエダグラまで140kmの距離と聞きました。クリスタさんの高速移動魔法では片道2時間程度で移動可能でしょうか」
「ええ、それくらいでしたら可能です。という事はエイダンさんもその位で移動出来る。そう考えていいでしょうか」
その通りだ。
高速移動魔法はこの身体になってからはまだ使っていない。
しかし前世では500km位の距離は1時間程度で移動していた。
それくらいの速度で各拠点を移動しないと業務が間に合わなかったからだ。
「おそらく大丈夫だと思います。最初のうちは魔法に慣れる意味で時速100km/h程度からやってみようと思いますが」
「なるほど、そこまででしたか。でしたら予定を少し変えましょう。今日中にエダグラから帰ってきて鍛冶組合に納品するという日程に」
おっと、そうなるか。もちろんそれは可能だ。
ただそうなるとエダグラでのんびりする時間が無くなってしまう。
同じ川の上流と下流なのだ。今後の為にも川の様子を確認しておきたかった。
ただ140㎞程度の距離、その気になればいつでも行ける。
それにこの予定なら1日早く自由になれる。つまり魚と戦える日が1日早くなるわけだ。
なら俺にとっても悪い話じゃない。
「わかりました。それでは早い方の予定でよろしくお願いします」
「それではまず、こちらへ」
受付の部屋の一つ奥、面談室がある場所へ。
面談室は説明が必要な依頼や褒賞金が高額の場合の受け渡し等、受付窓口では扱いにくい案件を扱う為の場所。
そう講習では教わった。
なお俺の前世にも冒険者ギルドはあった。
しかし前世での俺は業務的に接点がなかった。
だから冒険者ギルドについての知識は、
〇 前世での常識的な知識
〇 初心者講習1日目で教わったもの
が全てだったりする。
ソファーとテーブルだけの狭い面談室が並んだ中、クリスタさんは近くの一室へ。
俺も入って対面に座る。
「それではまずは貸与品と、今回の依頼達成に必要な最小限の知識からです」
クリスタさんは各種武器を魔法収納から出して並べ始めた。
そこそこ広いテーブル目一杯に並ぶ。
「現在冒険者ギルドで初心者対象に貸し出ししているものは以上になります。
おすすめは片手用
片手用
腕力がそこまでない者でもそこそこ使えて、かつ取れる戦法の幅が広いからだ。
しかしこの中で俺が前世の知識と経験を使う事を前提にして選ぶと……
俺は
うん、バランスは悪くない。程よい重さだ。
「意外ですね。
「ええ。これなら他の武器より扱える自信があります」
前世で神殿騎士団の神殿内警備部隊が
女神シャルムティナは流血を好まない。だから神殿内では刀や槍ではなく
それに神殿執務者としての訓練で
「武器はそれでよろしいでしょうか」
「ええ」
俺が頷くのを見てクリスタさんは他の武器を収納。今度は革鎧をはじめとした防具類を出す。
俺も
「貸し出しできる防具は武器ほど種類は多くありません。そして高速移動の負担になりにくい防具は事実上革鎧一択です。
100km/h以上の高速移動が可能なら鎧は必要ないという考え方もあります。ですが一般人が魔物に襲われている等、冒険者として戦わなければならない場合が往々にしてあるのです。
ですから高速移動可能な魔法主体の冒険者であっても、最低限の鎧は装備する事をおすすめします」
なるほど、一理ある。
それがこの世界の論理なら従っておこう。
「わかりました」
俺は革鎧、籠手、膝当て、ブーツ、マントを確認する。
革製でそれなりに使い込んではある。
しかし補修や清掃はしっかりされているようだ。
そう悪いものではない。
「ありがとうございます」
「それでは以上の装備の借用書です。9月30日までに返却という事になっています。
確認して、サインをお願いします」
書面を確認する。特におかしい記述はないようだ。
ならばという事で、置いてあったペンでサイン。
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