第4章 家賃か広さか便利さか

第14話 エルフらしくないタイプ

 その後も何というか、容赦ない。


 鉱山組合事務所に戻るなり、クリスタさんは事務所の全員を時間凍結。

 俺が収納していた2人も一緒にそこへ出して時間凍結。

 更に事務所入口にあらかじめ準備していたらしい『本日臨時休業』の札を貼って、事務所全体に封鎖魔法。


「これで証拠隠滅は不可能です。私と同じ解除コードで封鎖を解かない限り誰も中に入れません」


 大丈夫なのだろうか。そう思いつつ早足のクリスタさんの後をついていく。


 冒険者ギルド入口に到着。

 今度はクリスタさん、『本日午後4時まで臨時休業』の札を掲出した後、事務所内に人がいるまま時間凍結して封鎖措置。


 流石に大丈夫かと思ったので聞いてみた。


「ここまでやって大丈夫なんですか?」


「問題ありません。現行犯逮捕の場合、逮捕の現場の捜索と証拠保全は認められています。

 今回は現時点で捜査員が私しかおりません。しかも私は別件遂行中です。ですので捜査主任官及び捜査員が来るまでの間、時間凍結が認められています」


 ヘルミナここの法律、なかなか怖いし容赦ない。


「今回の詐欺事件はエダグラ冒険者ギルド及び鉱山組合の組織そのものが関わっている可能性が高い犯罪です。実は同種の事件が何件か発生しており、調査部で捜査を行っていたところでした。

 ですので証拠保全として最低限の措置と思われます」


 クリスタさん的にはこれでも最低限・・・の措置か。

 まあ専門家の意見だから口は挟まないことにする。

 しかし俺としては聞いておきたい疑問がある。


「ひょっとして、俺に昨日依頼を持ちかけた時点で、既にこうなるような計画だったのでしょうか?」


「可能性は半々とみていました。ですから念のため、依頼主であるドーソン鍛冶組合、ヘルミナ国冒険者ギルド本部調査部双方に連絡を入れた上で、本事案に臨みました」


 こうなる可能性は十分認識していたという事だ。


「ドーソン鍛冶組合では以前にもエダグラ鉱山組合絡みの依頼でインゴットの質が悪く、量が1割足りないという被害を受けています。ですので今回、犯罪が確認された場合にインゴットの搬送が遅れる可能性がある事を含めて承知いただいています」


 鍛冶組合で俺を試したのはそのせいだろう。ただ気になったので念のため聞いてみよう。


「その、前回の事案の時は魔法的にも証拠を確認できなかったのでしょうか」


「ええ。鍛冶組合でインゴットを受け取った際の確認で発覚しました。ですがその時は荷馬車で3日かけて輸送した為、元々量が少なかったのか途中で気付かれずに盗難に遭ったのか、確認出来なかったのです。

 ですので今回の依頼も確実に運送出来る時まで、鍛冶組合と話し合った上で保留としていました」


 そしてちょうど巨大な魔法収納アイテムボックスを使える俺が現れたという訳か。

 でも待てよ、何せエルフの調査官とドワーフのギルドの話だ。何年がかりの話かわかったものじゃない。


「その前回の事件って、いつ頃の話でしょうか」


「およそ10年前の話になります」


 やっぱり。時間感覚が普通人と違うから仕方ないけれど。

 あと依頼を請け負った冒険者として確かめておきたいことがある。


「あと俺の扱いはどうなるんでしょうか。ここで捜査が終わってインゴット搬送が可能になるまで待機ですか?」


「いえ。私とエイダンさんは引継ぎが到着次第、ここを離れてドーソンへと戻る予定です。引継ぎの捜査員はあと30分程度で到着する予定となっています」


 戻るのか。でもそうなると……


「でもこの状態ではインゴットを持ち帰る事は出来ませんよね。こういう場合は依頼失敗扱いになるんですか?」


「大丈夫です。今回の場合はギルド及び依頼先都合による任務達成不能となります。この場合依頼を受けた冒険者、今回の場合エイダンさんは依頼達成と同等の評価となり、報酬も冒険者ギルド本部が代わって支払います」


 なるほど。うやむやになる等は無いようだ。この辺前世の神殿管理部よりずっとまともな模様。


「また鍛冶組合の方にも冒険者ギルドから直接説明を行います。ですからエイダンさんは、ドーソンの冒険者ギルドに到着して報告した時点で依頼達成と同等の扱いとなります」


 鍛冶組合で理由を説明する必要はない。俺はただドーソンの冒険者ギルドに行って報告すればいいだけ。

 つまり俺にとっては損にはならないという事か。大変助かる。


 何せそんなの理屈からして当たり前、と言い切れないのが世の中の常。

 その辺今のところ前世よりは今の環境の方がずっとましなようだ。


「わかりました」


「あと、ドーソンに戻ったら今日中にやっておいた方がいい事があります。住居の確保です。エイダンさんはまだ今の環境に不慣れなようですので、とりあえず冒険者C級合格まではドーソンの街で、冒険者としての依頼をこなしつつ勉強していただくのがいいでしょう」


 確かに俺はまだ知らないことが多すぎる。

 まずは最初の街であるドーソンで勉強しつつ手堅くやっていく方がいい。


「ですので本日中に貸家なり貸部屋なりを確保するべきでしょう。ある程度は担当として面倒を見させていただくつもりです」


 今日中に家まで借りる計画だったのか。確かにそうして貰えると楽だけれど、流石に予定を詰めすぎではないのだろか。


「大急ぎの日程ですね、それは」


「ええ。でも早く済ませた方がエイダンさんにとってもいいでしょう。宿に泊まるとその分余分にお金が必要となります。また冒険者ギルドの短期宿泊所を利用した場合、3日に1件の依頼受領が必要となります」


「早いうちに住まいを確保した方がお金の節約になるし自由がきく。そういう事ですね」 


 クリスタさんは頷いた。


「その通りです。参考までにドーソンの街の住宅の主な相場です。おすすめ物件も3件ほどピックアップしておきました」


 これは用意周到というのとは少し違う気がする。どちらかというと……

 気になるので遠回しにだけれど聞いてみる。


「クリスタさん、失礼ですけれどエルフらしくない性格だと言われませんか?」


 エルフは長寿種だからか結構のんびりした性格の人が多いのだ。

 しかしクリスタさんの場合はどちらかというと、いや確実に……


「ええ、よく言われます。ただ私としては物事が不必要に滞っているのが好きになれないのです」


 前世にもいたな、このタイプの人は。上司にはいてほしくないタイプとして。

 精力的に動くのはいい。しかし他の人にまでそれを求めないで欲しいのだ。

 ましてや全てが自分と同じ位効率よく動くなんて状況を当然としてスケジュールをたてられると現場が死ぬ。間違いなく。


 まあそれでも理屈が通らない上司よりはましだろうか。

 いや、ここは二択とは限らない。

 この辺が悪魔合体したりとか、そのくせ自分は大した仕事をしないとか、もっと救われないタイプが多々いる訳で……


 前世の悪夢が蘇ってきた。俺は思い切り頭をふって追い出す。

 やめよう。少なくとも今の俺はエイダンで、別の世界にいるのだから。


 とりあえずの時間活用という事で、クリスタさんに渡された不動産情報を読み始める。

 うむ、思ったよりも家賃が安いようだ。それなら部屋貸しよりも一軒家の方がいい。

 そしてこの家賃傾向、そしておすすめ物件は……

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