第10話

卒業パーティーは、ゲームとは全く違う結末を迎えましたが、私たちの物語がそこで終わるわけではありません。


「お義姉さま……」


と私を呼んだのは物語でヒロインだったサラ・ミュラー侯爵令嬢。

パーティーの時点で、彼女はミュラー侯爵家に養子に入っている。

レイチェル様と婚姻するにあたり、サラの身分が問題になった。彼女は男爵家の庶子だったから。

それを解決するためには、身分の釣り合う家に養子に入ることでした。

それに気づかないわけないじゃないですか。真っ先にお父様たちにお願いいたしました。


サラは物覚えもよく、瞬く間に上級貴族のマナーを習得していきました。

これがヒロインパワーってやつなんですね。


「……エマお義姉さま。あの……お茶、ご一緒にどうですか……」

「……この響き……ヤバすぎる」


私がヒロインに「お義姉さま」なんて呼ばれるなんて、生まれは私の方が早かったからそうなったけど……ああっ!もうっ!!この感じっ!!!萌えるっっっっっっ


「……尊すぎて、死ぬ……」

「えっ!? エマお義姉さま!?……」


これだけでご飯3杯くらい余裕で行ける自信があるわ。


「サーラ―ちゃーーーーーん!!!」

「きゃっ……!!」


とオリビアお姉様が部屋に入って来るや否や、サラに勢いよく抱き着いた。

なんて羨ましい……!! 


「うーん……相変わらずかわいいわね~。やっぱり私のものにならない?」

「ダメです!!!!」


レイチェル×サラのカップリングは絶対です!たとえお姉様にだってそれは譲りませんわ。


「……申し訳、ございません……私は、レイチェル様のことが……」

「わかってるわよ。あなたたちのことがかわいいからつい、ね♪」

「それに、お姉様には既にいるでしょうに……」

「あら? 私が侯爵家当主になるのよ。他に愛人がいてもよくない?」

「オリビア様? そんなの私が許しませんよ」


いつの間にかこの場にいたルーナが、お姉様に詰め寄っている。


「え~……ダメ?」

「駄目です!!」

「あなたを一番かわいがるわよ。だから……ね」


と言うや否や、ルーナにキスをした。


「んぅっ……はむっ……」舌まで入れてる……。

「ふっ、ちゅっ、んくっ、ぷはっ!」

「なっななっ、何をなさるんですか!? オリビア様!!」


顔を真っ赤にしたルーナは、唇を手で抑えて、オリビアに抗議している。


「何って、愛を確かめあっただけだけど?」

「そ、そういうことを人前でしないでくださいっっ!!」


と涙目で抗議する。


「じゃあ、二人っきりならいいのね?」


と妖艶に微笑みながら聞く。


「だ、誰もそんなこと言っていませんっ!! もうっ!!」


と怒ったように言いながら、どこか嬉しそうにしている。「さて、おふざけはこのくらいにしておいてっと」


「おふざけだったんですか!?」

「冗談よ。ま、半分は本気だけど」


と言いながらウィンクをする。


「は、半分は本気ですか……」


と呆れたような顔で言った。


「二人ともそろそろ出かける時間じゃないの?」

「時間ですか? まだ少し余裕ありますけど……」


何故かオリビアお姉様の横でルーナが恥ずかしそうにモジモジとしている。

……あー。なるほど。


「少し早いけど、行きましょうか。サラ」

「え、は、はい……」

「いってらっしゃ~い」

「お姉さまも。あまりやりすぎると嫌われるかもしれませんよ」

「うふふ。わかってるわよ」


私はサラを引き連れて部屋を後にすることに――


「外でペットの散歩がしたいわ。ねぇ、ルーナ」



――家にペットなんていないんだけどなぁ

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