第9話

「――レオン」


と殿下を壇上から呼ぶ声に、さっきまでの調子が嘘のようにおとなしくなったレオン殿下。


「ち、父上……」


陛下の登場に急に焦りだす殿下。

今までの態度は何なのでしょうか……。まるで叱られた子供のようです。


「レオン、お前という奴は……どこまで馬鹿なんだ。先程の言葉、しっかりと聞かせてもらったぞ。まさか、我が息子ながらここまで愚かだとは思わなかった」


と嘆く陛下。

会場の空気も一気に冷え込んだ。

誰も一言も発せず、ただひたすらに事の成り行きを見守っていた。

会場の全ての人が、陛下の次の言葉を待っている。


「まず、レオンとレイチェル嬢の婚約解消は、余も承認しておる。さらにレイチェル嬢とサラ嬢の婚約もな」


「女同士ですよ! 婚約なんてできるはずない!」


「先日ミュラー伯爵、陞爵したから今は侯爵じゃな。連絡があってのう。とある魔法が完成したとな」


「とある魔法……?」


「うむ……同性同士で子を成せる魔法じゃ」


「同性同士……」


そうなんです。私がお父様たちに頼んでいた魔法というのが、まさにそれ。

同性同士で子供を作れるようにする魔法です。


百合を広めるにあたって問題がありました。

そう、子供です。


貴族だったら自分の家の跡継ぎ、平民でも商会や働き手は必要となります。

政略結婚があるのもこういった背景があるからです。

それを解決できるのが、同性同士で子供をつくることです。

魔法の開発はお父様たちでも思ったよりも時間がかかったようで、つい先日やっと完成したんです。


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!」


レオン殿下は壊れたように何度も同じ言葉を繰り返していますね。まあ、気持ちはわかりますけど。


「そんなの嘘だ!! だって俺はヒロインと結ばれる運命にあるんだから!!! こんなのありえない!!! 誰かが俺を嵌めようとしているに違いない!!! そうだ、きっとそうに決まっている!!! 今に見ていろよ。お前たちの思い通りにはさせないからな。この世界はゲームの世界とは違う。だから、俺たちは自由に生きていくことができるんだ。この世界の主役は俺たちなんだから。いいか、覚えてろよ。必ず後悔させてやる」


「……気でも触れたか……衛兵。こやつらをつまみ出せ」


陛下の一言によって会場からつまみ出されていく殿下一行。

ちなみに取り巻き連中は、殿下と同じように現実を直視できないものや、状況が理解できていないもの、真っ先に逃亡しようとしたものなど、いろいろな反応でしたが、みんな仲良く連行されて行きました。


「レイチェル様、やっぱり私……」


「駄目よ。あなたが私のそばを離れるなんて……許さないからね」


「……はいっ」


さっきまでの喧騒が嘘のように、既に二人の世界に入っていらっしゃる。


はぁ……やっぱり尊いわ。



私は、目の前の尊き光景を見ながら、そっと合掌した。

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