ブランコ
ある日、母さんにききました。
「母さんもいつか死んでしまうの」
母さんは編み物の手を休めて私に語りはじめました。
坊や、おまえがそんなことをきくのは伯父さんが死んだからだろう。
坊や、よくきいているんだよ、人はみんな死ぬが死に方は二通りさ。
ひとつは天使がおりてきて接吻する、知っているね。おまえがこのまま心穏やかに生きていけば、痛くも苦しくもない接吻を受けて眠りにつくだろうさ。
もうひとつは自分で命を絶ってしまうのさ。伯父さんはなぜ死んだのか教えたね。
そうさ、人を殺して絞首刑だ。首でブランコしたがる人間はそりゃ溢れかえっているよ。悪いことをすればロープを用意してくれるんだ。人だって殺めちまうよ。やつらが首でブランコしたあとどうなるか知っているかい。首が絞まるとあっという間に冷凍のまぐろみたいにゆあーんゆあーんと揺れ始めるんだ。そして首が絞まり切れて、まるでちぎり団子さ。
死刑を見に行くやつらはみんな、そういう死を見に行ってんだね。
ギロチンの露になった王妃なんてよく知ってるじゃあないか。あんなのは七面鳥みたいなもんさ、首を切ってから安心して消費されてくのさ。
母さんはなんだろうね、首でブランコはしないさ。
冗談めかして、さあ寝た寝た、と促す母がいまだに脳裏に生きているので、私はときどきこの話を思い出すのです。
母はこの三年後、発狂して首を吊りました。ゆあーんゆあーんと、母の顔をした冷凍のまぐろが、わたしの部屋に揺れています。
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