パレット
怜-𝑟𝑒𝑖-
単話予定
「今日もいい天気」
パレットが赤く色付いた。
彼女は思いで絵を描く画家だ。彼女が悲しんでいるとパレットの色は青みがかり、陽気でいれば暖かみを増す。そんな不思議なパレットで絵を描く。
彼女の描く絵は、とても微細で鮮やかな色だと評判だった。売れ行きも良かったものの、最近はパレットの色がくすんで来ている。そのせいか、絵の売れ行きもいまいちだった。
その事を嘆いていたある時、脳内に声が響いてきた。天使が彼女に語りかけたのだ。
『あなたは本当の自分を見失っている。』
彼女は驚きつつも、こう思った。
そんなことはない、今朝だってこの美しい自然、広大な空に心から感動している。そんな美しさを原動力に絵を描いてきたというのに、何を見失っているというのか。
…ズキン!
それを考えると、ひどい頭痛がしてきた。「何だこれは」とうろたえる彼女。そして脳内に映像が浮かび上がってくる。
-教室と制服。ありふれた学校の風景。みんな笑ってる。私を見てる。-
ふと自分の姿を目にすると、そこには泥だらけの自分が立っていた。
「なにこれ?こんな記憶、知らない…」
自暴自棄になる彼女に天使が訴える。
『これはあなたが心の奥深くに閉まった記憶。あなたが閉ざしたとてもとても辛い思い出。本当のあなたは、今は眠っています。』
…彼女はとても信じられないと感じながらも、天使のとても暖かく気迫のあるオーラに圧倒され、少しづつこう思い始めていた。
-私はどうやら夢を見ていたみたい。内側で作った空想のキレイな世界を見続けていたくて、外側の本当の汚れた世界から意識を切り離していたんだなぁ。- と。
天使は続けた。
『あなたはもう、自分を受け入れる準備が出来ています。パレットの状態が変わったのは、外側の心と混ざりあっているから。内側で成熟したあなたなら、外側のあなたを守ってあげられる。』
彼女はそれを聞いて不安に押しつぶされそうな自分を自覚しながらも、こう思った。
私のパレットの色は汚れた。けれどそれは、ただ汚れたんじゃない。陰と陽が混ざりあって、それが私なんだな。私は取り繕う必要なんか無かった、私は私を受け入れてあげればいいんだ。外の世界が私を受け入れてくれなくても、私だけは私の味方になってあげられる。そうやって少しづつでも外の世界と、自分の気持ちと向き合っていけば、うまくやっていけるかもしれない。
そんな風に天使の言葉を解釈して、自分に言い聞かせた。勇気を振り絞り、自分を奮い立たせ、
「天使さん、私…ここでの生活が上手くいってたんだ。だから次は…怖いけど、外でも頑張ってみる。」
と言った。
その言葉を聞き入れた天使は、いつでも見守っているとばかりの笑顔で彼女に微笑んだ。すると彼女の意識は、朦朧として行く感覚と冴え渡る別の感覚、2つの感覚に包まれた。
彼女の空想と共に消え行くパレットは、今まで見た事のない唯一無二の色を作っていた。
-終-
パレット 怜-𝑟𝑒𝑖- @Rei1125
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます