206.海水浴(1)

 朝食を食べた私たちは部屋に戻ってきた。


「じゃあ、遊びに行くのか?」

「海に行くんですよね。海で遊ぶと濡れちゃいそうですね」

「そう思って、海専用の服を作っておいたよ」


 私はリュックの中を漁ると創造魔法で作っておいた水着を取り出した。


「じゃーん。これは水着って言ってね、水があるところで遊ぶための専用の服だよ」


 二人に水着を手渡すと、水着を観察した。


「随分と小さい服なんだな。お、生地が伸びるぞ」

「こんなに生地が少ないんですか? なんだか恥ずかしいです」

「伸縮性があって、体にピッタリフィットするよ。恥ずかしいかもしれないけれど、これくらいが海で遊ぶには丁度いいんだよ」

「ふーん、そうなのか。ウチ、着てみるな」


 そういうとクレハはポイポイと服を全部脱いで、水着を着ていく。その隣でのそのそとイリスがゆっくり着替え始める。私も着ている服を脱いで、水着に着替えた。


「どうだ、着替えたぞ! 体にピッタリくっつんだな。動きやすそうだぞ」


 クレハの水着は上下が別れて、おへそが見えるタイプだ。クレハに会うようにシンプルな形にしている。


「肌がこんなに出て……に、似合ってますか?」


 イリスの水着はワンピース型でヒラヒラした装飾がついている。イリスに会うように、可愛らしいデザインにしていた。


「二人とも似合っているよ。うんうん、頑張って想像したかいがあったよ」


 私の水着は上下に別れていて、スカートみたいな装飾がついている。まぁ、子供水着の無難なデザインかな。


「うおぉぉっ、動きやすいぞー!」

「体がスース―して落ち着きません」

「その内なれるよ。そうそう、イリス来て。髪の毛を結ってあげる。海じゃ、邪魔になるからね」

「ありがとうございます」


 イリスをベッドの端に座らせると、私はベッドの上に上がった。イリスの長い金髪を櫛で梳かしながらかき集め、頭の上の方でリボンで固く縛る。


「うん、ポニーテールの完成」

「おー、いつものイリスじゃないぞ」

「えへへ、似合いますか?」

「「似合ってる、似合ってる」」


 髪を上げたことで、イリスの印象が大分違った。ふふっ、これはケイオスに見せたくなる可愛さだ。どんな反応をするか見てみたいなー。


「あ、ノアは髪の毛を結わなくてもいいんですか?」

「あー、やるよ。二つ結びにしようかなって思ってるの」

「じゃあ、次は私にやらせてください」


 髪の結い合いっこなんて、なんか可愛らしいな。昔の子供時代を思い出すよ。私はベッドに座ると、今度は後ろにイリスがやってきて髪の梳いてくれる。そして、綺麗に髪を束ねるとリボンで固く結ぶ。もう片方も結ぶと二つ結びの完成だ。


「どう?」

「似合ってます。髪を結ぶと印象が変わってきますね」

「じゃあ、髪を結んでいるウチも印象が違う?」

「クレハはずっと髪の毛を結んでいるから印象は変わらないかな。解いたら印象が変わるかも」

「へー、そんなもんか。でも、髪を結んでいた方が楽だからこのままでいいや」


 洗浄魔法を使うと髪の毛も綺麗になるから、洗う必要もないしね。でも、髪を洗うのも気持ちがいいから、今度シャンプーとか出して洗う気持ちよさを体験してもいいかも。


「あ、それとサンダルね。靴だと脱ぎにくいし暑いから、これに履き替えてね」


 リュックの中からサンダルを出す。これはクレアさんのところで作ってもらったものだ。靴みたいな繊細な造形が必要なものは職人に作ってもらった方が私が作るより断然良いものができるみたい。私の想像力が足りないせいでもあるけどね。


「あ、履く前にこれを体に塗ろう。日焼け止め」

「なんだそれ?」

「こんな姿で外にいると肌が日焼けて痛くなるから、それを予防するためにね」

「そういうものがあるんですね」


 まぁ、これも創造魔法で私が出したものなんだけどね。この世にはない容器に入ったものだから、取り扱いは慎重にだ。人に見られると、何を言われるか分からないからね。


「はい、手を出して。これを体に塗るの。こうやって、伸ばして」

「ふーん」

「これで日焼けるのを止めれるんですね」


 クレハはあんまり興味がなさそう、イリスはどことなく真剣だ。二人の手に日焼け止めを乗せると、体に塗り始めた。顔、腕、体、足と順番に塗っていくと、濡れない場所があることに気づいた。


「むぅ、背中が塗れないぞ」

「じゃあ、塗ってあげるよ」


 背中に腕を伸ばしたが届かない。私は自分の手に日焼け止めクリームを乗せると、クレハの背中に塗っていく。


「うひゃぁっ!」


 すると、クレハの体が飛び上がった。


「どうしたの?」

「すんごいこそばゆいぞ」

「はいはい、我慢だよー」

「うわー、何する! やめっ、うひゃひゃひゃっ!」

「こら、逃げるな! イリス、捕まえて!」

「はい!」


 こそばゆくて逃げるクレハをイリスがベッドの上で押さえつけ、強引に背中に塗っていく。


「うひゃひゃひゃひゃっ! や、やめーっ!」


 クレハはこそばゆくて暴れるが、意外とイリスの力が強いのか逃げられない。ジタバタとベッドの上で暴れていると、ようやく日焼け止めクリームを塗り終えた。


「はい、終わりだよ」

「うぅ……酷い目にあったぞ」

「しっかり塗らないと、後で痛い目にあっちゃうよ」


 のっそりと起き上がるクレハは大分やつれているように見える。クレハが終わったから今度はイリスだ。そう思ってイリスを見ると、それに感づいたのかイリスは戸惑っている。


「えっと、その……や、優しく塗ってください」

「いけ、クレハ!」

「おうよ!」

「きゃっ! 強引は嫌です!」


 暴れないようにクレハに掴んでもらうと、イリスの背中に日焼け止めクリームを塗っていく。


「ひゃっ! んんーっ! く、くすぐっ……!」

「イリス、動くなよー!」

「だって、そんなことっ……くくっ、はははっ!」


 ペタペタと塗っていくと、イリスは体をよじってなんとか耐えている。こそばゆくて笑いだすイリスだけど、クレハより暴れていないので塗りやすい。あっという間に日焼け止めクリームを塗ることができた。


「よし、おしまいだよ」

「はー……なんだか疲れました」

「疲れた? 遊ぶのはこれからだぞ!」


 背中から手を離すとイリスは脱力して、大きなため息を吐いた。まぁ、あんだけ騒げば疲れるよね。すると、手に持っていた容器が突然奪われる。そっちの方を見ると、ニヤニヤと笑ったクレハがいた。


「最後はノアの番だぞ」

「ですね」


 イリスもどこか楽しそうな顔をして、二人してにじり寄ってくる。思わず腰が引けてしまう。


「さっきの恨み、晴らしてやるー」

「ノアばかり楽しい思いはさせませんよ」

「そんな……私は日焼けを防ぐために」

「かかれー!」

「はい!」


 クレハとイリスに掴まれると背中に手が伸びて、日焼け止めクリームを塗られる。あまり触らない部分なので、強烈な刺激になった。


「ひゃっ! くすぐったっ……やめっ!」

「おりゃおりゃー!」

「どうですか?」

「あはははははっ! だめーっ、もう止めてー!」


 二人の手で背中を触られると、こそばゆくて仕方がない。逃げようとするのだが、二人に掴まれて逃げれない。早く終われー! と、心の中で叫んでいると、背中から手が離れた。


「ノア、終わったぞ」

「なんだか楽しかったです」

「そうだな!」


 楽しかったです、じゃないよー……と、私は脱力した。


「これ、結構しんどい」

「ウチだってしんどかったぞ」

「私もしんどかったです」


 三人ともテンションが下がった顔をしていた。でも、先ほどのことを思い出したらなんだかおかしくなってきた。


「あははっ、遊ぶ前から疲れるなんてね!」

「ウチはちょとだけだぞ、ちょっとだけ疲れた感じだ!」

「これ、毎日やるんですか? ちょっと大変ですね」


 なんだか、日焼け止めクリームを塗ることも遊びになっていたみたいだ。疲れる遊びだけど、日焼けを防ぐためにもこれは必要だから仕方がない。


 ようやく動き出すと、リュックの中から薄い服を出した。


「はい、そのままじゃちょっと恥ずかしいから、これを羽織って行こうね」

「嬉しいです。このまま移動になったら恥ずかしいなって思ってました」

「ウチは恥ずかしくないけど、まぁいいよ。着ていくよ」


 作ってもらった薄手で前開きのパーカーを手渡す。三人で羽織ると、いい感じに露出が減った。これだったら、問題なく村の中を歩けそうだ。


「よし、海に行こう!」

「おう!」

「はい!」


 楽しい夏の遊びの始まりだ。

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