175.ピザ(2)

 チーズを作ることができたなら、あとは簡単だ。トマトソースを作って、生地を作って、野菜やお肉を切って、盛り付けて焼くだけ。うん、最大の難関を突破したから後は簡単に見える。


 じゃあ、先にトマトソース作りからしよう。食糧保管庫からトマト、玉ねぎ、ニンニク、香草を取り出す。キッチンカウンターに並べると、それぞれの下処理をする。


 トマトはさいの目に切って、玉ねぎとにんにくはみじん切りにする。香草は乾燥させた後に粉々にすれば、準備はオッケー。さぁ、トマトソースを作るぞ。


 竈に火を点け、鍋を設置する。油を入れたらニンニクを香り立つまで炒めて、次に玉ねぎを入れる。玉ねぎがしんなりしてきたら、トマト、香草、砂糖、塩、トマトケチャップを入れて、煮立たせる。


 グツグツと煮立たせると、トマトのいい匂いが立ち込めてきた。そのまま水分を飛ばしながら、煮立たせる。


「できた、トマトソースの完成。味見を……うん、美味しい!」


 上手にできた、これなら二人も気に入ってくれるはずだ。早くチーズと一緒に食べたいけど……つまみ食いは我慢しなくっちゃ。みんなで食べるのが美味しいんだから、我慢だ。


 トマトソースを作った後は生地作り。大きな木の器に小麦粉、砂糖、天然酵母を入れて良くかき混ぜたら、油を入れて粉気が無くなるまで混ぜる。均等に混ざったら、生地をまな板の上に置く。


 生地を擦りつけるように捏ねて、生地を滑らかにする。滑らかになったら丸くして木の器に戻す。その上から濡れた付近を被せてしばらく寝かしておく。まぁ、時空間魔法の時間加速を使っちゃうんだけどね。


 時間加速で醗酵を促すと、生地がいい感じに膨れ上がった。醗酵を終わると、また板の上に戻して空気を抜き、三等分に切り分ける。そしたら、生地を丸くするために麺棒で生地を広げていく。


 二十センチ以上の大きさに広げられたら完成だ。うん、生地も上手にできた。あとはトッピングして焼くだけだ。食糧保管庫から玉ねぎ、ピーマン、ベーコンを取り出してまな板の上で切る。


 それから生地にトマトソースを塗り、その上からトッピングを散らしていく。最後にチーズだ。塊のチーズを包丁で細かく刻むと、刻んだチーズを生地に散らしていく。


 これで、下準備は全て完了したね。あとはピザを焼くだけなんだけど……。


「あっ、あれを忘れてた!」


 そうだ、窯の中で焼く時に使うヘラみたいなのがなかった。それがないと窯で上手にピザが焼けない。なかった作ろう、それしかない。


 薪を数本持ってくると、キッチンカウンターの上に置く。薪に手をかざすと、創造魔法を発動させる。頭の中で大きなヘラをイメージして魔法を発動させると、光っていた薪がどんどん長くなり、私の想像通りの物に変化した。


「よし、できた!」


 柄の長いヘラが完成した。これで竈の中に入ったピザを動かすことができる、これで準備の完了だ。早速竈の中に燃やした薪を入れて、窯の中の温度を上げていく。


 十分に温度が上がったところで、ヘラの上にピザを乗せて窯の中にピザを投入する。はじめは変化がなかったけど、次第に匂いが漂ってきたのが分かった。トマトソースとチーズの合わさった匂いがしてきて、堪らなくなる。


 その内、生地も焼け始めたところで、ヘラを使ってピザを回転させて満遍なく焼いていく。端の生地に焦げが付き始めた、そろそろ窯から出す頃間だ。様子を見つつ、ヘラでピザをすくい上げて窯から取り出す。


「できた、ピザだ!」


 トマトソースとチーズのいい匂いが充満する。表面を見ると、チーズがトロトロに溶けていてとても美味しそうだ。早く食べたい気持ちを抑えて、ピザをまな板の上に置く。


 さて、これから六等分にするために包丁で切らないといけない。だけど、切ったら折角のトロトロのチーズが流れていってしまいそうだ。だから、私は考えた。時間停止の魔法をかけてから、ピザを切ろうと。


 そうしたら、トロトロに溶けたチーズが流れ出さないと思う。うん、それでいこう。焼きたてのピザに向けて時間停止の魔法をかけると、包丁を手に持って六等分に切り分けていく。


 包丁を入れて生地を切り、そっと包丁を持ち上げると、チーズがついてこない! うん、時間停止をしてから切ったほうが形が崩れなくてすむ。さくさくとピザを六等分にして、皿の上に乗せた。


「この調子で他のピザも上手に焼いていこう」


 残るピザは二枚、ちゃんと焼き上げて立派なピザにするんだ!


 ◇


「ただいまー」

「ただいま帰りました」

「新しい料理のピザはできてるのかー?」


 二人が帰ってきた! 帰ってきて早々にクレハがピザのことを気にかける。そんなに心待ちにしてくれたのか、嬉しいな。


「二人ともおかえり、ピザはできているよ」

「へー、どんな料理だろう」

「見てみましょう」

「その前に洗浄魔法をかけちゃうね」


 二人に向けて洗浄魔法をかけると、衣服の汚れが落ちた。すると、二人はダイニングテーブルに近寄って、用意されたピザを見た。


「これがピザか! 平べったいんだな!」

「なんだか可愛い形をしてますね」

「今、時間停止の魔法を解除するね。そしたら、良く分かると思うよ」


 興味津々とばかりにピザを覗き込む二人。その二人の鼻を刺激するために、ピザにかかった時間停止魔法を解除した。その瞬間、トマトソースとチーズのいい匂いが立ち込める。


「わ、一気に匂いが強くなった! これがピザの匂いか!」

「小麦の匂いに、トマトソースの匂い……それに嗅いだことのないこの匂いはチーズですか?」

「くんくん、はじめて嗅ぐ匂い……これがチーズの匂いか。思ったよりも美味しそうな匂いなんだぞ」


 匂いを嗅いだ二人はまじまじとピザの上を見た。そのにはトロトロに溶けたチーズが乗っかっている。


「これがチーズか?」

「うん、そうだよ。それがチーズだよ」

「これがドロッとした食べ物ですか……どんな味なんでしょう」

「味が気になるんだぞ! 早く食べよう!」


 クレハが我慢できないとイスに座り、私たちもイスに座った。


「「「いただきます」」」


 すぐに挨拶をすると、ピザに手を伸ばす。


「あちちっ……うわっ、なんだこれ!」

「チーズが伸びてます!」

「そのチーズは熱くなるとそんな風に伸びるんだよ」


 二人はピザを手に取り持ち上げると、上に乗ったチーズがびよーんっと伸びた。手をどんどん離しても、チーズは切れることなく伸び続ける。


「あはは、なんだこれ! どこまでも伸びるぞ、面白い!」

「中々切れませんね。このまま伸ばしてもいいんですか?」

「手でちぎってもいいよ」


 クレハはチーズを限界まで伸ばし、イリスは丁度いいところで伸びたチーズを手で切った。


「ちなみにどうやって食べるんですか?」

「そのままかぶりついちゃっていいよ。こんな風に」


 私はピザを手に取って、ピザの先を口の中に入れて噛む。すると、小麦とトマトソースとチーズのの味がいっぺんに襲い掛かってくる。


「うーん、美味しい!」

「私も」


 ちゃんとピザになってる! 私が食べる姿を見たイリスは同じようにピザの先を口に入れて食べた。


「ん、これがピザ! パンに似ているみたいで美味しいです!」

「そうやってくうのか! ならウチも……むっ! これがピザか!」


 ピザを一口食べた二人は表情を明るくした。気に入ってもらえたかな?


「この組み合わせ、凄くあいますね!」

「チーズがちょっとしょっぱいのが気に入ったぞ。それに感触が気持ちいい!」

「柔らかい食べごこち、癖になりそうです。味も美味しいですし、チーズが好きになりました」

「どんどん食べれちゃうぞ!」


 ピザの美味しさに気づいが二人が夢中でピザを食べ進める。あっというまに一つを完食して、ちょっと満足げな顔をしていた。


「ピザの端っこの生地がとても良かったです。パンみたいな感じがしました。」

「ウチはトマトソースとチーズが乗っかっていた生地が好きなんだぞ」

「好きな部分は人それぞれだよね。私は全体が好きかな」

「美味しいものを食べて、久しぶりにショックを受けました。まだまだ、知らない美味しい物ってあるんですね」

「肉が少ないのが残念だけど、これはこれで美味しいから好きなんだぞ」


 ピザがウケて本当に良かった。これだったら、日常のメニューに入れても大丈夫そうだね。チーズを作るには牛乳が沢山必要だから、牛乳が沢山ある時に作ろう。


「さぁ、まだいっぱいあるから沢山食べてね」

「美味しいものがまだこんなに……幸せです」

「どんどん食べるぞー!」


 美味しいピザを食べながら、三人でワイワイ騒ぐのはとても楽しい。今日もいい夕食の時間を過ごすことができたね。

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