160.魔法の弟子(5)

 翌日もティアナがやってきた。ディルはティアナを送ると、家の手伝いがあると言って戻っていく。


「今日はとうとう魔法を使うんだね。楽しみ」

「そうだね、昨日は家に帰ってから魔力を感じる練習をした?」

「うん、したよ。ちゃんと魔力を感じることができたよ」


 よしよし、ちゃんと練習をしているみたいだね。それだったら、次の魔法を習うところに進んでいってもよさそうだ。だけど、その前に……


「ティアナは今日もお手伝いをしてくれるの?」

「うん。お母さんが魔法を教えてくれるんだったら、ちゃんとお返しをしないといけないよって言われているの」

「そっか、なら今日もお手伝いしてくれるかな?」

「任せて!」


 また今日も小麦作りから始まった。


 ◇


 午前中は小麦を作り、収穫と脱穀をした。昼食を挟み、分身たちに脱穀をお願いすると、とうとう魔法を学ぶ時間になった。


「じゃあ、昨日言った通りに地魔法からでいいのかな?」

「いいよ。早くやろうよ」

「そうだね」


 畑の前に立った私はティアナに魔法のことを教える。


「地魔法でできることは石を出したり、畑を耕したりすることだよ。多分、他にもできることはあると思うけれど、どんなことができると思う?」

「地魔法って地面でしょ? 地面の形を変えることもできると思う」

「それもできそうだね。地魔法を自由に扱うことができるようになると、色んな事ができるようになると思うの。だから、色んな使い方を見つけていこうね」

「うん!」


 さて、苦労もなく魔法を手にした身として、魔法を覚えていないティアナにどうやって魔法を覚えさせようか。とりあえず、魔力を使って地面に変化を与えるところから始めよう。


「まずは地面に手を当てて」

「うん」

「魔力を感じて」

「……うん、魔力あるよ」

「その魔力を手に集中することできる」

「手に集めるってことだね。やってみる」


 ティアナは目を瞑って集中した。その姿を観察していると、手に力が集まっているみたいだ。他人の魔力も感じることができるんだ、そうなると分かりやすくていいね。


「手に魔力が集まってきたよ」

「じゃあ、今度はその魔力を魔法に変換しようか」

「ねぇねぇ、呪文とかないの?」

「呪文? 呪文がなくても魔法は発動できるけれど……呪文があったのほうがいい?」

「うん! お話の中の魔法使いは呪文を言っていたんだよ。だから私も呪文を言いたい!」


 そっか、お話の中の魔法使いは呪文を使っていたのか。そうなると、呪文を言いたくなるよね。うーん、どんな呪文でもいいのかな?


「じゃあ、好きな呪文を唱えてみようか」

「うん! ……地面さん、どうか動いてください。トゥピトゥピレイホー」


 呪文ってそっち系か! 不思議な呪文だけど、可愛い。多分、話の中の魔法使いはそんな呪文を使っていたんだろうなぁ。まぁ、魔法が発動すればいいから呪文は言いやすいものがいいよね。


 ティアナの手元を確認してみると、手から少し魔力が漏れているように見える。きっと魔法が発動しているんだろう、でもその量はとても少ない。まだまだ魔力を魔法に変換できていないみたいだ。


「うーん、レマレマコータリュー」


 呪文を変えてきた! ティアナのいう呪文って掛け声見たいな役割なのかなー? でも、よくそんな呪文を思いつくよね。幼女、恐ろしい。


「どう、魔法は出てきた?」

「うーん、あんまり。呪文が悪いのかなー?」


 難しい顔をして考える。一応魔力が集まって放出している感覚はあるんだね。ということは、魔力から魔法へ変換するところを重点的にすればいいかなー。


「しっかりと頭の中で想像してね。地面が動くイメージをしっかり持って、魔力を出すんだよ」

「イメージって大切なの? 呪文と同じくらい?」

「うん、呪文と同じくらいに大事だから、しっかりと頭の中で想像してね」

「うん、分かった」


 明るい表情をしたティアナは、真剣な表情になると手を地面の上にかざした。


「むむむ、地面を動けー地面よ動けー。イリパッパリムアムー」


 お、今度は前よりも魔力が放出されてる。地面のほうは……表面が動いているように見える。ということは、魔法が発動したってことかな? もしかして、地魔法が生えてきたってことはないかな? 鑑定をしてみよう。


【ティアナ】


 年齢:七歳

 種族:人間

 性別:女性

 職業:村人

 称号:魔法使いの卵


 だめだ、まだ地魔法は生えて来てない。でも、少しでも魔法が発動しているってことは、もう少し頑張れば生えてくる可能性もある。


 ティアナは手を動かしながら、色んな呪文を言って魔法を発動させようとしていた。真剣な顔つきでちょっと間抜けな呪文をいう姿は可愛らしくて、見ていて癒される。


「あ、今少し地面が動いたんじゃない?」

「えっ、本当? じゃあじゃあ、もっと頑張るね!」


 魔法が発動したかもしれない、と教えてやるとティアナは手放しに喜んだ。すぐに表情を真剣にすると、呪文を口ずさんで魔法を発動させようとする。


「もっと、土を動かすイメージをして。魔力で動かすイメージだよ」

「魔力で動かす、魔力で動かす……」


 目を瞑って真剣な顔をしてティアナが魔法を発動させようとしている。手をかざしたところの土の表面はフルフルと震えているのが見えた。魔力は届いている、あとはイメージを形に出来るかどうかだ。


 黙って見守っていると、土に変化が出てきた。もこもこと地面から土が盛り上がってきたのだ。


「その調子。それでもっと魔力を広げてみて」

「魔力を広げる、魔力を広げる」


 拳くらいの広さの地面がもこもこと土が盛り上がってきた。それが徐々に広がっていく、もこもこと土が盛り上がってきて、畑が耕されているように見える。


「そのまま目を開いて地面を見てみて」

「……あっ、もこもこしている!」

「その調子でもっと畑を耕して」

「うん!」


 目を開いたティアナは嬉しそうな顔をした。もう呪文は口にしておらず、魔法の発動に集中して畑を耕そうとしている。そのまま見守っていくと、少しずつ土が盛り上がっている範囲が広がってきた。


「その調子だよ。もっと広げることができる?」

「やってみる、うー!」


 力を籠めると、盛り上がっている土が広がってきた。いい調子だ、もこもこと土が盛り上がっている広さは三十センチくらいかな。


「ふー、疲れちゃった」

「見て、こんなに畑を耕せたよ」

「わー、本当に? これ、私がやったの?」

「うん、そうだよ!」

「私、魔法が使えたんだ。やった、やったよー!」


 魔法が使えたととても喜んでいた。その場で何度もジャンプを繰り返したり、その場で回ってみたり、とにかくはしゃいで喜んだ。


 そうだ、地魔法が生えたか確認してみよう。


【ティアナ】


 年齢:七歳

 種族:人間

 性別:女性

 職業:村人

 称号:魔法使い

 魔法:地魔法レベル一


 えっ、称号の部分が魔法使いに変わっている。地魔法が生えてきたから、もう卵じゃなくなったのかな? 魔法を覚えたから、卵でいる必要がなくなったってこと? 私たちの称号とは全然違うみたいだ。


 魔法使いの卵にはレベルの概念がないのは驚いた。魔法が扱えるようになったのに、魔法使いの卵のままだったら可笑しいし、これはこれで正解なのかな?


「お姉ちゃんどうしたの?」

「えっ、あぁ何でもないよ。そんなことよりティアナが地魔法が使えるようになったよ」

「えっ、本当! これで私も魔法使いだ!」


 わーい、と手を上げて喜ぶ。まぁ、これで憧れの魔法使いになれたのだから、いいことだよね。微笑ましい気持ちで、喜ぶティアナを見守った。

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