159.魔法の弟子(4)

「魔力を感じ取れたら、次はいよいよ魔法の発動ですね。これは、感覚的なものですから、ノアちゃんのほうが詳しいと思いますよ」

「そうだね、ここからは私でも教えられると思う」

「えっ、もう少しで魔法が使えるようになるの?」

「うん、そうだよ」

「やったぁ! 私も魔法使いだ!」


 ティアナは手を上げて喜んだ。素質はあるみたいだから、魔法を使えるのも早いかもしれないね。


「どんな魔法を使いたいですか?」

「えーっと、危なくない魔法がいいかな」

「危なくない魔法ね……水魔法とか地魔法が危なくないと思うよ」

「地魔法ってなぁに?」

「石を出したり、地面を耕したりすることができるよ」

「地面を耕す? ……それいい! それ覚えたらお父さんのお仕事手伝えるようになる!」


 地面を耕せること知るとパアァッと表情を明るくした。農家だもんね、家の仕事は重要だ。


「じゃあ、先に習うのは地魔法にしようか」

「うん! 私もお父さんの役に立てる!」

「そう、良かったですね。じゃあ、今日はこの辺りで帰りますか?」

「うん、そうする。エルモさん、また来てもいい?」

「もちろんいいですよ。またお昼を一緒に食べたり、お話ししましょうね」


 少しの時間しかいれなかったけれど、エルモさんが楽しそうにしてくれて本当に良かった。すると、隣にいたティアナがもじもじと恥ずかしそうにする。


「あの……エルモ、お姉ちゃん」

「はい、なんですか?」

「その……教えてくれて、ありがとう」


 照れながら上目遣いでエルモさんにお礼を言った。その様子を見たエルモさんはというと……。


「なんてかわいいのでしょう! また、ここに来てくださいね、絶対ですよ」

「う、うん……魔法のこと、また教えて」

「はい、もちろんです!」


 ティアナの可愛さに身悶えして、嬉しそうな顔をして何度も頷いた。うんうん、ティアナは可愛いよね。


「もし錬金術に興味があったら言ってくださいね、教えますので」

「錬金術ってなぁに?」

「色んな物を作る魔法ですよ」

「えー、そんな魔法もあるの? 凄ーい!」


 魔法と聞くと興味津々になっちゃうんだね。錬金術にも興味を持って、そっちも教えて欲しいってなったら面白いことになりそう。でも、そっちの適正はないみたいだけど、そういう時はどうなるんだろう?


「魔法って凄いね。お話で聞いていたよりももっとすごいことができるの。魔法使いっていいなー」


 カウンターに頬杖をついて、夢心地で話していた。ティアナの中にある魔法使いの想像がどんどん書き換えられているみたいだ。


「ティアナは魔法使いになって何がしたいの?」

「あのね、お話にあったいい魔法使いになりたいの。困った人を助けたりして、ありがとうって言われる魔法使いになりたいな」

「素敵な夢ですね。きっとティアナちゃんならなれますよ」

「えへへ、そうかな」


 きっと家でお母さんとかのお話に魔法使いが登場するんだろう。そんな話に夢中になって、いつかそんな風になりたいと思っていたんだろうな。いい夢だ、できるだけ応援したい。


「畑を耕せる魔法を使えるようになりたい。そしたら、困っているお父さんを助けられるから!」

「そうなったら、ティアナちゃんは話の中の魔法使いになれますね」

「そうなったらいいね。よし、じゃあ地魔法を覚えに行こうか!」

「うん!」


 お話の中の魔法使いになれた時、ティアナはどれくらい喜ぶのだろうか。それを見てみたいってだけでも、魔法を教えてあげたいな。


「それじゃあエルモさん、今日はありがとう」

「えっと……ありがとう」

「ふふふ、どういたしまして。また来てね」


 優しい笑顔のエルモさんに見送られて、私たちはお店を後にした。


 ◇


 自分の家に戻ってくると、分身たちは消えていた。きっと作物所に小麦を届けに行ったんだろう。みんなで行くと驚かれるけれど、大丈夫だったかな?


「分身さん、いなくなったね」

「うん、ちょっと用事をやりにいったんだよ。すぐ戻ってくる」


 分身のことは置いておいて、地魔法を教えようとした。だけど、その時遠くから声がかかった。


「おーい」

「あ、お兄ちゃんだ!」


 遠くからこちらに向かって駆けてくるディルがいた。


「遅くなる前に帰るぞ」

「えー、これから魔法を覚えようとしたのに……」

「仕方がないよ。魔法は明日にお預けだね。明日はお手伝いはあるの?」

「明日のティアナのお手伝いはないぜ」

「じゃあ、明日は来れるね。魔法は明日にしようか」

「うん……残念」


 しょんぼりとするティアナ。どうにかして元気づかせてあげたいな。


「そうだ、今日は魔力を感じることを教わったよね。それを家でもやってきてね、そうすると魔法を上手に使えるようになるから」

「えっ、本当? やる、やってみる!」

「明日のためにしっかりと魔力を感じてね」

「分かった!」


 ティアナは拳を握りやる気を漲らせた。元気になってよかった、これで落ち込むことなく家に帰れるね。


「助かったよ、ありがとう。じゃあ、また明日よろしくな!」

「うん、任せて」

「お姉ちゃん、じゃーねー!」

「バイバイ!」


 ディルに手を引かれてティアナは家へと帰っていった。その後ろ姿を見ながら手を振って見送る。楽しい時間が終わってしまった、ちょっとだけ寂しさを感じた。


「さて、私は自分のことをしますか」


 背伸びをして気合を入れた時、荷車の音がした。振り向くと一体の分身が荷車を魔動力で操作して戻ってきた。


「あ、おかえり!」

「ただいま。そっちはどうだった?」

「うん、一歩前進ってところだよ」

「そう、良かったね。はいこれ、今回の売り上げだよ」

「ありがとう」


 分身から売り上げの入った袋を受け取ると、分身に手を当てて魔力を吸い取る。すると、分身は消えていなくなった。私がいないところでやることが終わっているのは本当に助かる。


 でも、全部任せきりにしたら自分が怠けてしまうから、ほどほどにしないとね。さて、動物たちを家に入れたら、夕食作りをしよう。今日は何を作ろうかな。


 ◇


「へー、今日はティアナが来たのか」

「魔力を感じることができたのですね」


 夕食後、今日あったことを話すと二人とも興味津々に聞いてくれた。


「明日は魔法を教えるつもりだよ」

「もし、魔法が使えるようになったらノアの仲間が増えますね」

「ティアナがノアみたいに色んな魔法が使えるようになったら凄いんだぞ」

「魔法を使ってお手伝いができるって知ったら、本当に喜んじゃってさ。可愛かったよ」

「お話の中の魔法使いになりたい、って可愛らしい夢ですね」

「でも、その気持ちは分かるぞ。ウチも憧れたなー」


 やっぱり、誰にでも憧れってあるよね。それが叶うって知ったら嬉しいし、はりきっちゃう。


「クレハは何に憧れてたの?」

「ウチは冒険者だな! 自分の意思で好きなところへ行って、好きなことをして、気ままに生きる感じが好きだったぞ。ちなみにイリスはお姫様に憧れていたんだよな」

「それは、私の小さい頃です。でも、昔はお城に住んでみたいと思ってましたねー」

「へー、二人とも憧れは抱いていたんだね」


 クレハは冒険者でイリスはお姫様か、二人ともらしい選択だ。


「そういうノアはどうでした?」

「召使いをする前はなんでもいいから成り上がろうって思っていたけど、召使いになってからは穏やかな日常を過ごしたいって思っていたよ」

「じゃあ、憧れていた人とかいないのか」

「人はいなかったね。憧れの状況だったかな」


 召使いの時は本当に日常が辛かったから、とにかく穏やかに過ごしたいっていう気持ちが強かったと思う。そう考えると、今の状況って憧れに近いかもしれない。


「ということは、ノアもクレハも憧れを叶えたんですね」

「イリスの憧れは無理そうか? お城でも作ればいいのか?」

「んー、そういう訳じゃなくて。お城も憧れますけれど、ドレスを着てダンスを踊りたいですね」

「お城にドレスかー、中々手に入らないものだね」

「いいんです。憧れているだけでも楽しいですから」


 叶えてあげたいけれど、難しいな。クレハと一緒に考えるけど、いい案は思い浮かばない。でも、ドレスとダンスならなんとかなりそうだ。そのきっかけがあればなー、と私たちは話に花を咲かせた。

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