158.魔法の弟子(3)
「「ごちそうさまでした」」
美味しい昼食の時間が終わった。ティアナと交換しながら食べる、楽しいひと時だった。
「少し休む?」
「ううん、平気。お手伝いの続きする」
「そうか、なら見に行こうか」
テーブルの上を片づけると、外へと出ていく。作業をしている場所を見ると、分身たちがせっせと脱穀をして実を集めていた。
「作業はどう? 順調?」
「うん、順調だよ。だから、二人の手伝いはいらないよ」
「もう少しで終わるし、二人は魔法のことをしていて」
「そっか、分かった」
もう分身たちだけで仕事をしてくれるらしい。まぁ、こんなに人数いたら、もうお手伝いは必要ないよね。
「というわけで、私たちのお手伝いは無くなりました」
「いいの?」
「大丈夫だよ。ティアナは沢山お手伝いしてくれたし、本当に助かったよ」
「えへへ、そう?」
頭を撫でると嬉しそうにしてくれた、可愛いなぁ。さて、暇になったということはとうとう魔法を教える時間になった。
「じゃあ、ティアナに魔法を教えよう」
「やったー!」
「……あれ?」
どうやって魔法を教えればいいのか分からない。呪文があるわけじゃないし、ティアナが魔法を扱える訳ではない。一から魔法を教える時ってどうすればいいんだろう?
「うーん」
「どうしたの?」
「どうやって、魔法を教えればいいのか分からなくて」
「えー! そうなの!」
魔法ってどうやって教えればいいんだろう? というか、何を教えればいいの? 生活魔法を教わった時はどうしたっけ? 必死に覚えた割にはあんまり覚えてないんだよなぁ。
腕を組んで唸ってみるが、解決方法は分からない。どうしたらいいか悩んでいると、ふと思い出した人がいた。私に錬金術を教えてくれたエルモさんだ。もしかしたら、エルモさんなら解決方法を知っているかもしれない。
「ティアナ、私一人じゃ魔法を教えられないかも。だから、他の人に助けを求めようと思う」
「どんな人?」
「錬金術を使っている人だよ。この人も色んな魔法を使う人なんだ」
「他にも魔法使いがいるの? 気になるなぁ」
「じゃあ、その人に聞きに行こうか」
「……恥ずかしいな」
「一緒だから大丈夫だよ」
なんとかティアナを説得して、私たちはエルモさんの家へと向かった。
◇
「エルモさん、いますかー?」
お店の中に入り声をかける。すると、カウンターの奥から物音が聞こえた。すると、カウンターの下からひょこっとエルモさんが立ち上がる。
「ノアちゃん、いらっしゃい」
「おじゃまします。何をしていたんですか?」
「棚の整理をしていたところです。今日は何か用事ですか?」
「実は教えてもらいたいことがあるの」
「もちろん、いいですよ。座って……あら、もう一人いますね」
エルモさんは私の後ろにいるティアナの存在に気づいた。ティアナは恥ずかしそうに後ろに隠れて、エルモさんを覗き見る。
「こんにちは、お名前はなんですか? 私の名前はエルモです」
「……ティアナ」
「そう、ティアナちゃんっていうの。はじめまして、ここで錬金術師をしています」
「お姉ちゃんも魔法を使えるの?」
「えぇ、使えますよ。ほら、火」
指先で火をつけてみると、ティアナは少しだけ私の後ろから出てきた。魔法が好きだから、使う人がいると惹かれるんだね。
「今、イスをもう一脚用意しますね」
そういったエルモさんはカウンターからこちら側に来ると、部屋の隅に置いておいたイスをカウンターに並べた。
「どうぞ、座ってください」
エルモさんに進められて、私はティアナと一緒にカウンターに近づいて席につく。ティアナだけはちょっとオドオドしながらもゆっくりと席についた。
「ノアちゃんのお友達ですか?」
「うん、最近村に移住してきた子で仲良くなったんだ。あ、魔法がとても好きな子だよ」
「そう、魔法が好きだったんですね」
「それでね、その魔法のことでエルモさんに教えて欲しいことがあるの?」
「私でいいんですか? 魔法ならノアちゃんのほうが上手ですから、私が教えられることがありましたかね」
不思議そうに首をかしげる。
「この子に魔法を教えようと思っているの。そこで、始めに何を教えていいのか分からなくって」
「まぁ、そうなんですか。はじめはそんなに難しくないですよ。まずは魔力を感じるところから始めましょう」
「魔力を感じるところから? ……あー、生活魔法を覚えた時もやってたの思い出した」
そうだ、生活魔法を覚える時に教わったのは魔力を感じるところからだった。その魔力を感じて、自分の中で魔力があることを確認するんだ。魔法を使うのはその後だ。
「ティアナちゃんが魔法を使うためにはまず魔力を感じるところから始めましょうね」
「魔力を感じる? そうしたら、私も魔法が使える?」
「えぇ、使えるわ」
エルモさんの優しい雰囲気が伝わって少し安心したのかティアナが会話に混ざってきた。エルモさんなら、ティアナと仲良く出来そうだと思ったけど、その通りだった。きっと波長が合うんだよ。
「じゃあ、ここで魔力を感じるところからやってみましょう」
「私がやるね。じゃあ、手を繋ごう」
「うん」
イスに座りながら向かい合わせになると、両手を繋ぐ。
「まずは私から魔力を手に発現させるね」
「うん……ちょっと怖い」
「大丈夫です、痛くもないですよ。ちょっと温かくなるだけです」
「……分かった」
ちょっと怯えたティアナだけど、エルモさんの言葉で落ち着いてくれた。私はティアナが驚かないように、じっくりと手に魔力を集めていく。
「今、少しずつ手に魔力を集めているからね」
「まだ、何も感じないよ」
「これからだよ。もう少し魔力を高めるね」
ビックリさせないように、じっくりと魔力を高めていく。魔力を高めると、手が少しポカポカとしてきた。そのままゆっくりと魔力を高めていくと、不思議そうな表情をしていたティアナの表情が変わった。
「なんか、感じるような……」
「それが魔力ですよ」
「もう少し、魔力を高めるね」
徐々に魔力を高めていくと、ハッとティアナが何かに気づいた。
「うん、感じる! 何かある!」
「そう、それが魔力ですよ。魔力をはっきりと分かるなんて、この子は素質がありますね」
「うん、そうだね」
流石は魔法使いの卵の称号を持つティアナだ、早速魔力を感じている。
「これが魔力……不思議な感じだけど、気持ちいい」
「この魔力を魔法に変換するんです。そうしたら、ティアナも魔法が使えるようになりますよ」
「まずはティアナが自分の中にある魔力を感じるところから始めないとね。この後は、どうしたらいいの?」
「このまま魔力を感じたまま、ティアナちゃんが自分の中の魔力を見つけ出すんです。できそうですか?」
「……うん、やってみる」
私はティアナが分かるように魔力を流して感じさせた。
「私の中の魔力……魔力……見つかれ、見つかれ」
むむむ、と難しい顔をしながらティアナが自分の中に眠る魔力を探していく。私たちはそのティアナを黙って見守った。
「ここにはない。あっちは……ここにもない。うーん、うーん」
悩みながらもティアナは自分の魔力を探していく。店の中ではティアナの悩む声が広がり、それ以外は静かだった。
「これじゃない、あれじゃない。うーん、うーん……ん? これは?」
何かに気づいたみたいだ。集中力を切らさないように今は黙って見守る。
「これが……魔力? やった、見つけた! 魔力をみつけたよ!」
「ティアナちゃん、やりましたね」
「おめでとう、ティアナ!」
「えへへ、ありがとう」
ティアナが自分の中の魔力を認知した! 魔法を使えるまで、あともう少しだ!
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