157.魔法の弟子(2)
「パラパラ、パラパラ」
ティアナが小麦の種を撒きながらそんなことを言っている、可愛い。とても真剣な顔つきで小麦の種を撒いてくれた。分身たちも別れて畑に小麦の種を撒く。
春のいい風がそよぐ午前中、気持ちよさで体の力が抜けそうだった。分身は感覚がないから、春の陽気を一緒に感じ取れないのが残念だ。そしたら、一緒に春を楽しむことができたのにな。
そんなことを思いながら、小麦の種まきは終わった。
「全部撒けたよ、偉い?」
「うん、偉い。お手伝いありがとうね」
「えへへ」
頭をよしよし撫でると、ティアナはとても喜んでくれた。
「これからどうするの? 種に水を撒くの?」
「次はね魔法で種を成長させるんだよ」
「えーっ! 魔法で植物が成長するの?」
話を聞いたティアナは驚いて飛び上がった。そんな魔法があるなんて思ってもみなかったのか、目をキラキラさせて聞いてくる。
「どんな風になるの?」
「魔法を唱えると、種から芽が出て一瞬で大きくなるんだよ」
「一瞬で大きくなるの? 嘘みたい!」
「本当だよ、見ていて」
「本当かなー?」
ティアナは信じられないように首をかしげている。私は地面に手を置くと、植物魔法を発動させた。
「見て、ティアナ」
「……わぁ!」
植物魔法を発動させると、一斉に種から芽が出てぐんぐん成長していく。あっという間に大きくなり、小麦が育った。一瞬で出来た小麦畑、それを見たティアナはまた目を輝かせる。
「本当に一瞬で大きくなった!」
「どう、凄いでしょ?」
「うん、凄い凄い! 魔法ってこんなこともできるんだね」
嬉しそうな顔をして小麦畑を見る。そんなティアナを見ていると、去年のことを思い出す。私も初めの植物魔法の時はそんな風に驚いたなー、一年経つのは早いね。
「私の知らない魔法がいっぱいあって楽しい。お姉ちゃんは凄い魔法使いなんだね!」
「まあね。ティアナも色んな魔法を覚えられたらいいね」
「うん! 私、色んな魔法が使える魔法使いになりたい!」
魔法使いに憧れる、魔法使いの卵の称号持ち。これは運命としかいいようがない。しっかりと魔法を教えて、一緒に魔法で楽しめる仲間になれるといいな。
分身たちが動き出して、小麦を刈り始めた。それを見ていたティアナは不思議そうな顔をする。
「あれ? 小麦が勝手に倒れていく、どうして?」
「あれはね、風魔法を使って小麦を刈っているんだよ」
「えー、風魔法も使えるの? みたい、みたい!」
「じゃあ、見に行こうか」
ティアナを連れて分身の近くに行く。しゃがんでいた分身は手を前にして風魔法を発動させた。真っすぐ飛んだ風魔法は小麦を刈り取り、地面に倒れていく。
「風魔法って目で良く分からないね。でも、何かが飛んだことは分かったよ。そしたら、小麦が倒れたの」
「そうそう、そういうこと。目では良く分からないけれど、風が飛んで小麦を刈り取ったんだ」
「風魔法って風を起こして、人を飛ばすだけじゃないんだ。こんな風に切れるんだね」
ティアナの頭の中では風魔法は人を飛ばすくらいの魔法だと思っていたらしい。きっと、絵本とか物語の影響だろう、考え方が可愛らしい。
「あ、お手伝いしなくっちゃ。私は何をしたらいい?」
「それじゃあ、倒れた小麦を向こうのところまで持っていってくれる?」
「うん、分かった。これくらいなら私にもできそう」
気合を入れたティアナは早速倒れた小麦を両腕で抱え上げて、脱穀機を目指して歩く。よたよたとして頼りないが、きっとしっかりと仕事をこなしてくれるだろう。
「さて、私も刈り取りますか」
小麦畑の前に立つと、私も風魔法を使って小麦を刈り始めた。
◇
小麦を刈りながら脱穀をして、分別して小麦の実を袋に積める。分身たちと手分けをして行うので、作業はスムーズに進んだ。
数人で行った小麦の刈り取りはそれほど時間がかからずに終わると、全員で脱穀と分別を行う。人数がいるせいか、脱穀作業と分別作業も順調だ。
その中でティアナはまだお手伝いをすると言って、分別の作業を手伝ってもらっている。脱穀機で飛ばされた小麦の実を集め、ふるいにかけて、小麦の実を袋に入れた。
この作業が思いの他楽しかったのか、ティアナは楽しそうに作業を続けていく。そんな時、ティアナのお腹が鳴った。
「あ」
「お腹鳴ったね」
「えへへ、お腹空いちゃった」
「じゃあ、お昼にしようか」
「うん!」
私たちは作業を一時中断した。でも、お腹が減らず疲れも感じない分身たちは作業を続けていく。
「休んでおいでー」
「後は任せて」
「いってらっしゃーい」
分身たちに快く見送られながら、私たちは家の中に入っていった。家の中に入ると、ダイニングテーブルの上には朝作っておいたお弁当とティアナが持ってきた鞄が置いてあった。
「ティアナは先に席に座っていて」
「うん」
その間に私は棚に近づきコップを取る。それを持ちながら、ダイニングテーブルに戻って座った。
「あれ? そのコップに水は入っていないみたいだけど?」
「あぁ、水はね魔法で入れるんだよ」
「えぇ、魔法で入れるの? みたい、みたい!」
魔法が見れるとあってティアナはとても嬉しそうだ。
「じゃあ、いくよ……水魔法!」
「あ、水が出た!」
「コップに注いで、はい! そうだ、おまけに氷も出そう。氷魔法!」
「わわっ、なんか塊ができた! これが氷?」
水は見たことがあっても氷は見たことがないらしい。目の前に置くと、珍しそうに突いていた。
「舐めてみたら?」
「うん……冷たい! 雪みたい!」
「氷はね水が凍ったものなんだよ」
「へー、そうなんだ」
チロチロと氷を舌先で舐めて遊ぶ。微笑ましい光景に癒される、そういえばあの二人も初めて氷を見た時は楽しい反応をしたなぁ。
「氷って不思議! ねぇ、昼食食べようよ」
「うん、そうだね」
ティアナは鞄からお弁当箱と布で包まれた物を取ると、中を開けた。お弁当箱の中には肉や野菜のおかずが詰められ、布で包まれた物はパンだ。
「ティアナのお弁当美味しそうだね」
「うん、お母さんが作ってくれたの。お姉ちゃんのお弁当箱は……わっ、色がいっぱい!」
「どう、美味しそうでしょ?」
「うん、美味しそう!」
お互いにお弁当を見せて笑い合った。フォークを持つと、おかずを刺して食べ始める。今はお弁当箱自体に時間停止の魔法をかけているから、お弁当の中身は温かくなっていた。
隣を見てみると、ティアナが美味しそうにお弁当を頬張っている。
「どう、美味しい?」
「うん、美味しいよ。お姉ちゃんもどうぞ」
フォークに刺さったおかずを差し出された。これは食べてもいいのかな? ゆっくりと顔を近づかせて、差し出されたおかずを食べる。自分にはできない味付けをされていて、新鮮で美味しい。
「美味しい。ティアナのお母さんは料理が上手だね」
「色々作ってくれるよ。時々、おやつも作ってくれるんだ」
「へー、そうなんだ。いいお母さんだね。じゃあ、はい。私も」
「わー、美味しそう! いただきます!」
私のお弁当のおかずを差し出すと、ティアナは嬉しそうに頬張った。
「ん、こっちも美味しい! ねぇ、誰が作ったの?」
「私が作ったんだよ」
「そうなんだ、お姉ちゃんは料理が上手なんだね!」
お互いに食べさせあって、なんだか楽しい気分になった。ティアナとお喋りをしながら食べるお弁当は美味しかった。
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