161.魔法の弟子(6)
「えい、地魔法! ヒリトゥルピカー!」
ティアナが地面に手を付けて呪文を唱える。すると、固い地面がもこもこと動き出して、耕されて柔らかい地面に変わった。
「やった、やった! できたよ、私も魔法が使えた!」
目の前で耕された地面を見てティアナは嬉しそうに飛び跳ねた。うんうん、才能があったから覚えるのが早かったね。
「これでティアナも魔法使いだ、良かったね」
「うん! 魔法使いになれたよ! 憧れの人の役に立つ魔法使いまで、あともうちょっと!」
そっか、ティアナの目標は魔法使いじゃなくて、お話の中にいた人の役に立つ魔法使いなんだ。畑を耕すことができる地魔法はきっとお父さんの役に立つと思う、すぐに目標が達成してしまうかもね。
「地魔法は他の事もできるけど、やってみる?」
「うん、やってみたい!」
「それじゃあ、次は石を出してみようか」
「石だね、分かった」
ティアナはまた地面に手をつくと、深呼吸をした。
「石よ出ろ、石よ出ろ……地魔法! ハレムトスピカー!」
魔力を高めて地魔法を発動させる。しばらく見てみるが、周りに変化はない。どうやら、失敗したみたいだ。
「石……出なかった」
「もっと強くイメージしないとダメかも。しっかりと、どんな風に石が出てくるかイメージしてみて」
「うん、分かった!」
残念そうにしているが、アドバイスを伝えると気を取り直した。大きく深呼吸をして、地面に手を置く。
「石が出てくる、石が出てくる……地魔法! ヨルムンドシュピー!」
お、今度はしっかりと地魔法が発動しているみたいだ。地面を見ると、十センチくらいの石が出てきた。うん、とりあえず成功だね。
「ほら、見て。石が出ているよ」
「えっ、本当? あ、本当だ、やったぁ!」
出てきた石を見てティアナあ飛び上がって喜んだ。石は小さいけれど、魔法はしっかりと発動できたし、後は何度も使って魔法の威力を上げるだけだね。
「これ、私が出した石……魔法で出した石。家に持って帰って、みんなに見せたい!」
「いいよ、持って帰って見せたらきっと驚くだろうね」
「魔法でこんなことができるだって教えるんだ!」
大事そうに石を持ち上げると、服のポケットの中に入れた。これで、地魔法でできる畑を耕すことと石を出すことができるようになったね。あとはどんなことができるんだろう?
「地魔法で他にどんなことができると思う?」
「うーん、なんだろう? ……分かんない! でも、教えてもらった魔法で今は色んなことをやってみたい!」
まだ魔法を使いたてのティアナじゃ、魔法の活用方法を考えるのは無理があったか。私にはない発想があるかなっと思ったけど、そう簡単にはいかないね。
「今は覚えた魔法を使ってみたいの! 畑を耕したり、石を作ってみたり。とにかく、やってみたい!」
あんなに控えめだったティアナがこんなに積極的になれるなんて、魔法の魔力ってすごいなぁ。
「じゃあ、やってみようか。あ、魔力には制限があるから、具合が悪くなったらすぐに止めるんだよ」
「うん、分かった!」
そういうと、ティアナは畑の傍に移動すると固い地面に手を当てて耕し始めた。一度に耕せる面積は広くないけれど、何度も使っていると魔法の威力も上がるだろう。今は練習あるのみだね。
私が見守っていると、遠くからディルがやってきた。どうやら、もうお迎えの時間らしい。
「よぉ、今日もティアナのことありがとな」
「ううん、いいよ。それよりも見て、ティアナが魔法を使えるようになったんだよ」
「えっ、そうなのか?」
ディルを連れてティアナの傍へと移動する。地面の上に座っているティアナの手元を見てみると、固い地面がもこもこと動いて耕した。
「うわ、なんだこれ!」
「あ、お兄ちゃん! 見て、私も魔法が使えるようになったの! こうやって……地魔法! コーレルホーラル!」
「地面が動いた! これが魔法か!」
「うん、凄いでしょ!」
「あぁ、ティアナはすごいな!」
地魔法を見たディルはティアナの頭を撫でた。褒められたティアナはとても嬉しそうに笑っている。微笑ましい光景に自然と私の頬も緩んだ。
「この魔法を使ってね、お父さんの畑仕事を手伝おうと思うの。そしたら、畑を耕すのも楽になるでしょう?」
「その魔法があれば、ティアナも一緒に畑仕事ができるな!」
「うん! 役に立つことができる魔法使いになれるの!」
ディルは一緒に畑仕事ができることを喜んでいて、ティアナは役に立てることを喜んでいる。嬉しい気持ちが伝わってきて、私も嬉しくなる。
「明日からお父さんのお仕事手伝うよ!」
「そうか、一緒にやろうな!」
「二人とも一緒に畑仕事ができるみたいで良かったね」
「あぁ、ありがとう。ティアナはまだ小さいから畑仕事ができないと思っていたけれど、魔法の力で一緒に働けるよ」
「私、頑張る! お姉ちゃんから教えてもらった魔法で、みんなを幸せにするよ!」
うんうん、本当に良かった。ティアナは素質があるから、きっと魔法もすぐに上達するんだろうなぁ。その時が楽しみだ。
「じゃあ、帰ろうか。ノア、明日はこれないけれど、また来てもいいか?」
「もちろんだよ。また新しい魔法を覚えたくなったらいつでもおいで」
「うん、お姉ちゃんにはまだまだ教えてもらいたいことがあるから絶対にくるね。でも、しばらくはお父さんのお手伝いをしたいの」
「とても良いことだと思うよ。役に立つ魔法使いになってね」
「うん。お姉ちゃん、バイバイ!」
ディルはティアナの手を引っ張って家へと帰っていった。すぐに魔法を使えるようになったティアナは本当に凄い。まだ地魔法しか教えられていないけれど、一度に詰め込みすぎるのもダメかもね。
ゆっくりと魔法を学んでいって、一緒の魔法使いの友達になってくれると嬉しいな。
◇
「良かったですね、ティアナが魔法を使えるようになって」
「すぐに魔法を使えるようになるなんて凄いな! きっと立派な魔法使いになれるんだぞ」
魔物討伐から帰ってきた二人に今日あったことを話してみた。すると、二人は驚くと一緒に喜んでくれた。魔法使いの友達が増えるのはいいことだからね、とても嬉しい。
「子供で魔法を使えるのは、私たちを含めて四人になりましたね」
「うーん、少ないな。もっと増えれば、もっと楽しいことになるかもしれないぞ」
「魔法使いが増えると、村も助かると思うんだよねー」
農家の子たちに地魔法を教えてあげれば、畑を広げるお手伝いをできる。畑が広がればみんな豊かになるし、村だって豊かになるはずだ。
「だったら、ノアが農家の子たちに魔法を教えればいいんじゃないですか?」
「それができたらいいんだけどねー。でも、農家の子も暇じゃないから、わざわざ覚えるかも分からない魔法を覚えないんじゃないかな?」
「でも、魔法は便利なんだぞ。ウチは身体強化の魔法を教えて、みんなで身体強化を使った遊びをしたいぞ」
「身体強化を使った遊びって危険じゃないですか? なんか、凄い力とか凄い速度とか出て怪我をしそうです」
「怪我をしたらイリスの回復魔法で回復すればいいんだぞ」
農家の子が色んな魔法を使えるようになったら、みんな助かることになるのかな? もし、そうなら今回みたいに教えても大丈夫そうだ。
「今度、子供たちに会ってみようか。もしかしたら、魔法を覚えたいっていう子がいるかもしれないから」
「そうですね。魔物討伐ばかりじゃなくて、村の人たちとも交流をしたいですし」
「そんなこと言って、本当は遊びたいだけじゃないのかー?」
「それはクレハのことを言っているのですか?」
「まぁまぁ。でも、働いてばかりじゃなくて、余裕があるから交流に時間を使ってもいいと思う」
そう、私たちの生活は安定している。だから、少しの時間を他のことで使っても大丈夫なはずだ。私たちはまだ十一歳、子供なんだから遊んだって構わない。さて、いつ時間をとろうかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アマゾンのほうで口絵(カラーイラスト)が公開されました!
可愛く仕上がっているので、ぜひ皆様にも見て貰いたいなぁっと思ったのでコメントを残しておきます。
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