142.雪合戦(1)
「今日は雪合戦をします」
「「雪合戦?」」
昼食を食べ終えた二人に今日の予定を話すと、不思議そうな顔をした。この冬、色んな遊びをした。雪だるまを作ったり、かまくらを作ったり、雪山を作ってソリで滑る遊びもした。けど、まだ雪合戦をしていない。
「雪合戦は雪を丸めて投げて遊ぶ遊びだよ」
「雪だるまのように大きな玉とか作るんですか?」
「そこまで大きくないよ。これくらいの大きさだよ」
「へー、小さい雪玉を投げるのか。それで、投げて終わりか?」
「色々ルールを作れば、色んな遊び方が出来るんだよね。まずは普通の雪合戦をしようか」
二人とも新しい遊びに興味津々みたいだ。雪の遊びは楽しいみたいで、他の遊びをしていた時もとても楽しそうにしていた。だから、雪合戦も気に入ってくれると思うな。
外に行くためにコートを羽織り、新しく買った革手袋をして外に出た。外は厳しい寒さは無くなって、少しずつ気温が上がっているみたいだ。だから、外で遊ぶにはもってこいの日だ。
「外の寒さも和らいできましたね」
「そうだね、そろそろ雪が溶け始めるのかもしれないね」
「えぇ、雪が溶けるのか? そしたら、雪まきたちやかまくらやソリの山も溶けちゃうのか!?」
「そうだね、全部溶けちゃうね」
「そうか……残念なんだぞ」
クレハは雪が溶けると聞いてしょんぼりとしていた。沢山作った雪だるま、中に入って遊んだかまくら、何度も登って滑り降りた雪の山、みんな無くなるのは寂しくなるね。
「だから、雪が残っている内にいっぱい遊んでおこうね」
「今しかできないことですものね」
「雪が無くなる前に遊ぶぞー」
みんなで広い場所に移動する。ここなら、雪合戦に適した場所だろう。
「それで、雪合戦はどうやるのですか?」
「まず、こうして雪玉を作って……」
私はしゃがんで手で雪を集めると、それを丸めて雪玉にした。そして、宣言もせずにクレハに投げてみる。すると、クレハはひょいっと簡単に避けてしまった。
「当たるところだったぞ?」
「そうやって遊ぶんだよ。雪玉を作っては投げて、当たったら負けで当たったら勝ち」
「まずはやってみましょうか。えーっと、雪玉を作って……」
イリスもしゃがんで雪玉を作り始めた。丁寧に雪玉を作ると、それをクレハに向かって投げる。だが、クレハは簡単に雪玉を避けてしまった。
「あー、当たりませんでした」
「なんでウチばっかり狙うんだ?」
「クレハが当てるの難しそうだからかな」
この中で一番雪玉に当たらなさそうなのは、運動神経がいいクレハに違いない。それを言うと、クレハはパァッと表情を明るくして身構えた。
「ふっふっふっ、ウチの動きは素早いからな。二人同時に投げられたとしても、当たらないんだぞ!」
「へー、そうなの? じゃあ、やろうかイリス」
「はい。絶対にクレハに当ててやります」
「出来るものならやってみな!」
張り切ったクレハはその場で反復横跳びをして身軽さをアピールした。私とイリスは顔を見合わせ頷くと、雪玉を作り始める。
「イリス、はじめは雪玉を沢山作るところから始めよう」
「後でまとめて投げるんですね」
「うん、まとめて投げたほうが当たる確率も上がると思うんだ」
「動きが俊敏なクレハに当てたら気持ちよさそうですね」
今も反復横跳びをして身軽さをアピールしているクレハ。このクレハに雪玉を当てることが出来たら、きっと気持ちがいいだろう。そのためにも沢山の雪玉を用意しておかなくっちゃ。
「へいへい、どうした! 全然、雪玉がこないぞ!」
「……よし、これくらいでどうですか?」
「いいね、投げようか」
「はい! いきますよ、クレハ!」
「へいへい!」
動き続けるクレハに向かってイリスは雪玉を投げる。ヒュンッと飛んでいった雪玉はクレハの華麗なステップによってかわされた。それに続くように私も雪玉を投げるが、クレハに簡単に避けられてしまう。
「ウチには当たらないんだぞ!」
「そう言っていられるのも今の内です、それ!」
「大人しく雪玉に当たれー!」
「そうはいかないぞ!」
連続で雪玉を投げると、クレハは物凄い速さで雪玉を避けていった。正直、雪玉を投げる速度よりもクレハの動きのほうが速く感じるほどだ。何度も投げるが、クレハには中々当たらない。
これは作戦が必要だ。
「イリス、両手で持って同時に投げよう。合図をしたら、同時に投げるよ」
「逃げ道を無くすんですね、分かりました」
雪玉を同時に投げると、きっとどこに逃げていいか分からなくなると思う。その時に雪玉に当たればこちらの勝ちだ。今は普通に投げてクレハを油断させておいて……
「今だ!」
「はい!」
クレハに向かって一気に四つの雪玉が投げ出された。
「うわっ!?」
同時に投げ出された雪玉を見てクレハは驚いて、足が止まった。すると、一つの雪玉がクレハに直撃する。やった、とうとうクレハに当たったぞ!
「あー、当たっちゃったぞ。同時に投げるなんて卑怯だぞ!」
「卑怯も何もないよー」
「そうですよ、これは作戦です」
「作戦だっても許されないぞ! もっと、分かりやすく投げるんだぞ!」
雪玉に当たったクレハは悔しそうに吠えている。だけど、作戦も実力の内だ、私たちは気にしないどころかもっとそれを利用しようと考えた。地団駄を踏んでいたクレハに腕いっぱいに抱えた雪玉を投げつける。
「うわぁっ!」
大量の雪玉が降ってきたクレハは驚いた。避けることを忘れて、次々と雪玉が当たって、クレハは雪で真っ白になる。
「油断しているからそうなるんですよ」
「避けられなかったクレハの負けだね」
イリスと笑いながらクレハを指さした。クレハは頭に乗った雪をほろい、コートについた雪をほろう。
「二人がこんなことをするなんて酷いぞ。こうなったら……」
クレハはその場でしゃがみ、雪玉を作った。そして、それを力いっぱいに投げつけた。雪玉は真っすぐに飛び、イリスの顔面にぶつかる。
「わっ!」
「ノアも……それっ!」
「あっ!」
クレハはもう一つ雪玉を作り、私に向かって投げた。突然雪玉を投げられた私は避けることが出来ず、顔面に雪玉を当てられてしまった。二人の顔にはべっとりと雪が付着して、ボトボトと落ちる。
「はははっ、変な顔!」
雪玉を顔面に当てられた私たちは顔を見合った。渋い顔をしているイリスが見えて、それがなんだか可笑しく思える。
「イリス、凄い顔してたよ」
「そういうノアだって面白い顔してましたよ」
「二人とも可笑しな顔をしてたんだぞー!」
お腹を抱えて笑い続けるクレハ。それがなんだか悔しくて、仕返しをしたいと思った。私が雪玉を作ろうとすると、イリスも雪玉を作り出す。二人とも考えることは同じだ。
雪玉を作ると、今だに笑っているクレハに向かって雪玉を投げた。
「わふっ!」
二人の雪玉が見事にクレハの顔面に直撃した。驚いたクレハは尻もちをつき、顔を左右に激しく振って雪を落とす。
「笑った仕返しです」
「クレハも面白い顔になってるよ」
ふふっ、と笑い合ってクレハを笑う。きょとん、とした顔をしていたクレハだったが、すぐに頬を膨らませた。
「やったなー……今度はウチからだぞ!」
クレハは雪に手を突っ込むと、片手ずつで小さな雪玉を作った。それを素早く私たちに投げる。だけど、今回はクレハの動きが分かったので、その雪玉を避けることが出来た。
「もう、そう簡単には当たりませんよ」
「クレハから離れろー」
「逃げても無駄だぞ!」
それからクレハの雪玉から逃げるように私たちは走り始めた。イリスと私は走って逃げて、クレハは雪玉を作りながら追ってくる。
ただの雪合戦がこんなに楽しくなるなんて、驚きだ。もっと楽しくしたいけど、何かいい手段はないかな? そうだ、人数を増やせばもっと楽しくなるかも!
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