143.雪合戦(2)

「人数を増やして、ちょっと変わった雪合戦をしよう」

「どれくらいまで増やすんですか?」

「そうだなー、九人ぐらい増やそう。そして六対六に別れて雪合戦をする」

「結構人数が多いんだな。なんだか、楽しくなってきたぞ」


 人数を四倍に増やして雪合戦をすることに決めた。私は雪の上に木の棒で図を描いて説明する。


「棒倒し雪合戦とでも名づけようかな」

「雪合戦なのに、棒倒しなのか?」

「そう、二つの陣地に別れたチームは相手のチームの棒を倒したほうが勝ちっていうルールにしようと思う。棒の倒し方は直接棒を倒しに行くか、雪玉で倒すかの二つの手段があるよ」

「なるほど、どちらかの手段を使って棒を倒すゲームなんですね」

「ゲームの最中に雪玉に当たった人はアウトになってゲームから抜けるルールね。壁を三つ作って、その壁に隠れながら相手の棒を狙う感じかな」


 二つの陣地に別れたチームは自分の陣地の壁に隠れながら、相手の陣地にある棒を狙うゲームだ。直接倒しに行ってもいいし、雪玉を投げて棒を倒してもいい。ルールは簡単だけど、ゲーム自体はちょっと難しいと思う。


「あ、顔面に当たった雪玉はセーフっていうことにしよう」

「だったら、雪玉に当たりそうになったら顔面で受けてセーフっていうことも出来るんだな」

「それは出来るけど……クレハはやるつもり?」

「ゲームに勝つためには頭脳プレイも必要なのだ」

「それは頭脳プレイと言えるんでしょうか?」


 自信満々にいうクレハに私たちはちょっと呆れた。確かにやろうと思えば出来なくはないけれど、結構痛いと思うんだけどなぁ。でも、顔面で雪玉を受けようとする動きは面白いかもね。


「あとのルールは特にないけれど、何か分からないところとかある?」

「大丈夫です。棒を倒せば勝ちで、雪玉に当たったらアウトですね」

「顔面はセーフ、顔面はセーフなんだぞ!」

「うん、大丈夫そうだね。じゃあ、分身作るよ」


 私は分身魔法を発動させると、九人分の分身を作った。その場は一気に賑やかになり、ゲームをするワクワクで胸がいっぱいになる。


「じゃあ、みんなで壁を作ったらゲームを開始するよ」


 声をかけると「おー」とみんなの声が上がった。


 ◇


 二つの陣地の境目付近に二つの棒が立っている。その棒から離れたところには、三つの雪の壁が作られていた。その壁に隠れて、相手の棒を狙う。


「じゃあ、ゲーム開始!」


 声を上げると、ゲームが開始された。私は今、棒から一番離れた壁にイリスの分身といる。ここからだと棒に雪玉を当てるのは至難の業だろう。だけど、ここからなら相手の雪玉も中々当たらない。


 ここから敵の陣地を確認して、前にいる四人に指示を出すことが出来る。前の壁にいる四人は壁に隠れながら、敵の動きを確認していた。


「今は雪玉を沢山作って。私の分身は相手陣地の警戒を」


 後ろから指示を出すと、前にいる三人はせっせと雪玉を作り始めた。分身の私は片手に雪玉を持って、いつでも投げられる体勢で相手の警戒をする。


 動き始めは静かなものだった。お互いに動きがないから、変な緊張感が漂ってくる。先手を打つとしたら、人員を補充するくらいか。


「イリスはあそこに行って」

「分かりました」


 後ろには私一人でもいいかもしれない。今の内に分身のイリスを前の壁に移動させる。そのイリスが壁から出て移動を始めた時、相手側から雪玉が投げられた。


「きゃっ!」


 雪玉をかろうじて避け、イリスはなんとか壁に身を隠すことが出来た。相手もこちらの動きを観察しているみたいだ。これはうかつに動いたら、狙われちゃうね。


「おーい、ノア! これからどうするんだ?」


 すると、クレハが問いかけてきた。どうやって、相手の棒を攻略するか。雪玉で狙うか、直接倒しに行くか……どっちだろう?


 考えていると、向こうに動きがあった。壁から少し体を出して、狙いを定めている。そうして、みんなで雪玉を投げ出した。どうやら、向こうは雪玉を投げて棒を倒そうとしているみたいだ。


「よし、まずは相手の妨害からするよ。雪玉を投げて、相手の動きを封じて」

「よっしゃ、分かった!」

「やってやるぞ!」


 クレハとその分身がやる気を漲らせて声を上げた。二人は壁から体を出すと、向こう側に雪玉を投げ始めた。それに続くように、イリスとその分身も雪玉を投げ始める。


 妨害は上手くいっているみたいで、相手も不用意に雪玉を投げることが出来なくなった。すると、向こう側の動きが変わる。あちらもこちらを狙いだした。半分はこちらへ攻撃をして、半分は棒に向かって雪玉を投げるみたいだ。


 これはのんびりしている暇は無くなった。早くしないと、相手の雪玉で棒が倒れてしまいそうだ。ここは一気に勝負を決めさせて貰おう。


「クレハは二手に分かれて棒を狙いに行って。他は相手にけん制のために雪玉を投げること」

「お、とうとう行くのか?」

「雪玉には当たらないぞ!」


 素早いクレハなら、雪玉に当たる前に棒を倒してくれるに違いない。それに二手に別れることで、どちらを攻撃していいか悩むはずだ。その時間が長ければ長いほど、こちらが有利になる。


 これはスピード勝負だ。けん制する雪玉を絶え間なく投げている間に、クレハが自慢のスピードを生かして相手の棒を倒す。ここで棒が倒れなければ、一気に劣勢になるのは私たち。だから、一発で勝負を決める。


「まずはけん制のために雪玉を目一杯投げて!」

「はい!」

「分かりました」

「分かったよ」


 分身二人とイリスが返事をして、一斉に雪玉を投げ始めた。雪玉は相手に向かって飛んでいき、相手はそれを避けようと壁に体を隠す。今がチャンスだ!


「クレハ!」

「おうよ!」

「任せろ!」


 壁からクレハが飛び出す。二手に分かれたクレハはお互いに離れて、棒に向かっていった。はじめは相手から何もアクションがない。突然のことで驚いているのだろう、きっとどちらを攻撃するか迷っていたところだ。


 だが、それも数秒間の間。すぐに雪玉がクレハに向かって投げつけられる。クレハは雪玉に当たらないように走り出す。棒まであともうちょっと、その時一つの雪玉がクレハに命中した。


「しまった!」


 一人のクレハがアウトになってしまい、クレハは雪の上に滑り込んだ。でも、もう一人のクレハが残っている。もう一人のクレハは雪玉をかいくぐり、棒に向かって飛び込んでいった。


「とりゃ!」


 飛び込んだクレハは伸ばした手で棒を押し倒した。雪玉に当たる前になんとか棒を倒すことが出来た、私たちの勝利だ!


「やった、私たちの勝ちです!」

「やりましたね、クレハ!」

「よし、勝ちだね!」


 イリスと分身たちが喜んでジャンプした。雪玉に当たった分身もそれに気づいて体を起こして、嬉しそうにしていた。肝心のクレハは雪まみれになりながらも、体を起こして喜んでいる。


「あー、やられちゃった」

「クレハの動き速すぎです」

「あれを当てるのは至難の業だよ」


 負けが向こう側が残念と行った様子で壁から出てきた。ぞろぞろとみんなで固まって出てくると、自然とこちら側のみんなも集まってくる。


「へっへっへっ、ウチらの勝利だぜ!」

「ウチらの勝ちだ!」

「一人は当てられたのに、もう一人には当てられなかったぞ」

「あんなの当てられないんだぞー、悔しい!」


 みんなで集まって、感想を言い合った。あの素早いクレハに雪玉を当てるのは難しいと思ったけど、一人は当てられてしまった。今回は運が良かったのだろう、もしかしたら二人のクレハが当てられたら負けていたのはこちらだと思う。


「負けて悔しいです。またやりませんか?」

「いいですね、またやりましょうよ」

「チーム分けはどうします?」

「同じで行きましょう」


 うん、結構楽しかったし、続きをしよう。


「じゃあ、雪玉の雪を集めてこなくっちゃ」

「色々作ったせいで、周りの雪が減っちゃっているからね」

「とりあえず、あっちにある雪を持ってこない?」


 私の分身が雪を集めて来てくれるみたい。これで、長く遊べそうになるね。今日はとことん遊んで、みんなで楽しもう!

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