141.お風呂(2)

「じゃーん、どう?」

「結構良く出来ていると思うんだけど」

「空を見れるように、ちょっと屋根を高くしてみたよ」


 分身たちが作っていた、屋根のお風呂の囲いが完成した。お風呂の上には三角屋根が出来ていて、雨が降っても雪が降っても大丈夫な設計になっている。


 あと、お風呂を隠す囲いも出来た。周りに人はいないけれど、ちょっとは気になるので周囲から一部だけ隠すように囲いを作った。上側は空が見えるように隙間も作り、景色も楽しめるようになっている。


 うん、流石私の分身だ。私の理想そのままの風呂を作ってくれた。


「みんな、ありがとう。これで十分だよ」

「お安い御用だよ」

「気に入ってくれて良かったー」

「今日はみんなでお風呂楽しんでね」


 分身たちを労ってから、魔力を吸って分身を消した。分身のお陰で仕事は早く済んでしまった、あとはお風呂に入る時間になるまで待つだけだ。


 すると、後ろで完成したお風呂を見ていた二人が感想を言ってくる。


「これがお風呂ですか、完全に外で入るものなんですね」

「これが本当に温かいのか? なんだか寒そうな気がするんだぞ」

「外の空気は寒いけど、お湯に入れば寒さなんて気にしなくなるよ」

「本当か? なんだか信じられないんだぞ」

「これは入ってみないと分かりませんね」


 二人ともまだお風呂の良さを分かっていないみたいで、寒そうな印象しかないみたいだ。もし、お風呂のことを少しでも分かっているのなら喜んでくれると思う。今日でその良さというのを知ってもらえたらいいな。


「それで、いつ入るんですか?」

「夕食を食べ終わった後かな」

「夜に入るのか? それは余計に寒いんじゃないか」

「寝る前に体を温めることが出来て、気持ちよく寝れると思うよ」

「なんだか想像出来ないんだぞ」

「どうなるんでしょうね」


 信じられないような顔をして二人は顔を見合わせた。この二人の意見が変わる時が楽しみだ。どんなリアクションをしてくれるのだろう。


 ◇


 夕食後、お風呂の時間がやってきた。一足先に私は風呂場へとやってきた。まずは風呂に水魔法で水を溜める。溜まったら発熱の魔法で水をお湯へと変える。すると、湯気の立つお湯が出来上がった。


 準備はこれで完了、後は二人を呼ぶだけになった。家に戻り二人を呼んで風呂場の脱衣場に入る。


「じゃーん、これがお風呂だよ」

「わぁ、温かい湯気が立ってますね」

「お風呂は温かそうなんだぞ」

「そうだよ、お風呂は温かいものなんだよ。でも、このお風呂に入るためには、服を脱がなくてはいけないの」

「ここで裸になるんですよね……寒そう」

「この寒い中裸になるのはキツイんだぞ」

「寒いのは一瞬だけだから。一瞬我慢して、お風呂に入ろう? 服はそこの籠の中に入れてね」


 この寒い中、裸になるのは勇気がいる。でも、これも全てお風呂に入るためだ、我慢して欲しい。


「それじゃあ、パッと脱いで、パッと入るよ。そしたら、すぐに温かくなるから」

「はい、分かりました」

「すぐだな、すぐ入るんだな」

「よーい、ドン!」


 合図と共に私たちは急いでコートを脱ぎ、服を脱いで籠の中に入れた。そして、全ての服を脱ぐと……


「うー、寒いー!」

「クレハ、止まっていたら寒いままですよ」

「ほら、早く!」

「なんで二人はそんなに早いんだー?」


 お風呂に入る前にクレハが寒さで止まってしまった。そのクレハの体を押し、お風呂へと誘導する。そして、三人同時にお風呂の中に入った。足を入れて、ザブンッと体をお湯に浸からせた。


 その瞬間から温かいお湯が体を包み込み、なんとも良い感覚が体を走った。温かい、発熱の魔法とは違う体の芯から温かくなる温度を感じる。


「「「ほー……」」」


 三人の息が合わさった。


「すっごく温かいでしょ」

「これがお風呂なんですね。なんだか、ホッとします」

「寒くないぞ、温かいぞ!」

「ほら、言ったでしょ」


 お湯に使った二人は気持ちよさそうな顔をしていた。


「入った瞬間から温かさに包まれて、外の寒さも気にしなくなりました。まさか、こんなに温かいものだとは思いもしませんでした」

「お湯に使っていないところはちょっと寒いけど、それ以外は本当に温かいんだぞ」

「そうでしょ、外は寒いけどお風呂に入ると本当に温かいんだよ」

「なんか、体から余計な力が抜けていくみたいです」

「ウチもだー、ふにゃふにゃになっちゃうぞー」


 はー、と二人は気持ちよさそうに息を吐く。イリスはお湯を楽しむように両手ですくっては流してを繰り返し、クレハは肩までお湯に浸かりながらスイスイと移動している。


「本当は頭を洗ったり、体を洗ったりするんだけど、それは洗浄魔法で綺麗にしているから必要ないんだ」

「それも気持ちいいんですか?」

「うん、気持ちいいよ。体が綺麗にしていく気持ちよさは、洗浄魔法と変わらないかな。でも、石鹸とかないと洗うのは難しいかな」

「ふーん、そうなんだ。ウチはお湯に浸かるだけでもいいんだぞー」


 洗浄魔法があるんだから、もしかしたらこの世界に体を石鹸で洗うという行為がないのかもしれない。でも、生活魔法が使えない人もいるし、そう考えると生活魔法が充実していないところでは石鹸で洗っているのかも。


 私たちはしばらくお湯に浸かって体を温めた。この世界で初めて入るお湯はとても気持ちが良く、体を芯まで温めてくれる。二人も気に入ってくれたみたいで、お湯を堪能してくれた。


 だけど、かなりの時間お風呂に入っていたからか、体が暑くなってきた。そろそろ、上がる時間になる。


「二人とも、そろそろお湯から上がろうか。暑くなってきたでしょ?」

「そうですね、暑くなってきました。でも、まだ浸かっていたい気もします」

「ウチもまだ浸かりたいぞー」

「長く浸かりすぎちゃうと、のぼせちゃうから。また明日入ろうよ」

「明日も入れるんですか? それは嬉しいです」

「明日もかー、楽しみなんだぞ」


 なんとか二人を説得出来た。後はお湯から上がって、乾燥魔法をかけて、服に着替えるだけなんだけど……


「お湯から上がるのに、ちょっと勇気がいるね」

「寒そうです……」

「ウチは上がりたくないんだぞー」


 このお湯の中から寒い外気に当たるのは勇気がいる。でも、外に出なければいけない。三人で顔を見合わせて、強く頷いた。そして、勢いよくお風呂の外に出た。


 出た瞬間はそこまで寒くなかった。脱衣場のところに立ち、すぐに乾燥魔法をかける。すると、濡れていた体が一瞬で乾く。


「着替えていいよ!」


 それから、即行で服を手に取って着替える。服がちょっぴり冷たかったけど、体がホカホカの状態だったからそんなに気にならなかった。手早く着替えて、コートを羽織った。


「「「……」」」


 そこでようやく一時停止した。顔を見合わせると、そこでようやく気が抜けた。


「あはは、意外と大丈夫だったね。なんだか、可笑しくなっちゃった」

「凄い寒いんじゃないかって思ったんですけど、体がホカホカだったので大丈夫でしたね」

「全然寒さを感じなかったぞ。なんか、可笑しいんだぞ」


 あんだけ急いだのにその必要はなかった。それがなんだか可笑しくて笑ってしまった。


「家に帰って、冷たい牛乳でも飲もう」

「どうしてですか?」

「風呂上りの牛乳は最高に美味しいからだよ」

「いつも飲んでいるのと変わりないのにか、可笑しいな」


 靴を履くと、冷めないうちに急いで家に帰る。そして、風呂上がりに三人で飲む牛乳は飛びきり美味しかった。その夜はずっと体がホカホカしていて、心地いい眠りにつくことができた。

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