139.冬休み(4)
「大きくなったなー!」
「こんなに大きくなるんですね」
「でしょ?」
あれから転がし続けた雪玉は段々と大きくなり、直径五十センチくらいの大玉になった。その大玉を見て、二人は喜んでいる。
「最初はそうでもなかったけど、段々楽しくなってきたんだぞ」
「なんだか夢中になって転がしてました」
「結構楽しかったでしょ。でも、これで完成じゃないんだよね。あとはこの雪玉を重ねるんだ」
「へー、そんなことをするのか」
「やってみましょう」
家の前まで転がした大玉を今度は重ね合わせていく。一番下にクレハが作った一番大きな雪玉にして、次の段には私が作った雪玉を乗せよう。二人が協力して雪玉を持ち上げると、二つの雪玉がくっ付いた。
「おっ、いい感じだな」
「もう一つの方も乗せちゃいましょう」
「それは私がやるよ」
もう一つの雪玉を魔動力で浮かび上がらせると、二つの雪玉の上に慎重に乗せる。
「一気に大きくなったな」
「これで完成ですか?」
「あとは顔を作るだけなんだ。家から必要なものを持ってくるから待っててね」
家の中に入ると、食糧保管庫からにんじんを取り出し、暖炉から炭を取り、細い薪を二本取る。それを持って、雪だるまのところにいった。
「それをどうするんです?」
「まず、このにんじんは鼻!」
「ぶっささったぞ」
「そして、この炭は目と口!」
「あっ、顔に見えてきました」
「最後に手の代わりに薪を差したら……これで完成だよ」
本当は帽子とかマフラーとか付けたかったけど、これでいいよね。完成した雪だるまを見て、二人は「おー」と声を上げた。
「これが雪だるまですか。なんだか、可愛いですね」
「今にも動き出しそうなんだぞ。いいな、これ!」
「気に入ってくれた?」
「はい! 作るのも楽しかったし、完成してからもなんだか楽しいです」
「こいつに名前を付けないか?」
「へー、面白そうだね。どんな名前にする?」
そういうと、クレハは腕を組んで考え始めた。その考えている顔が百面相をしているみたいで、それを見てイリスと笑った。
「思いついたんだぞ!」
「へー、どんな名前」
「雪まき! 雪を巻いたように作ったから、雪まき」
「クレハにしては、いい名前じゃないでしょうか?」
「なんだよー、悪いのか?」
「いいえ、上出来です」
雪まき、結構いい名前じゃない?
「お前の名前は雪まきだ! カッコいい名前だろう!」
「カッコいいというより、可愛い感じがします」
「うん、私もそう思う」
「何っ!? そ、そうなのか? ウチはカッコいいと思って付けたんだけどな」
「はいはい、カッコいいですよ」
「うんうん、カッコいい」
「えへへ」
二人で頭を撫でると、クレハは嬉しそうな顔をした。と、その時クレハのお腹が盛大に鳴る。
「あっ、お腹が減ったんだぞ」
「そろそろ、お昼の時間ですね」
「じゃあ、家の中に入って昼食でも食べようか」
クレハの腹の虫が合図になり、私たちは家の中に入った。
「うぅ、寒かったです」
「雪が冷たかったから、手が冷え冷えなんだぞ」
「二人の手を貸して、温めるから」
寒そうに手をこすり合わせていた二人の手を受け取ると、発熱の魔法を発動させる。すると、二人は気持ちよさそうな顔をした。
「ふー、温かくて気持ちいいです」
「この瞬間が堪らないぞ」
「体も冷えているから、全体にも魔法をかけるね」
手の部分を一番熱くして、体全体に発熱の魔法をかける。外で冷やされていた体がじんわりと温かくなって、体から力が抜けていくようだ。
「この魔法があれば、どれだけ外で遊んでも大丈夫そうですね」
「ノアの分身と一緒に魔物討伐をしていると、この魔法で温めてくれるからとっても助かったんだぞ」
「冬はこの魔法が役に立つけど、夏になれば冷却の魔法が活躍しそうだね」
「ノアの魔法がなかったら今頃どうしていたか……考えると怖いですね」
「今更そんなこと考えられないんだぞ。ノアの魔法がなかったら、と思うとゾッとするぞ」
私も魔法を覚えていなかったら今頃どうしていたか……考えるだけでもゾッとする。魔法を覚えたのは二人のお陰だし、二人には感謝してもしきれないくらいだね。
しばらく、発熱の魔法で温めると私たちはホカホカになった。
「手も体もホカホカです」
「これでまた外で遊べるんだぞ」
「その前に昼食を食べようね」
「家で食べる昼食はいいですね、外と違ってくつろげますし」
「外も外でいいんだけど、家は家でいいんだぞ」
コートを脱いでイスにかけると、リュックに入っていたお弁当とパンを取り出してテーブルに広げた。コップに水を入れて、席につく。
「「「いただきまーす」」」
お弁当箱を開けると、肉巻き野菜、マッシュポテト、手作りミックスベジタブルが入っている。色とりどりなお弁当を見て、食欲がさらにそそられる。
「野菜一杯で嬉しいです」
「ウチは肉がいっぱいなんだぞ!」
「クレハのはソーセージを肉で巻いているから、ボリュームがあるよ」
「ふふっ、肉を肉で巻いてるって面白いですね」
「嬉しいんぞ、肉がいっぱい食べれて」
クレハは嬉しそうにフォークで肉を突き刺すと、一口で頬張る。
「肉の肉汁とソーセージの肉汁が合わって、幸せなんだぞー」
「それはそれで美味しそうですね。肉汁と肉汁が合わさると、どんな味になるんでしょうか?」
「うーん、濃い肉の味とか? クレハ、どんな感じ?」
「幸せな味がするんだぞー」
「もう、それだと分かりませんよ」
「クレハは肉汁の虜になっているみたいだね。聞いても無駄かも」
クレハは幸せそうにほっぺを片手で押させている。こんな幸せそうにしているから、放っておいた方がいいかもね。私たちは顔を見合わせて笑い合うと、お弁当を食べ始めた。
◇
「今日のお弁当も美味しかったです。いつもありがとうございます、ノア」
「いつもありがとうなんだぞ!」
「こちらこそ、いつも美味しく食べてくれてありがとうね」
昼食を食べ終えた私たちは満足げにイスの背もたれに体を預けていた。
「こういう時にくつろげるソファーとかあればいいのにね」
「ソファーってあれですよね、フワフワした大きなイスですよね」
「孤児院の院長室で見かけたんだぞ!」
「そうそう、そういうソファーがあればもっとくつろげるのになーって思ってね」
「ソファーには一度座ってみたいんだぞ」
「そうですね、私たちは座れませんでしたから」
だらけることが出来るソファーがあれば、もっと生活が楽になると思う。この村にはそういうのはなさそうだし、作るしかないのかな? それとも違う町で買ってくるか、どっちかだね。
「くつろぐならベッドで寝るのも手だと思うぞ」
「それだと、ずっとゴロゴロしてそうですね」
「寝たら起き上がれなくなりそう」
「それでもいいんじゃないか。今日は一日中ゴロゴロ」
「うーん、それだとクッキーが作れなくなっちゃうけどいいの?」
「「クッキー!」」
二人が見事にハモッた。
「そうです、クッキーを作るんでしたよね」
「すっかり忘れてたぞ。早速作るんだぞ」
「もう作るの? でも、まぁいいか。クッキーを作っちゃおう」
「やった、クッキーだ!」
「楽しみですね」
クッキーの名を聞いた二人はテンションが上がって嬉しそうにしている。クッキーもいいけど、他のおやつも作りたいなー。でも、今日はクッキーでいいか、こんなに喜んでいるんだし。
冬休み、色んなものを食べて、色々と楽しんで暮していこうね。
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