138.冬休み(3)

 ぐつぐつと鍋が煮立っていく。中身はビートを漬け込んだ水で砂糖作りをしている。


「そろそろ、精製の魔法を使うよ」

「どうなるんだ?」

「変化するんでしょうか?」


 二人が見守る中、鍋に精製の魔法をかける。すると、煮立っているものから余分なものが消え去っていく。すると、白く濁っていた水の色が綺麗に変わっていった。


「お、変わったぞ」

「こうなるんですね」

「はい、精製の魔法はこれでおしまい。あとは砂糖が出来るまで待つだけだよ」

「どれくらいの砂糖が出来るか楽しみだな」

「えぇ、これが砂糖になるなんて楽しみです」


 私はもう見飽きちゃったけど、二人はグツグツと煮立つ鍋を見て楽しそうだ。暇さえあれば砂糖作りをしている、ここで沢山砂糖を作ればお金になるから頑張っている。


 一回の砂糖作りで作れる砂糖は多くはない。だけど、一日に何度か作るとかなりの量が手に入る。売るための砂糖の他に自分たちで使う砂糖も作らないといけないから、地味に大変だ。


 あとはのんびり砂糖が出来上がるのを待つだけなんだけど、やることがないんだよね。私はダイニングテーブルに座って、鍋を見守る二人を見ている。


 このままのんびりしてもいいし、何かを作ってもいい。なんでも出来るから迷っちゃうね。


「そうだ、二人ともお仕事を休むことは考えた?」


 ふと、思い出したことを聞いてみた。朝に冒険者たちと話していたけれど、魔物討伐を休むか継続するかどっちなんだろう?


「んー、どっちがいいのか迷ってしまいます」

「ウチも迷っているんだぞ。どうすればいいかな?」

「私は休んでもいいと思うよ。他の人だって休んでいるし、無理をしないほうがいいんじゃない?」

「でも、村が心配なんですよね。もし、魔物が溢れて村に襲い掛かったりしたら大変じゃないですか」

「ウチもそれが心配なんだぞ。ここで村が襲われたら、今までの苦労が台無しなんだぞ」


 二人は魔物が溢れて村を襲うことになるのが心配らしい。


「でも、そこまで切羽詰まる状況になるんだったら、他の冒険者さんたちは動いていると思うよ。動いていないっていうことは、二人が考えているようなことが起こらないんじゃないかな」

「そうですね、他の冒険者さんたちが動かないのは大丈夫だから動かないかもしれません」

「おっちゃんたちはいつもはまじめに働いているけれど、働かない理由を考えなかったぞ。なるほど、大丈夫だから動かないか」


 いつも魔物討伐をしてきた冒険者さんたちがいきなり休む。そうなると、討伐する魔物は減り、森の中には魔物で溢れかえる。そうなったら、村の一大事だ。


 でも、そんなことは冒険者さんたちが一番良く知っている。知っているにも関わらず、雪が解けるまで休む宣言をするにはそれなりの理由があると思う。


 その理由はきっと、村が一大事になることはないという確証があるからに違いない。そんな理由があるからこそ、呑気に休めるんだと思う。


「雪で身動きが取れないのは魔物だって同じだと思う。魔物も雪が降ったら、活動が沈静化するんじゃないかな」

「この雪で大変なのは、魔物も一緒ですか。それなら納得です」

「魔物も動きが鈍くなる時には活動しないのかー」

「この天気でも活動はしている冒険者さんもいるんだし、もし不安だったら見に行くのもいいと思う。だけど、毎日は行かなくてもいいと思うよ」


 私の話を聞いて二人の表情が明るくなってきた。どうやら、不安を払拭出来たみたいだ。


「そうだな、普段の魔物討伐は休むことにしよう。それで、時々森を見に行くことにしないか?」

「はい、いいですね。それだったら、警戒も出来ますし、村を守れます」


 どうやら、決まったみたいだ。二人とも村を守っている責任感があるのか、完全に休むことはしないらしい。自分たちが暮していく村だもんね、大切にしたい気持ちは分かる。


「じゃあ、しばらくは休むということで」

「でも、急に休むことが決まってもやることがありませんね」

「なー。何をすればいいのか分からないんだぞ」

「孤児院にいる時は何してたの?」

「小さい子の世話ですとか、部屋の掃除、家事手伝いですかね」

「一緒に遊ぶこともあったけど、みんな勝手だから結局バラけてたもんなー」


 そうか、長い休みになると何をしていいのか分からないんだ。んー、そうだなー。


「雪遊びなんて楽しいんじゃない?」

「雪で遊べるんですか?」

「あいつらで遊べるのか?」

「もちろん、色んな遊びがあるよ。雪合戦したり、かまくら作ったり、山を作ってソリ滑りだって出来る」

「良く分からない遊びですね」

「なんだかピンとこないんだぞ」


 そっか、二人とも雪で遊んだことがないんだ。これは色々と教えないといけなさそうだ。寒い冬でも、冷たい雪でも楽しく過ごせることをね。


「じゃあ、この砂糖が出来たら外に行って遊んでみようか」

「まずは何して遊びます?」

「なんだか、ワクワクするんだぞ」

「色々あるからなー……定番の雪だるまでも作ってみる?」

「なんですか、それ?」

「雪だるま?」

「それは、外に行ってからのお楽しみ」


 グツグツと煮える汁の音を聞きながら、外での遊びに期待をする声が聞こえる。折角のんびり出来るんだから、楽しまなくっちゃね。


 ◇


「さぁ、雪だるまというものを作るぞ!」

「まずはどうしたらいいんです?」


 砂糖を作り終えると、コートを羽織って外に出てきた。今も雪がチラチラと降っていて、冬の景色が広がっている。


「まずは雪玉を作る」


 地面に積もった雪を手で作って、ギュッギュッと押し固めて丸くする。


「この雪玉を雪の上で転がすと……」


 コロコロと転がすと、雪玉に雪がくっつき少しずつ大きくなっていく。


「こうやって、雪玉を大きくして、最後にくっ付けるのが雪だるまだよ」

「雪って面白いですね。こんな風になるんですか」

「やってみるんだぞ!」


 早速クレハが動き出すと、それを追うようにイリスも動き出す。雪玉を作り、雪の上で転がすと、雪玉に雪がくっつき段々と大きくなっていく。


「おぉ、大きくなっていくぞ。どうなっているんだ?」

「こんなに簡単に大きくなるんですね」

「まだまだ、大きくするよ。これくらいかな?」

「そんなに大きくなるのか、これ!」

「出来るでしょうか……」

「ずっと転がしてたら、それぐらいまで大きくなるよ」


 二人はあんまり想像できていないのか、不思議そうな顔をしている。そんな二人を急かすように、私は雪玉を転がしていく。


「良く分かんないけど、転がすぞー」

「どこまで大きくなるんでしょうか」


 クレハは凄い勢いで雪玉を転がしていき、イリスは確実に雪をくっ付けながら雪の上を進んでいく。


「それそれー!」

「あっ、もうクレハ! 目の前の走らないでください、雪玉に当たったらどうするんですか」

「ごめんごめん、それー!」

「雪玉に雪をくっ付けて……」


 雪の上を素早く移動するクレハ、対象的にイリスはじっくりと進んでいく。私も二人に負けじと雪玉を転がしていった。

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