135.依頼のお仕事(4)
「じゃあ、壁張り始めるよー」
私が声をかけると分身たちが「おー」と返答してくれた。私は分身とペアになって作業を始める。
「板、オッケー!」
分身が魔動力で板を並べる。そこに私が釘を打ち込み固定していく。
「はい、次ー」
分身が次々と壁の板を並べていくと、私は次々と釘を打ち込んで固定していく。そんな作業をするペアが三組もいる。今日は昨日よりも分身を一人増やして作業を始めていた。
昨日の段階で魔力がまだまだ残っているみたいなので、分身を一人増やしてみる。全員で六人になると、偶数になってペアが生まれた。そのペアで今日は作業を始めていた。
ペアが出来ると、役割分担が生まれて、作業がスムーズに運んでいく。今も片方が魔動力で板を固定し、もう一人が魔動力で釘を打ち込む作業をしている。このお陰で、とにかく早く壁が出来上がっていった。
合計で三組のペアが同時に壁を作っていくと、あっという間に外側の壁を張り終えることができた。
「よし、外壁完了!」
「次はどこやるんだっけ」
「次は床張りだよ」
「じゃあ、床材を切り出さなきゃね」
「えーっと、どれくらいの床材を作ればいいのかな」
「設計図を見よう」
五人の分身と一緒になって設計図を確認する。
「了解! じゃあ、また手分けして資材の切り出しだね」
「ほとんど同じ板を作るだけだから、楽でいいね」
「掘る作業がない分、早く終わりそう」
「でも、作る量が沢山あるからそれは大変そうだよ」
「これだけ人数がいるんだから、大丈夫でしょ」
「それもそうだね。床もちゃっちゃと終わらせよう」
集まっていた私たちは丸太に近づいていくと、早速資材の切り出しから始めていった。
◇
私たちの作業はとてつもなく早く終わっていった。一日目で柱、屋根、天井を完成させると、二日目で外壁、床、内壁を終わらせる。三日目になると、二部屋分を作り終えてそれぞれの部屋に窓も作った。
四日目には細かい部分を作り込み、ドアを作って固定する。なんと、これで家が完成してしまった。まさか、四日で家が完成するとは思ってもみなかったダンさんはただただ驚いていた。
まぁ、私たちもまさか四日で作れるなんて思わなかったから驚いたんだけど。でも、これが魔法を使ったお陰だと思う。普通の人が作るよりも何倍も早く家を作ることが出来た。
あとは二日かけて納屋も作った。こちらもダンさんに見てもらったけど、問題はなくてホッとした。
それが終わると、今度は家の中に配置する家具の制作に掛かった。今度は家造りよりも魔力が必要ないと思ったので、分身の数を増やして制作に取り掛かった。
すると、家に配置する家具が二日で全て作り終えることが出来てしまった。必要な数が多かった家具作りも分身の数を増やせば、かなりの早さで作り終える事が出来てしまう。
「いやー、まさかこんなに早く完成するとは思わなかったよ」
「ダンさんに見てもらったけど、問題はなかったみたいで安心したよ」
「私たち、普通に作業していただけだけど、そうとは思えない早業だったよね」
分身たちと一緒に出来上がった家を見て回る。ぞろぞろと分身を引きつれて家の中を見回ったり、不備がないかチェックをした。だけど、不備とかは全然なくていい家を建てれたと感じた。
「家具も問題なし。がたつきもないし、しっかりとした作りになってるよ」
「タンスは……よし! クローゼット……よし!」
「各部屋に家具とかも配置したし、十分だよね」
「っていうか、私たちの家よりも豪華な気がするね」
「部屋があるからそんな風に感じちゃう」
家を見回った後は家具も確認した。手で押してがたつきがないかチェックしたり、ちゃんと機能するのかもチェック。どれも問題はなく、今すぐ住んでも大丈夫だ。
「いやー、終わったねー。建築中もそんなに雪が降らなかったから助かったよ」
「寒さとか疲労を感じないのも良かったね。お陰でスムーズに作業が出来たよ」
「この調子だと、もう一棟建てられるんじゃない?」
「出来そうだね。あ、でもそうするとマジックバッグの仕事ができないかも」
「どっちが実入りいいんだろうね」
分身たちと喋りながら外へ出る。ぞろぞろと分身たちを引きつれて外に出ても、賑やかなのは変わらない。
「これで明日男爵様に確認してもらおうよ」
「きっと驚くだろうなぁ」
「まぁ、作っている本人たちも驚いているんだけどね」
「じゃあ、そろそろ消えようか」
「本体お願い」
「はいはーい」
やることはすんだ、分身たちを触って魔力を吸収する。すると、分身たちは次々と消えていき、残りは本体の自分だけになった。
「よし、これで明日は確認だけだね。さて、家に帰って夕食でも作ろうかな。今日は何を作ろうかな」
仕事が終わり、後は確認してもらうだけとなった。私は帰路につき、夕食のメニューを考える。
◇
翌日、私は男爵様の屋敷に行った。通された部屋で家が完成したことを伝えると……
「何? 家が完成した? まさか、そんな冗談だろう?」
「本当です。新しく覚えた分身魔法を使ったら、あっという間に家が立ちました」
「分身魔法?」
「こんな魔法です」
話を信じてくれない男爵様に私は分身魔法を使って見せた。一瞬で私の分身が一人作られると、男爵様は驚いて立ち上がる。
「なっ、ノアがもう一人?」
「魔力で作った自分の分身です。自分に出来ることならなんだってできます」
「魔法も使えるし、考えて動くことも出来るよ」
「まさか、そんな魔法が……すごいな」
「この分身魔法を使って沢山の分身を作り出して家を建てました」
「まだ、分身を増やせるというのか。それだったら、理解は出来るが……」
いきなりのことで男爵様はすぐには信じられないらしい。難しい顔をして考え込む、と思ったら顔をこっちに向けた。
「よし、実際に家を見に行こう」
「はい、ありがとうございます」
こうして男爵様を連れ出すことが出来て、私たちは出来立ての家に向かった。
◇
「十日前までここには何もなかったのに、家や納屋が建っている……信じられない」
男爵様を現場に連れていくと、驚いた様子で家と納屋を見ていた。家に近づいて細かいところまで確認しつつ、今度は家の中に入っていく。
「なんと、家具まで揃っているじゃないか」
家の中に入って家具も揃っていることに驚きの声を上げた。それから、順々に部屋の中を見ていって、設備を確認したり家具の調子を確かめたりする。
時間をかけて家の中を見回った男爵様は外に出てきた。
「確認してきたが、今すぐに人が住んでも問題のない家だった」
「認めてもらえて良かったです」
「疑って悪かったな。こんなに短期間に家が建ったことがなかったから、信じられなかった。いや、大したものだ」
全てを見終わった男爵様は納得したように強く頷いてくれた。
「これが報酬の金だ、受け取って欲しい」
「ありがとうございます……重い」
「家を建てるということはそれだけの価値があるからな、遠慮なく受け取って欲しい」
お金の入った袋を受け取ると、その重さにビックリした。家を建てるってこんなにもお金になるものなんだね。一仕事を終えた喜びにしては大きな喜びになった。
「今回は家造りを手伝ってくれてありがとう。お陰で、次の春には不足なく移住者に家を渡せるよ」
「間に合って良かったです。良かったら、まだ家建てますよ」
「あとは大丈夫だ。そんなにすぐに家を建てられても、出せるお金がなくなってしまうからな。でも、またこういうことがあったらよろしく頼む」
男爵様に感謝されて、とてもいい気分だ。少しは役に立てたようで本当に良かった。これで家を建てる仕事は終わりだ、次はどんなことをしようかな。
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