133.依頼のお仕事(2)
今日から家造りの仕事が始まる。何もない土地を見て、これからここに家を建てるんだと思うとちょっとだけワクワクした。
傍には魔動力で運び出した資材が沢山置いてある。普通なら資材を運ぶだけでも一苦労なんだけど、魔法を使えばそれほどの労力は必要ない。
「よし、分身魔法の出番だ」
家造りには様々な行程が必要だ。だから一人で行うんじゃなくて、複数で作業したほうが効率がいい。今度の分身は魔法を使ってもらうから、沢山魔力を込めなくちゃね。
意識を集中して分身魔法を発動させる、作る人数は全部で四人だ。体からどんどん魔力が吸いだされるのを感じると、体に強い疲労感みないなものを感じた。
今ある魔力を五等分するように魔力を調整すると、分身が形どられていく。上手に五等分出来ると、分身は姿を現した。その瞬間、私の体はぐらつき、地面にへたり込んでしまった。
マジックバッグを作った時以上の疲労感が襲う。それもそうだ、いきなり五分の四の魔力を一気に放出したのだから、体がついてこれないのは当たり前なのかもね。
しばらくその場でボーッとしていると、分身たちが集まってきた。
「大丈夫?」
「魔力を一気に使ったからだね、立てるかな?」
「うん、手を貸してくれない?」
「はい、どうぞ」
「ゆっくり立ってね」
分身の手を借りてなんとか立ち上がることが出来た。ふー、いきなりの魔力放出は体に悪いね。
「うん、手を放しても大丈夫そう。ありがとう」
「どういたしまして。さて、それじゃあ作業に移る?」
「私は地魔法で必要な部分を作るから、分身たちは木材の加工をお願い」
「木材の加工だね、分かった」
「じゃあ、手分けをしようか」
分身たちは設計図に集まって相談事を始めた。その間に私は家の土台などの石で出来た場所を作り始める。まずはうっすらと積もった雪の除去からだ。
広範囲に火魔法を唱えて、雪を蒸発させる。火魔法を発動させるとジュワーッと雪が水蒸気になっていった。すると、地面は土がむき出しになり、土台が建てられるようになる。
設計図を確認して、頭の中に土台の形を記憶する。その記憶が消えない内に地面に手を置くと、地魔法を発動させた。すると、地面から石が生えてきて、記憶した土台を形どっていく。
「こんなものかな?」
広範囲に土台となる石がせり上がった。これが出来れば、あとはこまごまとしたものを作るだけだ。
ちらっと分身たちを見てみると、すでに作業は進められていた。丸太がどんどん建築材料に変わっていく光景は見ごたえがある。四人でその作業をやっているからなおさらだ。
四人の分身が自由自在に魔法を操って、丸太を加工していく光景は他では絶対に見れない。というか、作業が早く進んでいるみたいで、終わりそうな勢いだった。
分身には負けていられない。私は自分の仕事と向き合うことにした。土台を作った後は石の暖炉を作る。火をくべるところから煙突を伸ばして、その周辺を石で作って飛び火しても大丈夫なようにする。
次はかまどを二つ作り、その周辺の床や壁も石で囲う。あとは洗い場も作る。自分には洗浄魔法があるので作らなかったが、魔法の使えない普通の家庭なら洗い場はあったほうがいい。
設計図を見ながら洗い場の形を記憶すると、その形通りに地魔法で作る。洗い場を作り、そこから汚水が流れる排水溝を家の外に出すように作っていく。
これで石で作るところは最後かな? さて、分身たちは……と振り向くと、分身たちはこっちをジーッと見つめていた。思わず驚いてビクッとなる。
「ど、どうしたの?」
「いやね、そっちの作業が終わらないかって待ってたんだよね」
「どうして?」
「柱の資材を作り終えたんだよ」
「えっ、もう作り終わったっちゃっの?」
「四人で作業していると、あっという間に終わるみたいだね」
「急いでやったわけではなくて?」
「普通の速度でやったよ。それで、この結果だよ」
もう柱の資材が出来たっていうこと? とんでもなく早くない? 手抜きじゃない、大丈夫?
そんな風に不安になったが、私の分身がそんなことをするわけじゃないと自己完結した。
「それじゃあ、柱を建てていこうか」
「本体はつなぎ目とか見ててくれない?」
「うん、分かった」
「組み合わせとか固定とかはこっちでやるから」
おお、そこまでやってくれるんだ。分身の私は優秀だな。私は土台の近くに陣取っていると、分身たちが資材を魔動力で浮かせて組み立て始める。その資材の組み合わせの部分を私が確認する。
「もうちょっと奥かな」
「これくらい?」
「うん、嵌った」
「こっちはどう?」
「ちょっと左に傾いているかな」
「これでどう?」
「うん、ばっちり」
「これで固定していこう」
資材を組み合わせたら土台と柱を金具で固定していく。その作業も魔動力を使ってやっちゃうから、それほど時間がかからない。
そうやって五人で力を合わせて柱を建てていった。以前一人で作業した時とは比べようがないくらい、早く柱が立っていく。人数がいるってこんなに便利なんだと、改めて教えられた気分だ。
どんどん柱を建てていき、とうとう最後の柱を建て終えてしまった。それを見ていた私たちはボーッとした後に、一斉に喋り出す。
「えっ、もう柱を建て終えちゃったの?」
「随分と早くない? まだ午前中だよ!」
「本当にこれでいいのかな、いいのかな?」
「別に手を抜いたっていう訳じゃないよね」
「見てたでしょ? そんな様子はなかったよ」
一同、信じられなかった。作業光景を見ていたけれど手を抜いた感じもなく、みんなしっかりと作業をしていた。これが五人で作業をした結果なんだ。
「はー……今でも信じられない。こんなに早く作業が終わるんだ」
「資材からの切り出しから始めたのにね」
「ここまでくるのに、二日三日はかかるはずだよね」
「五人で魔法を使うとこんなことになるんだ」
「分身魔法、凄い……」
またしばらく完成した柱を眺めた。無駄に時間が過ぎていくと、一人の分身がハッと我に返る。
「こうしちゃいられない、この勢いに乗って作業をしなくちゃ」
「そうだよね、作業の手を止めちゃった」
「そろそろ昼食の時間だし、本体は休んでいて」
「いいの?」
「いいの、いいの。私たちは疲れも空腹も感じないし、このまま働くよ。さぁ、本体は休んだ」
分身に背を押されて置きっぱなしのリュックの場所までやってきた。分身はあー言っているし、お言葉に甘えて休ませてもらおう。
地魔法で石のイスとテーブルを出すと、石のイスに座る。それからリュックからお弁当とパンを取り出して、石のテーブルに広げた。こうしている間でも分身たちはせっせと働いていた。
本当に分身魔法は凄い。そう思いながら昼食を取り始めた。
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