132.依頼のお仕事(1)

「よし、いってらっしゃい」

「モー」


 モモを放牧スペースに移動させて、世話の完了だ。今日も家畜たちは元気に餌を食べて、元気に放牧された。買い取った時の元気がなかった時のことを思い出すと、ここまで元気になって本当に良かったな、と思った。


 さて、今日はどんな仕事をしようかな。そう思って家に向かって歩き出すと、遠くから誰かが近づいてきている姿が見えた。その場で立ち止まって待っていると、その人は馬に乗ってやってくる。


「あ、男爵様。おはようございます」

「おはよう、元気にしてたか?」

「はい!」


 久しぶりに男爵様がやってきた。


「ちょっと話せるか?」

「もちろんです。家の中に入ってください」

「あぁ、助かる」


 男爵様を連れて私は家の中に入った。ダイニングテーブルに座らせると、男爵様は話始めた。


「マジックバッグ作りは順調か?」

「はい、二日で一つのマジックバッグを完成させてます」

「容量拡張と時間停止の機能がついたマジックバッグだから、それくらいの時間はかかるだろう。砂糖作りはどうだ?」

「はい、少しずつ溜めていますよ。あ、そうだ。男爵様にはまだ言ってなかったんですが、砂糖を見てください」

「ん、どうした?」


 私は食糧保管庫に保管しておいた砂糖入りの瓶を男爵様の前に出した。


「この白いのはなんだ?」

「砂糖です。白い砂糖が出来ました」

「何っ、白い砂糖だと!?」


 やっぱり、男爵様は驚いた様子だった。みんなそれぞれ作っている砂糖は不純物入りの砂糖だから色は茶色いし雑味もある。だけど、これはそんなものがない、とても良い砂糖に仕上がっている。


「私は錬金術の魔法を使って、不純物を取り除きながら作りました」

「はー……錬金術の魔法を使ってか、そんなことが出来るなんて知らなかった。というか、いつの間に錬金術の魔法なんて覚えたんだ?」

「秋の終わりから冬のはじまりにかけて、錬金術のお店に通って教えてもらいました」

「そんなことをしていたのか。驚いたよ、まさか錬金術の魔法で白い砂糖が出来るなんて思わなかった」


 男爵様は感心したように白い砂糖を見た。やっぱり、白い砂糖は特別なんだな。


「この白い砂糖って高く売れますか?」

「もちろんだ、貴族にも売れると思うぞ。だから、買い取り価格を高くしよう」

「やった!」


 よし、砂糖の買い取りの値段が上がったぞ。これで豊かな暮らしになればいいな。


「錬金術で白い砂糖が作れるのであれば、錬金術師も砂糖作りに参加させた方が良かったか。だが、錬金術師は自分の仕事があるし。うーん、どうにかして白い砂糖を大量に作れないか」

「農家の人が錬金術の魔法を使えるようになれればいいんですけれどね」

「まぁ、それがいいだろうな。でも、魔法はみんなが使えるものじゃないからな、気軽に魔法の練習をして欲しいとは言えないな」


 農家の人が魔法を扱えるようになったらいいな、と思ったけどそうは簡単にはいかないらしい。もし、農家の人が魔法を使えるようになったら、凄いことになりそうなんだけどなぁ。


「ノアだけでも白い砂糖を作ってくれるのならありがたい。この冬に沢山作っておけば、それだけ収入が増えるから頑張れよ」

「はい! それで、今日はどんな話があって来たんですか」

「そうだな、その話をしなくちゃいけないな。実はノアに頼みたい仕事だあるんだ」


 私に頼みたい仕事? なんだろう。


「以前言っていたと思うが、家を建ててもらいたいんだ。春からこの開拓村に移住する人が住む家だ」

「移住する人が来るんですね」

「あぁ、農業を発展させようと思ってな、農家のなり手を募集したんだ。そしたら、いくつか応募があったんだ。その人たちを住まわせる家が欲しいんだ」


 そっか、開拓村だからこれから移住者が増えるっていうことだよね。


「木工所には依頼しないんですか?」

「依頼はしているぞ。だけど、応募してきた件数を考えると、今の木工所では手が足りなくてな。そこで、家を作ったことのあるノアを頼りたい」

「でも、私は素人ですし、そんなに上手く作れるか分かりませんよ。この家だって、簡単な作りですし」

「そうか? こんな立派な家が建てられるんだ、他の家でも立派に建てられるかもしれないだろう?」


 建てられないわけじゃないけれど、自分の家を作るのと他人の家を作るのは違うからなぁ。本当に私でいいのかな、ちょっと不安だな。


「もし、私の建てた家が良くないものだとしたら、そう思うと不安になります」

「そうか、素人だからそう思うのは仕方がない。しかし、そしたらどうしようか。このままだったら木工所に無理な仕事を頼まなくてはいけなくなるんだ」

「そうですか、それだと親父さんたちが心配です。分かりました、私で良ければ家を建てるお手伝いをさせてください」

「本当か、ありがたい。これで移住者を住まわせることが出来る」


 男爵様は嬉しそうに頭を下げてきた。それを見てなんだか申し訳ない気持ちになりつつも、前向きに仕事のことを考える。


「詳しいことは木工所の人に聞いてくて。今後、家を建てる予定の場所なんかを把握している」

「では、仕事のことは木工所に聞けば大丈夫ですね」

「あぁ、木工所のほうにはもしかしたらノアが協力してくれるかもしれないとは伝えてある。だから、木工所に行けば説明しなくても分かってくれると思う」


 木工所に行けば詳しいことは分かるみたい。こうなったら、立派な家を建てよう。


 男爵様が帰ると、私は早速木工所へと向かった。


 ◇


「おはようございます」

「おー、ノアちゃんか。ということは、家を建てるのを手伝ってくれるんだな。ありがとう」


 木工所へ行くとヒートさんが笑顔で迎い入れてくれる。作業の手を止めたヒートさんに連れられて家屋の中に入ると、親父さんが作業中だった。


「親父、ノアちゃんが来たぞ」

「おぉ、ノアか。ということは、協力してくれるんだな。人手が足りなかったところだから助かる」

「私なんかの力でお役に立てるなら、嬉しいです」

「一人で立派に家を立てたじゃないか。立派な戦力になる」


 親父さんのダンさんはにこやかな顔で迎い入れてくれた。そして、本棚に近づくと一つの設計図を出してくる。


「ノアに手伝って欲しいのは、この家造りだ」

「ちょっと、見ますね」


 ダンさんから設計図を受け取ると、中身を見た。どうやら二部屋とリビングがある家らしい。他にも色々な設備があるが、それらは問題がない。ただ、部屋を作らないといけないのが自分にとってハードルが高そうだ。


 でも、ここで作っておく経験を積めば、家の増築の時に役に立ちそうな気がする。うん、ここは挑戦してみよう。


「どうだ、出来そうか?」

「ちょっと不安な部分はあるけれど、やってみるね」

「ノアも不安だろうし、元々はうちらの仕事だ。作業中に確認をしにいくぞ、その方が安心だろう?」

「うん、そのほうが安心する。作業を確認して貰えると、本当に助かるから」

「なら、決まりだ。いつから、作業をする?」

「今後の予定を決めないといけないから、一度作物所に行って今後の予定を決めたらだね」

「よし、それじゃあすぐに取り掛かるとしよう。ノアが作物所に行ってから、家を建てる場所に案内する」


 今回の家造りは親父さんたちが作業工程を確認してくれるらしい。それなら安心して家を造れると思う。これで不安なことも減ったし、やる気も漲ってきた。


 私は親父さんと一緒に作物所へ向かった。

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