131.分身魔法(4)
次の日、いつものようにお弁当を作り、宿屋の食堂に入った私たち。温かい食事を食べている最中、クレハが何かを思いついたように話始めた。
「昨日は無理だったけど、今日なら分身と戦うことが出来そうだぞ」
「えっ、戦うつもりだったの?」
「一緒に魔物討伐を出来ないか、考えてたんだ」
「なるほど、魔物討伐をですか。分身がいると、どれくらい戦闘が楽になるんでしょうかね」
分身を作って一緒に魔物討伐か。人数が増えるのは、魔物討伐をするのに当たって有利に働いてくると思う。数はそのまま戦力の底上げにもなるから、積極的に分身を使うべきだと思う。
ただ、問題もある。本人の魔力を使うことになるので、人数が増えたところでその分使える魔力が増えるということはない。持ち前の魔力を分けて分身を作るわけだから、使える魔力が減ることで危険が増える可能性もある。
でも、それを考えても人数が増えるメリットは大きい。
「じゃあ、今日は分身を使っての戦闘を試してみる?」
「いいのか、頼んだぞ!」
「初めての試みなのでどうなるでしょうね」
「まずは、魔力の三分の一を使って分身を作ろう。それで、戦ってみてどうなったか感想を聞かせて」
「魔力の三分の一ですか……確かに手元に魔力を多く残したほうがいいかもしれませんね」
魔力の三分の一を使って分身を作ることが決まった。いざという時のために、本体には多めの魔力を残しておいた方がいいだろう。あと、懸念があるとすれば持ち物の分身を作れるかどうかだ。
昨日試してみた結果を見てみたら、ちゃんと服は着ていた。だから、物の分身も作れるということだと思う。だったら、武器の分身は作れるのか? 武器がなければ戦うことなんて出来ないと思うから、これは重大な問題だ。
分身魔法の効力がどこまであるのか、それを見るためにも試しておいた方がいいだろう。
「また、何か考えていたんですか?」
「ん? 手持ちの武器の分身も作れるのかなって思ってね」
「どうなるんだろうな。もし、作れなかったら分身はどうやって戦えばいいんだ?」
「もし、そうなったら新しい武器でも買って使わせる?」
「武器も安くないですし、それはちょっと考えちゃいますね」
「まぁ、魔物討伐に分身が有効だったら考えてもいいよ。今はお金がないってこともないしね」
食事をとりながら話は進んでいく。もし、武器の分身が作れなかったら、お店で武器を買ってくるという手がある。高い出費になっちゃうけれど、分身が魔物討伐に有効なら使える手だ。
「とりあえず、試してみよう。話はそれからだね」
「じゃあ、早く行こう!」
「食べ終わりましたし、いきましょうか」
「ミレお姉さん、ご馳走様!」
ミレお姉さんに声をかけると、店の奥から顔だけだして応えてくれた。私たちはドタバタと食堂を出て、宿屋の外に出た。
「さぁ、分身を作ってくれ」
「私もお願いします」
「うん、分かった。魔力の三分の一をイメージしておいてね」
二人は武器を構えて、魔力の調整をするために集中する。二人の様子を確認して、分身魔法を発動させた。分身魔法は二人の体を包み込み、そして隣に魔力を使って二人を形どる。
魔力が段々と形になってきて、二人の分身が出来た。なんと、手に持っていた武器もしっかりと出来ていた。どうやら手持ちの道具まで分身が作れるらしい、これは新たな発見だ。
「おお、ちゃんと武器を持っているぞ」
「じゃあ、このまま魔物討伐に行けますね」
二人も武器の分身が出来ていることに気が付いて、嬉しそうな声を上げた。うん、これだと新しい武器を変え与えなくても済みそうだ。
「とりあえず、武器も複製できたみたいで良かったよ。そうだ、私の分身も連れていく?」
「いいのか? とっても助かるんだぞ!」
「ノアの魔法は便利なので助かります」
「じゃあ、作るね」
私は自分の分身魔法をかけて、自分の分身を作った。魔力の三分の一を使って作ると、ちょっとした疲労感みたいなものが出てきた。一気に魔力を使うのはマジックバッグを作る時に似ているかもしれない。
これで私たち三人の分身が出来上がった。
「じゃあ、私はサポートをすればいいのね」
「うん、お願い出来るかな」
「オッケー、大丈夫。どれだけ魔力が持つか分からないけれど、出来る限りのことはしておくね」
流石、私の分身だ、話が早い。
「よっしゃ! 魔物討伐だな! 一緒に頑張ろう!」
「そうだな、どっちがどれだけ多く狩れるか競争だ!」
「クレハが増えると、その分苦労も増えるような気がしてきました」
「まぁまぁ、その分戦闘が楽になりますよ」
クレハたちは元気に肩を組んで意気揚々としている、だけどイリスはクレハが増えたことへの面倒ごとを気にしているみたいだ。増えるからって全てが良くなるとは限らないってことだよね。
「それじゃあ、行ってきますね」
「うん、気を付けて」
「じゃーなー!」
五人は森に向かって出発していった。いつもは二人で戦闘していたから、一気に人数増えるけど大丈夫かな? 良い感じで連係を取れて、上手く魔物討伐が出来るといいね。
さて、今日は家の中で足りないものを作ろうかな。天然酵母を作って、家畜の餌も作ろう。今日も分身魔法が活躍しそうな一日だな。
◇
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「ただいま」
魔物討伐から三人が帰ってきた。クレハとイリスと私の分身だ。
「おかえりー、とりあえず汚れ落とすね」
「あ、それはもうやっておいたよ」
「そうなの。なら、温めるね」
「帰りながら発熱の魔法で二人を温めていたから大丈夫だよ」
「そこまでやってくれてたんだ、ありがとう」
「どういたしまして」
私の分身が私のやろうと思っていたことを先にやってくれた。まぁ、もう一人の私がいるみたいだから、そうなっちゃうよね。
「クレハとイリスの分身は?」
「クレハの分身は昼食前には消えましたね。私の分身は魔物討伐が終わるちょっと前くらいに消えました」
「ウチの分身には魔力が少なかったみたいなんだぞ」
「そうなんだ、それぐらい持つんだね」
クレハはイリスや私に比べて、グンと魔力が少ないから仕方がない。でも、イリスの分身はかなり持った方だと思う。魔法を使ってそれくらい持つのであれば、イリスの魔力量はかなり高いだろう。
そんな二人よりも私のほうが魔力量が高いから、今でも分身が残っている訳なんだけど。
「私の魔力量はどれくらい残っているの?」
「んー、全量の十分の一くらいまで減ったかな。結構魔法を使ったと思うんだけど、消えずに残ったみたい。もしかしたら、使っていた魔法の燃費が良かったからかもしれないけれど」
「ふーん、そうなんだ。今日はご苦労様」
「うん、そっちもお疲れー」
私は分身の手を握り、魔力を吸い取った。すると分身はパッと消えていなくなる。
「それで、分身と一緒に戦っていてどうだった?」
「かなり役に立ちました。今日は魔物が多いところに踏み込んでみたんですけれど、全然大丈夫でした」
「ウチが二人いると凄いことになったんだぞ。魔物がどんどん倒れていったんだぞ」
「へー、といことは分身ありでの魔物討伐は成功したんだね、おめでとう」
どうやら、分身との共闘は成功したらしい。人数が増えるだけでも魔物討伐は楽になるし、危ないところにも行けるだろう。何よりも二人の安全性が高くなったのが嬉しい。
「今回も良い魔法を覚えたな! やっぱり、ノアの魔法が凄いんだぞ!」
「ですね、またノアに新しい魔法を覚えてもらうために、私たちも頑張りましょうね」
「二人が頑張ってくれるお陰で、新しい魔法を覚えるよ。二人ともありがとう」
なんだか嬉しくなって二人を抱きしめた。二人に出会えて本当に良かったよ。さぁ、温かい食事を一緒にとろう。
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