130.分身魔法(3)

「分身魔法はそんなに凄い魔法だったんですか」

「ノアが全部で七人、その光景を見たかったんだぞ」


 夕食が終わった二人に今日あったことを話してみた。話を聞いた二人はとても驚いて話を聞き、それぞれの感想をいう。


「本当に凄い魔法で、仕事があっという間に終わるだけじゃなくて、相談事も出来ちゃうのが凄いなって思ったよ」

「それって自分と自分が話し合って決める感じですよね。どんな感じなんでしょう」

「自分と話して決めるっていうのが可笑しいよな」

「私も最初は慣れなくて分身に圧倒されちゃうくらいだからね」


 分身と相談事が出来たのが一番驚いた。自分が沢山いるだけだと思ったんだけど、それ以上の効果はあったみたい。私があんなにいるだけで、色んな事が解決していきそうな感じがした。


「ノアがいっぱいいると、それだけで問題が解決しそうな感じがします」

「同じ考え方をする人だけでも、解決するんだなー。不思議だよな」

「そうなんだよね、不思議な感覚だったよ。まぁ、これが分身魔法を使った感想かな」


 二人はふーんといった感じで話を聞いていた。実際に目で見たわけではないので、あまり実感がないのだろう。反応が鈍い、何か考えているみたい。


「その分身魔法、私たちにも使えますか?」

「多分使えると思う。分身を作る人の魔力があれば、出来ると思うよ」

「それだったら、ちょっと作ってもらえませんか?」

「ここで、イリスの分身を?」

「ウチも、ウチの分身も作って欲しいんだぞ!」


 イリスとクレハは自分の分身を作って欲しいと言ってきた。今の話を聞いて興味が引かれたんだろう、自分の分身をみたくなっちゃったのかな?


「よし、いいよ。ここに並んで」


 私が何もない空間に二人を立たせる。二人はとてもワクワクした表情をして、その時を待っていた。


 分身魔法を発動させて、対象物を二人に設定する。二人を一度魔力で包み込み、そこから本人たちの魔力を使って分身を作る。二人の魔力が外に漏れ出すと、それは人物を形どっていく。


 二人の魔力が段々形になってきて、二人の分身が出来た。二人にそっくりな分身が二人その場に立つ。


「これが、分身魔法ですか」

「うわー」


 二人は出来上がった分身を見て驚いている様子だった。でも、どういったアクションをすればいいのか分からないのか、その場で立ち止まって眺めることしか出来ない。


 すると、先に分身の方が動いた。


「分身の私を見て、驚いちゃいましたか?」

「ひひひっ、間抜けな顔をしているんだぞ」


 何もアクションをしない二人に向かって、分身は好きなように振る舞った。それにボーッとしていた二人はハッと我に返り、改めて反応を示した。


「うわー、私がいます。本物でしょうか?」

「本物はあなたのほうですよ」

「ウチだ! ウチがいる!」

「そうだぞ、ウチだぞ!」


 それぞれが分身と向き合い、思い思いの言葉を交わしていた。


「ほら、こんなことできますか?」

「いや、あの……私は鏡じゃないので、そんな風に動かれても」


 イリスは色んなポーズをとってみたけれど、分身の反応は良くない。まぁ、急に変なポーズをしてきたから、戸惑うのは分かる。


「ウチは何が出来るんだ?」

「なんでも出来るぞ! 何かするか?」

「んー、思いつかない!」

「そうか、なら仕方ないな!」


 クレハは話しているみたいだけど、中身がない。楽しそうだからいいけど、あんまり大きな騒動にならなくて良かった。クレハならどっちが強いか試してみたくなるんじゃないかって思った。


「そうだ、どっちが強いか試してみるか?」

「それは面白そうなんだぞ。言っとくけど、分身だけど強いんだぞ」


 と思ったら、戦うような雰囲気になってきた。予感は的中したけれどあんまり嬉しくない。


「室内で戦うのだけはよしてよ」

「なら、外で戦えばいいか?」

「でも、外は寒いんだぞ」

「ウチは寒さとか感じないから平気だぞ! さぁ、外に行こう!」

「ウ、ウチは嫌だぞ!」


 なんだかクレハのほうが拗れてきたな。分身が本体を引っ張って外に連れ出そうとするけれど、本体は嫌がってその場で踏ん張っている。これはどっちが勝つんだ?


「クレハったら、二人いたらかなり賑やかですね」

「クレハですから、まだまだ元気がありあまっている感じですね」

「そういえば、分身は疲れとか感じるんですか?」

「そういうのは感じないみたいですよ。魔力で出来てますから、普通の人間と感覚が違うんですよね」

「なるほど」


 変なポーズをとっていたイリスは落ち着きを取り戻して、考察なんて始めちゃった。二人のイリスがいるとどんな考えになるのか気になるな。


「じゃあ、何で勝負する?」

「早食いはどうだ?」

「ウチは魔力で出来ているから、食べ物は食べられないんだぞー」

「そ、そうなのか!? なんだか、可哀そうだな」


 食べ物を話をしてしょんぼりしているクレハはなんだか可愛く見える。そっか、魔力で出来ているから食べ物も必要ないんだ。こうして考えると分身魔法って色々と便利な魔法なんだな。


 しばらく、分身たちと遊んでいると、クレハが大きなあくびをした。


「ふぁー、眠たくなったんだぞ」

「ウチは眠たくないぞ。分身だからな」

「じゃあ、そろそろ寝ようか。分身は消すから、こっちに来てー」

「もう終わりみたいですね。それじゃあ、また」

「はい、また会いましょう」

「じゃーなー、ウチ!」

「またなー、ウチ!」


 分身は別れを告げて私の周りにやってきた。私は分身の手を握ると、残った魔力を回収する。しばらくすると、分身はパッと消えた。


「消えちゃいましたねー。なんだか、寂しいです」

「そうだな。自分がもう一人いるって結構楽しかったんだぞ」

「私も増えた二人を見て、楽しかったよ。じゃあ、寝ようか」


 静かになった家の中に寂しさを感じつつ、私たちは寝る準備を始めた。

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