129.分身魔法(2)

 まずは五人の分身を作ってみよう。今度はしっかりと魔力調整をして、イメージをしっかりと作る。そして、分身魔法を発動。すると、体から魔力が出ていって、五つの分身が形どられていく。


 最後までしっかりと意識して魔法を発動させると、分身が出来上がった。私そっくりな分身が五人、これで全部で六人になる。


 改めてみる分身を見て、自分がいる光景には慣れない。ボーッと眺めていると、出来立ての分身たちが動きだす。


「ビート作るんだよね」

「じゃあ、種を撒かなくちゃ」

「これだけ人数がいたら、あっという間に終わりそう」

「これだけで人数足りるかな?」

「ちゃっちゃと始めちゃおうよ。本体、早速地魔法を発動させて種を植える穴を開けてよ」

「う、うん、分かった」


 一斉に喋り出すから驚いちゃった。仕事のために分身を作ったんだから、仕事をしないとね。地面に手を当てて地魔法を発動させて、種を植える穴を作り出す。一瞬で作り終えた時、初めに作った分身が近づいてきた。


「ビートの種持ってきたよー。じゃあ、分けるからみんな集まってー」


 分身がみんなを呼び、種を分けて渡した。分身たちは種を受け取ると、畑に散らばっていき種を植え始める。と、そこへ分身が近づいてきた。


「はい、これ」

「あ、ありがとう」


 私も種を貰った。まだこの環境になれないけれど、仕事はしなくちゃね。こんだけ人手がいるんだから、ちゃっちゃと終わらせておこう。


 みんなと一緒にビートの種を植えていく。みんな働き者なのか黙々と作業をしてくれる。そのお陰であっという間に種を植えることができた。


「じゃあ、次は植物魔法だね」

「それは本体がやってね」

「そうそう。私たちがやっちゃうと、魔力切れになって消えちゃうから」

「そうだよね、じゃあ植物魔法を使うよー」


 テキパキと物事が進んでいく。種植えを終えた私はまた地面に手を置いて、今度は植物魔法を発動させた。すると、地面からビート葉が生えてきて、土の中からはビートの根がこんもりと膨らんでくる。


「よし、収穫だー」


 誰かが言ったセリフによって、分身たちは畑に散らばっていった。それから、生ったビートを次々と抜いていく。私もそれに混ざってビートを抜き始めた。


 全部で七人もいると、作業は順調に進んだ。一時間も掛からずに畑一面になったビートをほぼ抜き終えることができた。数の力って凄い、あっという間に出来ちゃうんだから。


「あとは種用だね」

「本体、早く作っちゃってー」

「うん、分かった」


 種用に残しておいたビートに植物魔法をかけると、ビートから花が咲いて種になった。いつもよりも作った量が沢山だから、これから種を取り出すのも時間がかかりそうだ。


「じゃあ、本体は魔動力を使ってビートを食糧保管庫に入れておいてね」

「私たちが魔法を使っちゃうと消えちゃうからねー」

「もっと魔力を込めたら良かったのに」

「まだまだ、考えが甘いね。もっと色々考えていたら便利に使えるのに」

「まー、まだ最初だからね。これからだよ」

「そうそう、これから使っていって経験を積んでいけばもっと便利に使えるはずだよ」


 分身の私が今後の展望を語っていた。一人だと考えつかないことがあっても、人数が多くなるだけで色んな意見が出てくるから面白い。そうだよね、もっと経験を積んで色んなことに活用出来たらいいな。


 私は分身が言った通りに魔動力を使って収穫したビートを宙に浮かせ、それを持って家の中に入っていく。食糧保管庫に大量に収穫したビートを次々と入れていく。小さな食糧保管庫に大量のビートが入っていく光景は凄まじい。


 全てのビートを入れ終わると、分身たちがいる場所に戻ってきた。分身たちは種用のビートを収穫しているみたいだ。何も言わなくても働いてくれるって便利だね。


「本体ー、ビートの葉の部分を切ってー」

「分かった」


 地面の上に綺麗に並べられたビート、その葉を風魔法で綺麗に切断する。すると分身たちが動き出し、いらなくなった根の部分を一か所にまとめ、種が生った葉の部分を集めて持った。


「それじゃあ、次は種を取る作業だね」

「これが細かくて大変な作業なんだよね」

「でも、今日は沢山人数がいるからすぐに終わるかも」

「どれだけ早く終わるか、ワクワクしてきた」

「本体にはいらなくなった根の処分をしてもらうっていうのはどう?」

「そうだね、魔法が使える人が魔法を使う作業をしたらいいと思う」

「それじゃあ、みんなは種の分別をお願いね」


 はーい、と分身たちは返事をして葉の部分を持って家の中へと入っていった。人数分座れるイスがないからきっと立ち作業で種の分別作業をするのだろう。


 そんなことを思いながら、私はいらなくなった根の部分の処分を始めた。


 ◇


 根を処分し終え、家の中に入った。すると、賑やかな声が聞こえてくる。分身たちがお喋りをしながら、種の分別作業を続けていた。


「一人じゃないから、気分的に楽ー」

「人数がいるのっていいね」

「あ、そっちに飛んだ。取ってー」

「はいはい。あったよー」

「これも魔法で出来るようになるといいのに」

「新しい魔法は覚えるけど、新しい魔法を作ったことはないよね」

「魔法ってどう作ればいいんだろうね」


 分身の私たちが賑やかに作業をしている光景は凄まじい。頼もしいんだけど、この光景に慣れていないからドキッとしてしまう。あれ、私が沢山いる……とまだ信じられない。


「あ、本体。ねぇねぇ、色々と話していたんだけどさ、魔動力ってまだまだ改善の余地があると思うんだよね」

「収穫作業をさ魔動力を使って出来たら、かなり便利だと思うんだよね」

「もっと操作を大胆かつ繊細に行えば、人の手のように使うことが出来ると思うんだよね」

「今日のビートの収穫も魔動力があれば簡単に出来たんじゃないかなーって思ったんだ」

「一度に沢山のビートをスポンッて抜くことが出来たんじゃないかな?」

「今度の収穫の時にやってみてよ。それか出来るように練習してみて」


 分身たちを放っておいた結果がこれか。まさか、魔動力の使用方法の模索まで考えてくれるなんて思いもしなかった。まぁ、でもビートの収穫は魔動力を使えば出来たかもしれないなぁ。


 やっぱり、魔動力を色んなことに使えるように機能性を高めたほうがいいんだろうか? 折角覚えた魔法なんだし、色々と活用していかないと勿体ないよね。


「魔動力が今後もっと利便性の高い物にするために、練習してみるよ」

「そう来なくっちゃ! 思いついたら即行動だよ」

「どんな風になるのか楽しみだね」

「空だって飛べることが出来たんだから、色んな事が出来るはずだよ」


 わいわい、と話ながらも作業は進む。そうやってお喋りしながら作業を続けていくと、全ての種を取ることが出来た。うーん、いつもよりかなり早く仕事が終わっているような気がする。


「終わったねー。種取りって地味に大変だから」

「作業細かいからねー。こればっかりは魔動力ではどうにもならないわ」

「鍛えたらいけるかもよ」

「あとはやることはないよね」

「じゃあ、そろそろ私たちは用済みか」

「魔力がなくなったら消えるから、魔力を吸い取って消えるのはどう?」

「魔力を吸い取るってどうやればいいの?」

「気合でなんとかなるよ。ホラ、やってみて」


 いやいや、気合で出来たら苦労しないよ。そんな私の気持ちを知ってか知らずは分身は私の手を握ってくる。うーん、とりあえずやってみるか。


 まずは魔力を感じる。うん、分身は魔力で出来ているからすぐに感じ取れた。その魔力を自分の方に移動する感じで、動かして……お、動いてきた。


「あ、なんか消えそう」


 分身がそう言った次の瞬間、パッと分身が消えた。


「やればできるじゃん!」

「魔力の節約にもなるしいいんじゃない?」

「じゃ、次」


 分身と手を繋ぎ、魔力を吸収して分身を消す。その作業を繰り返していくと、分身たちはどんどん消えていく。そして、最後の分身を消すと家の中がシーンと静まり返った。


 残されたのは種が大量に入った袋と、枯れた葉の部分だけだった。


「なんだか、夢を見ていたみたいだ」


 今でも分身たちと色々やっていたなんて信じられないくらいだ。でも、確かに分身たちはいた。分身魔法、これはすごい魔法だ。

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