128.分身魔法(1)
宿屋で朝食を食べて二人を見送った私は家に戻ってきた。お楽しみの魔法の時間だ。
まずは深呼吸をして心を落ち着かせる。そして、新たに手に入れた分身魔法を発動させた。今までとは違う魔法だから、発動の仕組みが違っていてちょっとだけ焦った。
それでも慎重に発動していくと、魔力が出ていく感触がした。多分これが分身を維持するのに使う魔力なんだと思う。最初はお試しだから、少ししか魔力を使わない。
そうして体から出した魔力がだんだんと形作られていく。それは私と同じ身長の長さまで膨らんで、次第に色づいていった。そして、どんどんと形作られ、そこに魔力で出来た私が出来た。
「出来た……そっくり」
私とそっくりな分身が出来た。今、私がしている恰好と同じ恰好をした分身だ。はじめは何も反応がなかったが、眺めていると突然瞬きを初めてビックリした。
「えーっと、おーい」
「……あぁ、ごめんね。起動するのに時間がかかっちゃった」
「そ、そうなんだ。そんなのが分かるんだね」
「どうやら、魔力が体に馴染まないと体を動かせないみたい。ちょっとしたラグだと思えばいいよ」
分身の私と普通の会話をしたけど、不思議な気分だ。というか、普通に会話が出来るのが凄いと思う。意思もあるみたいだし、自分で考えることも出来るみたい。本当の分身がそこにいた。
「ねぇ、私は何が出来るの?」
「んー……人として普通に動けるかな」
「魔法とか使える?」
「魔法? ちょっと使ってみるね」
分身の私は人差指を立てた。その指先を見ると、ポッと小さな火が灯った。
「わっ、出た!」
「どうやら、分身でも魔法が使えるみたいだね」
「へー、凄い。これだったらなんでも出来るね」
「分身の私でも魔法が使えるって分かったら、使ってみたくなるよね」
分身の私でも魔法を使うことが出来た、これは凄いことだ。私の魔法が使えることで、分身の私に色々な仕事を頼めることが出来る。分身と協力して魔法を使って色んなことが出来るだろうし、夢が広がるね。
「あ、でも注意してね。私は魔力で作られているから、魔力がなくなったら消えるっぽい」
「そうだよね、注いだ魔力分しかないわけだし」
「ちなみに私はここにいるだけでも魔力を使っているから注意してね」
「ということは、存在しているだけでも魔力を使う訳か。ちなみに、今だったらどれくらい存在出来るの?」
「このまま魔力を使わなかったら一時間くらいかな」
「あれくらいの魔力で一時間なんだ。結構もつんだね」
ふむふむ、なるほど。分身を維持するだけでも魔力を使うし、もし魔法を使った時は分身が持つ魔力を使う訳だからその分早く消えてしまうと。それに、あれくらいの魔力で一時間くらいか……魔法を使わなかったらかなりの時間動いてもらえることが出来るね。
「で、早速私は何をすればいい?」
「まだ、家畜の世話が終わってないから、そっちを願いしようかな」
「分かった、やってくるね」
「待って、私も行く」
「えっ、一人でも出来るよ?」
「二人でやったほうが早いでしょ?」
「まぁ、そうだね。じゃあ、よろしくね」
分身と一緒に外へ出る。外に出ると寒さが身に染みる。だけど、分身は平気そうだ。
「分身の私は寒さは大丈夫なの?」
「うん、何も感じないよ。魔力で出来ているから、その感覚がないのかな?」
「へー、いいね」
「ふふ、そうでしょ」
羨ましそうにしていると、分身は嬉しそうにした。分身だからと言って機械的な対応をするんじゃなくて、そのままの私がいる感じだ。でも、そういうほうがやりやすくていい。
「多分、魔力で出来ているから食べることも必要なさそう」
「あー、なるほど。必要なのは魔力だけなんだね」
「うん、そうみたい。魔法も使えるのに、必要なものは魔力だけ、便利な体だねー」
「人間の体に比べたら楽だよねー」
魔力で作られた体だから、人間に必要なものが必要ない。それだけで結構羨ましくなる、人間って結構面倒くさいところがあるからね。
二人で牛舎の中に入ると、モモがこっちを向いた。そして、二人いる私たちの姿を見て、ちょっと後ずさりをした。どうやら、混乱しているみたいだ。
「モモは同じ人が二人いるって分かるんだね」
「そうだね。怯えさせないように別れて作業しようか」
「じゃあ、私は鶏の世話をしてくるね」
「うん、お願い」
分身は牛舎のところに保管してある、鶏用の餌を持って牛舎を出ていった。分身がいなくなると、混乱していたモモは落ち着きを取り戻す。モモにも同じ人がいるって分かるんだね。
その後、私はモモがいたスペースの掃除をして、餌を与えた。それから乳周りを拭いてから、牛乳を搾る。今日もモモはいっぱい牛乳を出して偉いぞ。バケツ一杯に牛乳が溜まった。
「こっちは終わったよー」
と、そこへ分身が戻ってきた。すると、モモはビックリしたように後ずさりをする。やっぱり、私が二人いる状況が理解出来ないらしい。私はモモを落ち着かせるように、撫でてあげた。
「大丈夫だよモモ、魔法で分身を出しただけだから」
伝えてもモモには伝わらない。うーん、今度は動物と話せる魔法が出来ればと思ってしまう。
「モモはどうしたの?」
「私たちが二人いることに驚いているみたい」
「あー、そうなのね。驚かせないように牛舎の外で待ってようか?」
「それだったら、手伝って欲しい。モモのブラッシングをお願い、私は草を生やしてくるから」
「うん、分かった」
分身にブラッシングをお願いすると、代わりに私が外に出る。外に出ると昨日生やした草の跡が残っているが、それだけじゃモモが食べる分が足りない。
しゃがむと地面に手を当てて、植物魔法を発動させる。すると、草がにょきにょきと生えてきて、一面に青々とした草が沢山生えた。これでモモを放牧しても大丈夫そうだ。
私はモモを驚かせないように、牛舎の外の壁に寄りかかって姿を隠した。
「ブラッシング終わったら、モモを放牧スペースに出してねー」
「分かったー」
身を隠しながら話しかけると分身から返事がした。私はそのままの体勢でボーッとして待つ。しばらくすると、分身がモモを牛舎から出して、放牧スペースに離した。
「終わったよ」
「ありがとう」
「今度は何するの?」
「今日は砂糖作りをしようかなって思っているよ」
「昨日は野菜の収穫だったもんね」
普通に話すと、違和感なく普通に受け答えをしている。逆にそれが違和感に感じた。
「そういえば、どうして昨日のことが分かるの?」
「んー、私の記憶は本物が分身を作る直前までの記憶があるみたいだね」
「へー、だったら今までの記憶が残っているんだね」
「そうみたい。良かったね、話が通じやすいよね」
「うん」
分身を作る直前までの記憶があるのか、それだったら説明もしなくても現状を理解してくれる。それは大分助かる、誤差のない自分の記憶を分身が持っているんだから説明する手間が省ける。
「ビートの収穫も分身を増やしてみよう」
「どれくらい増やすの?」
「五人くらい?」
「だったら、ビートをいつも以上に収穫出来るんじゃない?」
「そっか、そうだよね。大量に作って保管しておくことが出来るんだ、この際だから沢山作っちゃおう」
「うんうん、そのほうがいいよ」
よし、今日はビートの大収穫祭だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます