126.称号のレベルアップ2
「うぅー、寒いねーモモ」
「モー」
朝のブラッシングをモモにする。冷たい空気が肌をさして、動かしづらい。そこをなんとか気力を振り絞って、手を動かしてブラッシングをする。モモが気持ちよさそうにしてくれるのが唯一の救いだ。
体全体のブラッシングをすると、モモの体が光っているように見えてきた。うん、今日も満足いくブラッシングができた。
「はい、モモのブラッシングが終わったよ。今度は草を生やすからちょっと待っててね」
モモを牛舎の中に置いておくと、放牧スペースにやってきた。昨日雪が降らなかったから、放牧スペースは昨日生やした草がちょっと生えているだけだ。この草だとモモには足りないから植物魔法を使う。
地面に手をつき、魔力を高めて植物魔法を発動させる。すると、放牧スペースの地面から草がにょきにょき生えてきた。そのままモモが食べそうな分を生やすと植物魔法を止める。
「よし、これでいいね」
牛舎に戻ってモモを放牧スペースに放牧した。モモはゆっくりとした足取りで放牧スペースを歩き、早速草を食べ始めた。これで家畜の世話は終わったね。
牛舎から搾りたての牛乳が入ったバケツを魔動力で浮かせると、それを持って家の中に入る。牛乳を加工するのは後にして、食糧保管庫の中に入れておこう。バケツをそのまま食糧保管庫に入れておく。
さて、今日は久しぶりに野菜を作る日だ。本来冬の時期は蓄えた野菜などをやりくりして生活するんだけど、私には植物魔法がある。それがあれば、冬にだって新鮮な野菜を食べれることが出来る。
私はコルクさんに教えてもらった必要な野菜リストを手にすると、種保管庫から必要な種を選ぶ。葉物の野菜が多くて、次に夏野菜とかが多い。どれも冬では食べられないものばかりだ。
需要があるのはありがたい、こうして冬でも仕事にありつけることが出来るから。秋には小麦の収穫があって、私の仕事が一つ減ってどうしようかと思ったけど、子供だけでもなんとか暮していけるようになっている。
二人が魔物討伐を頑張ってくれるし、私の収入もあるし、もう金銭的な不安感はない。もうお金を自由に使えるくらいのお金は溜まっているから、気がとても楽だ。
どうなるんだろう、と不安だった生活もなんとか普通に暮していけている。私たちって結構いい生活しているんじゃない? と、思う時もしばしばある。町を追い出されたときはどうしうようかと思ったけど、結果的には良い生活を送れている。
さて、考え事もほどほどにして畑仕事をしないとね。種も持ったし、畑に行こう。
種を持って外に出ると、畑へと近づく。地面に手をついて地魔法を発動させて、種を植える穴を作る。それから、その穴に一つずつ種を植えていく。こういう時、人手があればあっという間に終わるんだけどな。
でも、農家の人が手伝ってもらうほどでもない。いや、売ろうと思えばもっと売れるから沢山作ってもいいんだけど、そこまで急を要していないから必要ないんだよな。でも、人手が欲しい。
全ての種を植え終わると、畑の端に行って地面に手をつく。それから植物魔法を発動させると、植えていた種から目が出て、急激に成長する。あっというまに、この季節ではお目にかかれない野菜たちが沢山生えた。
「さてと、あとは収穫するだけか」
よっこいしょ、と立ち上がると育った野菜に近づいていく。やっぱり、人手があればなぁ……そう思いながら一つずつ野菜を収穫していった。
◇
今日の夕食は塩からあげ、サラダ、ミルクスープ、パンだ。出来た食事に時間停止をかけて、二人が帰ってくるのを待つ。すると、外から音が聞こえてきた。
「ただいまー」
「ただいまかえりました」
ドタバタと二人が家に入ってきた。私はいつものようにイスから立ち上がり、二人に近寄っていく。だけど、二人はそのままドタバタと私に駆け寄ってきた。
「ノア、とうとう来たぞ!」
「おかえり。どうしたの?」
「あれが来たんです!」
「あれって……」
「称号のレベルアップだ!」
えっ、もう称号のレベルアップが来たの? でも、なんで二人がそんなことを理解しているんだろう。
「二人とも、どうして称号がレベルアップしたか分かったの?」
「なんか、とてつもない力を使えるようになったんです」
「魔物の群れなんてあっという間に倒したんだぞ」
「あー、そういうことか。新しい力に目覚めて、それを使ったから分かったんだね」
なるほど、そういうことか。戦っていたらいつもとは違う力が出たからそれで分かったんだ。それだけで分かるほどに強い力に目覚めたんだね。
「ちょっと鑑定してみるね」
私は久しぶりに二人を鑑定した。
【クレハ】
年齢:十一歳
種族:狼獣人
性別:女性
職業:冒険者
称号:勇者の卵 レベル四
【イリス】
年齢:十一歳
種族:人間
性別:女性
職業:冒険者
称号:聖女の卵 レベル四
うん、しっかりと卵のレベルが四にまで上がっている。
「二人ともおめでとう。これでレベル四になったよ」
「やっぱりそうか。上がったような気がしたんだよなー」
「上がっていて良かったです。それにしても、どれくらいまで上がるんでしょうね?」
「うーん、そればっかりは分からないなぁ。もう一レベルで一区切りつくけど、そこでどうなるかだね」
「もし、卵の表示が消えたらウチらってどうなるんだろうな」
「そしたら勇者と聖女になるってことですよね。ということは、本物になる?」
本物の勇者と聖女になったらどうなるんだろう? 卵の状態でのレベルアップだけでも、かなり強くなっているんだから、卵の表示が消えるだけでもかなり強くなりそうだ。
「まぁ、強くなるのに悪いことなんてないよ。それに強くなったほうが二人とも戦闘は楽になるんじゃない?」
「そうですね、悪いことなんて起こりませんよね」
「いや、強い奴の気配を察して強い奴が出てきたらどうする?」
「そんなことはないと信じたけどなー」
「そういうのは面倒だからいいです」
「二人ともノリが悪いんだぞ」
クレハは強い奴というのが気になっているみたいだ。自分に力が付き始めたことを自覚して、試したい気もあるのだろう。まぁ、気持ちは分かるけど、そうなったら面倒だなぁ。
「強くなったから、もっと森の奥に行けそうな気がするんだぞ」
「森の奥には強い魔物がいますからね、いいと思います。ですが、今より森の奥に行こうと思ったら、一泊しないといけないような気がします」
「他の冒険者にも森で一泊している奴はいるぞ」
「そうですけど、私たちだけで森に一泊することが出来るんでしょうか?」
森で一泊かー。二人だけで森に一泊すると不安になってきちゃうね。でも、一日で進める距離は限られているし、今以上に強い敵と沢山戦うには森で一泊するのが選択肢に入ってくる。
「まぁ、森で一泊するんだったら必要なものは買い揃えなきゃいけないからね。すぐにはいけないね」
「そうですね、必要なものが多そうです」
「必要なものが多くたって平気だ! なんてったって、ノアが作ったリュックがあるからな!」
「ははは、クレハは森に行く気満々だね」
「もう、クレハったら気が早いですよ」
楽しそうにしているクレハを見ていると、止める気も失せてくる。イリスとしっかりと相談をして決めて欲しい。決まったら全力でサポートするだけだ。
「三人で行けたらいいな、と思っているんだぞ」
「私もいいの? 邪魔になるんじゃない?」
「大丈夫だと思います。本当に危なかったら後方に下がってもらうことも出来ますし」
「後方に下がったとしても、イリスの防御魔法があるからな、それで守ってもらうといいぞ」
そっか、イリスにはそういう防御魔法があったんだ。二人が行くんなら、私も行ってもいいかなー。
「今の季節は寒くて無理だけど、温かくなったら考えようか」
「そうか、今は冬だもんな。外で寝るには厳しいぞ」
「ノアの魔法でどうにかなりませんかね」
「発熱の魔法。うーん、長時間発動出来るか分からないし、一回実験してみたほうがいいと思うの」
「ノアだったらきっとなんでも出来るぞ」
魔法を便利に使っているけれど、あまり鍛錬とかはしていない。それで平気だったけれど、今後はもっと活用の場を増やしたいから、色々と使えるようにしておくのもいいかも。
「ちょっと、魔法の訓練をしてみるよ。そしたら、もっと便利になるかもしれないし」
「そうですね。魔法の使い方が多くなったら、今より便利になりそうです」
「便利といえば、ノアの新しい魔法も楽しみだな! 今度はどんな魔法が出てくるんだろうな」
「そうだね、明日になったら分かるよ。さぁ、お喋りはここまでにして夕食にしよう」
「はっ、そうだった! 思い出したらお腹が減ってきたんだぞー」
「私もお腹ペコペコです」
「ふふ、さぁ食べよう」
二人を席へと促して、私も席につく。明日はきっと新しい魔法が生えてくる。どんな魔法を覚えるか、楽しみになってきた。
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