125.期間限定の素材(5)
「いやー、素材が沢山採れたな!」
「これだけ取れれば、錬金術師の人も喜びますね」
「二人とも、協力してくれてありがとう」
薄暗い夕方、村の中を意気揚々と私たちは歩いていく。エルモさんに頼まれた素材はかなりの数を入手することが出来た。エルモさんはいくつでもいいと言っていたけれど、本当に大丈夫かな? と、心配するほどの量だ。
「でも、こんなに沢山の素材を持っていっても大丈夫かな」
「錬金術師の人はなんて言ってたんですか?」
「いくらでも持ってきてもいいって」
「ふーん、なら大丈夫じゃないか。もし、ダメだった時は料理をして食べよう!」
「キノコは食べられますが、花は食べられませんよ」
「あんなにいい匂いしていたのにか?」
「ダメです」
クレハはキノコも気になるけど、花も気になっているみたいだ。イリスは強く否定をすると、クレハは救いを求めるように私を見てきた。
「なー、ノアなら美味しく調理出来るんじゃないのか?」
「花か……食べられる花もあるとは思うけど、あれが食べられるか分からないなぁ」
「そうだ、鑑定のスキルで調べれば食べられるか分かるんじゃないか?」
「そこまでして食べたいんですか?」
「いい匂いがするものは美味しそうなんだぞ」
「もう、なんでも口にしたらダメですよ」
美味しそうだと蕩けた表情をするクレハにイリスはビシッと言い聞かせた。それでもクレハは聞いているのか聞いていないのか、表情は変わらない。これはイリスの話をあまり聞いていないな。
三人で固まって移動をしていると、宿屋が見えてきた。
「ウチが一番だぞー!」
「待ってください」
「あ、ずるーい」
宿屋を見つけたクレハは一番に駆けていき、それをイリスと私が追う。宿屋の中に入り、食堂の扉を開けると温かい空気が体を包み込む。
「ふー、温かいんだぞ。ホッとするー」
「外は寒かったですから、建物の中は温かくていいですね」
「早く席に着こうよ」
入口のところで食堂の温かさに身を委ねている二人の体を押してテーブルへと近づく。リュックとコートを脱いで席に着くと、ミレお姉さんがやってきた。
「いらっしゃい。今日は久しぶりに三人で森に行ってきたの?」
「はい。今日はノアに頼まれた素材採取に行ってきました」
「あら、こんな日に素材採取? 雪が積もって見つけ辛かったんじゃないの?」
「それはノアの特技で解決だぞー」
「あらー、そうなの。ノアちゃんは何でも出来るのね、うちにもノアちゃんがいれば助かるのに。ノアちゃんが増えたらいいのに」
「流石にそれは無理だよ」
「ふふっ、冗談よ。今、食事を持ってくるから待っててね」
ミレお姉さんはウィンクをすると、その場から離れていった。
「ノアは増えるのか?」
「魔法とかで増えませんかね」
「いやー、どうだろう。そんな魔法がありそうな気がしない」
「でも、今までだってすごい魔法を手に入れてきたぞ」
「ありうるかもしれませんね。ノアが増える魔法」
「そうだったら、どんなことが出来るかなー」
自分が増える魔法か、それが出来たらどれだけ良いことか。色んな手が増えて、色んなことが早く終わって、色んなことに手をつけられる。そんな便利な魔法があるわけないよねー。
そんなことを話していると、ミレお姉さんが食事を持ってきてくれた。
「今日は肉野菜炒めとスープとパンよ。召し上がれ」
「いい匂いだぞ!」
「お腹ペコペコでした」
「食べようか」
「「「いただきます」」」
手を合わせて挨拶をすると、早速食事に手をかける。クレハは肉を食べて、私とイリスはスープを飲む。
「うん、うん、今日も美味いんだぞ。味付けも最高なんだぞ」
「ふー……スープを飲むとホッとします」
「ねー。ようやく一息付けるって感じだよ」
クレハはガツガツ食べて、私たちはゆっくりと食べる。今日も沢山歩いたし、沢山動いたし、疲れたな。だから、食事が美味しく感じる。みんなと食べるともっと美味しく感じる。
温かい食堂の中でみんなとわいわい食べる食事はとっても美味しかった。
◇
翌日、午前中の仕事を終えるとエルモさんのお店に行った。
「エルモさん、こんにちはー」
「いらっしゃい、ノアちゃん」
「早速素材を取りに行ったよ」
「まぁ、そうなんですか? とっても助かります。さぁ、こっちに座ってください」
いつものようにカウンターに座ると、リュックとコートを脱いで落ち着いた。
「すごく沢山採れたんだけど、本当に全部買い取りって出来るの?」
「もちろん、大丈夫ですよ。素材を出してください」
「うん、分かった」
リュックを持つと中から素材を取り出していく。はじめはなんてことない量だったが、どんどん出していくとカウンターに山となって積まれていった。その素材を前にしたエルモさんの表情も変わっていく。
「わっ、わっ、わー! こんなに沢山の素材を取ってきたんですか?」
「まだまだあるよー」
「えー、まだあるんですか?」
エルモさんはとっても嬉しそうな顔をして素材を見ていた。カウンターに山となって積まれるキノコと花、こんなに沢山の素材を本当に使うんだろうか?
そして、全ての素材をカウンターの上に置き終えた。
「これで終わりだよ」
「まさか、こんなに取ってきてくれるなんて思ってもみませんでした」
「大丈夫だった?」
「はい、大丈夫ですよ。私自身が使う部分もありますが、遠くにいる錬金術師の仲間にもおすそ分けをするつもりでしたので。これだと、仲間に沢山素材を渡せます。本当にありがとうございました」
「そうだったんだ。それなら大丈夫そうだね」
「いま、査定しますね。ちょっと待っていてください」
エルモさんは大きな箱を取り出すと、その中に素材を一つずつ検分して入れていく。こんなに沢山あるから時間がかかりそうだ。暇になった私はお店の中にある商品を眺めて時間を潰すことにした。
あ、人気のポーションの瓶が結構無くなってる。ということは、冒険者の人が買いに来たのかな? エルモさん、ちゃんと対応出来たのかな? うーん、心配だ。
子供には普通の態度で接することは出来るけど、大人の人だとそうはいかないって言っていた。変に緊張しちゃうからだとか、怖いからだとかいうけれど、私に対応したように出来ないのかな?
「ノアちゃん、お待たせしました」
どうやら査定が終わったみたいだ。私はカウンターに戻ると、エルモさんからお金を受け取った。
「結構高くつくんですね」
「期間限定の素材ですからね、普通の素材よりも買い取り価格は高いんです」
「そうなんだ。私的には助かるからいいんだけど、エルモさんは大丈夫? かなりのお金が減ったと思うんだけど」
「そうですね、お金は心もとないです。だから、はやくこの素材を遠くにいる仲間に売りつけようと思います」
そうだよね、こんなにお金が減ったんだから、手持ちのお金は少ないはずだ。悪いことしたみたいだけど、エルモさんは喜んでいるみたいだし、まぁいっか。
「今日も一緒に昼食を食べていきますか?」
「うん、そのつもりで来た」
「ふふっ、お喋りの相手がいて嬉しいです。じゃあ、お茶を淹れますね」
そう言ってエルモさんはお店の奥へと消えていった。しばらく待っていると、昼食とお茶をトレーに乗せてエルモさんが戻ってくる。
「さぁ、一緒に食べましょう。ノアちゃんの今日のお弁当には何が入っているんですか?」
「今日は香草焼きが入っているんだよ」
「わー、美味しそうですね。私の燻製肉と交換しませんか?」
「いいね、そうしようか」
「えへへ、嬉しいです」
エルモさんが席につくと、私はリュックからお弁当箱とパンを取り出す。それをカウンターの上に並べると、二人で手を合わせて挨拶をして食べ始める。
のんびりとした時間が流れ出した。ちょっと忙しい毎日だけど、充実していて楽しい。これからもこんな時間が続けばいいのにな。
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