124.期間限定の素材(4)
戦闘と素材採取を繰り返しながら、私たちは森の中を進んだ。いつもは戦闘している二人の連係は素晴らしいもので、息がぴったりで隣で見ていると惚れ惚れしてしまうほどだ。
家で見るのんきな二人はそこにはいなくて、キリッとしてかっこいい二人がそこにいた。私はそんな二人に迷惑が掛からないように、魔法で援護するしかできなかった。
例え力があったとしても、その使い方を学ばなかったら意味がないと思った。だから、こうして魔法を使う機会があって本当に良かった。協力してくれた二人には感謝だね。
「そろそろお腹が空いたぞ」
「なら、お昼を食べしょうか」
「いいね、まずは辺りに魔物がいないか見てみてよう」
三人で手分けして、周辺に魔物がいないか調べた。何か探知魔法みたいなものがあると良いんだけど、そういう魔法はないなー。自分で魔法を作れたりしたら楽しいのに。
そんなことを考えながら周辺の安全を確保した。
「この辺なら昼食を食べても平気そうだね」
「なら、早速食べるんだぞ!」
「ちょっと待って、まずは雪を蒸発させるから」
このまま地面の上に布を引いたら、体温で雪が解けてべちゃべちゃになっちゃう。それを防ぐためにも、まずは雪の蒸発をさせないとね。
火魔法を使って地面の雪を綺麗に蒸発させた。手で地面を触ってみると乾いていて温かくなっている。
「この上に布をひこう」
「そうですね。クレハ、布の端を持ってください」
「分かったぞー」
イリスとクレハが布をの両側を掴むと、広げて地面の上に広げた。それから、二人は布の上にお尻を下ろす。
「地面を燃やしたからなんでしょうけど、お尻が温かいです」
「ぬくぬくして気持ちがいいんだぞー」
「へー、どれどれ……本当だ温かい」
「この温かさなら寝そべったら、もっとぬくぬくするんだぞー」
地面が燃やされたお陰で、地面が温かくなった。すると、クレハが布の上に体を横たわらせてゴロゴロと温かくなった地面を堪能する。それを見ていた私たちは顔を見合わせると、同じように横たわった。
「本当ですね、温かいです」
「ね、じんわりとして温かい」
「このまま横になってもいいけど、お腹も空いているんだぞ。どっちを優先するか悩むぞ」
「確かに、この温かさは癖になりますね」
「じゃあ、昼食は食べない?」
「むぅ……いいや、昼食が優先なんだぞ!」
ガバッと起き上がったクレハはリュックに手をかけて、中からお弁当を取り出した。
「お弁当も温かくて、良い感じだぞー」
「時間停止のリュックだからね、出来立てのまま食べられるのがいいよね」
「寒い時に温かい食事は本当に助かりますね」
「さぁ、食べるんだぞ!」
「食後のおやつにクッキーもあるよ」
「わぁ、嬉しいです。早速食べましょう」
それぞれ、お弁当を取り出すと蓋を開けて食べ始める。お弁当の中身は作りたてのように温かくなっていて、冷えた体に美味しさが染み渡っていくようだ。
「今日のお弁当も美味しいんだぞ。肉から肉汁が溢れてきて、幸せなんだぞー」
「焼きたてのパンが外でも食べられるのって革命ですよね。しかも、パンにバターも入っていて味わい深いです」
「バター入りのパンを気に入ってもらえて良かったよ。クレハのお弁当はお肉が多めに入っているから、沢山食べてね」
「ノアは良く分かっているんだぞー」
クレハは肉が好きだから肉を多く入れて、イリスはパンが好きだから微妙に味を変えて楽しんでもらっている。二人とも満足げに食べてくれるから本当に嬉しい。
美味しそうに食事をとる二人を見て、私の気持ちはいっぱいになってきた。おしゃべりをしながら食べ進めていくと、あっというまにお弁当を食べ終えてしまう。ふー、お腹がいっぱいになったな。
「ふー、くったくった。じゃあ、次はおやつタイムだな」
「食事が終ってからすぐのおやつタイムはなんだか罪悪感がありますね」
「お腹いっぱいのところにさらに食べるからねー」
お弁当箱をしまい、リュックの中から箱を取り出す。その箱を開けると作っておいたクッキーが入っていた。それぞれ一枚ずつ取ると、嬉しそうな顔をしてクッキーを頬張った。
「んー、このサクサクした感じが堪りません」
「この食感が堪らないよなー」
「いくらでも食べちゃいそうだね」
一枚食べるともう一枚、それを食べるともう一枚。どんどんクッキーが減っていく。
「あーあ、ここにエルモさんが淹れたお茶があれば最高なのにな」
「そういえば、言ってましたね。錬金術師のお姉さんが淹れてくれるお茶が美味しい、と」
「ノアばっかりずるいんだぞー」
「ごめんごめん。今度三人でお邪魔してみる? それとも、お茶を家でも淹れれるようにするとか」
「どっちも捨てがたいですねー」
「お茶は美味しいか?」
「うん、美味しいよ」
そんな風にお喋りをしながらクッキーを食べていくと、最後のクッキーになってしまった。空になった箱を見て、私たちはしょんぼりする。
「もう終わりですか、残念です」
「もっと食べたかったんだぞー」
「そうだね、もっと食べたかったね。今度はもっとクッキーを作ってみるよ」
「楽しみにしてますね」
「お腹いっぱいになるくらいに作ってくれよな!」
一日何回焼けばいいんだろうか? そんなことを考える。満足できるくらいの量を作るには、沢山のクッキーを焼かないといけなさそうだ。
◇
昼食を食べ終わった私たちは素材採取を始めた。その素材採取でシュメルク茸は見つかるんだけど、キリリスの花だけは見つからなかった。
「花、見つからないなー」
「どこにあるんでしょうね」
「まだ、咲いていないのかな?」
「でも、初雪が降る頃に咲くって聞いていたんですよね?」
「うん、そうなんだ。だから、咲いていても可笑しくはないんだけどなぁ」
「中々見つからないんだぞ」
中々見つからないキリリスの花を求めて歩いていく。すると、クレハの足が止まった。
「どうしたんですか? 魔物でもいましたか?」
「違うんだ。なんか、匂いがした」
「匂い? 私には良く分からないな」
「ちょっと、待ってくれ」
クレハはくんくんと鼻を動かしながら周囲の匂いを嗅ぎ分ける。あっちをくんくん、こっちをくんくん。世話しなく匂いを嗅いでいくと、ある方向に向いた時その動きが止まった。
「どうやらこっちから匂いがするみたいなんだぞ」
「なんでしょう、行ってみます?」
「そうだね行ってみよう」
「こっちだ、近いぞ!」
クレハが駆けていくと、私たちはその後を追う。森の中を走っていき、匂いの元をたどる。一体、この匂いの先には何があるんだろう? 期待に胸を膨らませながら進んだ。
「あそこに何かあるぞ!」
クレハが声を上げた。私はその方向を見てみると、地面に沢山何かが生えていた。それは青白い花弁の花だった。
「わぁ、綺麗な花ですね」
「匂いはこの花からだったぞ」
「こんな時期に咲く花があるなんて……はっ、もしかして!」
私は慌ててその花に鑑定をした。すると、鑑定結果はキリリスの花と出てくる。もう一つの素材、見つけた!
「この花だよ、探していたのは!」
「えっ? ということは、この花がキリリスの花、なんですか?」
「おー、ようやく見つけたぞ」
キリリスの花は何十もの数が密集して咲いている花だ。こんなに沢山の素材を見つけるなんて、本当にラッキーだ。クレハのお陰だね。
「クレハ、素材を探してくれてありがとう!」
「へへん、ウチの鼻が役に立ったな」
「クレハは色んな事ができて万能ですね」
「ふふん、もっと褒めてもいいんだぞ!」
「クレハ、偉い!」
「クレハは凄いです!」
「ふへへへへ」
クレハに近寄って、二人で頭をなでなでした。すると、クレハは蕩けた顔をして照れた。うんうん、よく頑張った!
「さぁ、ここの花をいくつか残して摘み取ろう」
「どうして全部摘み取らないんですか?」
「次の花も咲いて欲しいから、種用に置いておくんだよ」
「そうだよな、全部摘み取ったらもうここには咲かなくなっちゃうかもだしな」
「分かりました。いくつか残して、他は摘み取りましょう」
三人でその場にしゃがむと、キリリスの花を摘み取り始めた。雪を腹って、土を掘り返して、花を抜く。その作業を地道に丁寧に繰り返していった。
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