122.期間限定の素材(2)
翌日、私は二人と一緒に森へと出かけた。
「それで、そのシュメルク茸とキリリスの花はどこの辺りにあるんですか?」
「森の手前にはない素材なんだって」
「だったら、奥にいかないといけないな。それだったら、いつも魔物討伐をしている位置になるぞ」
森の中を歩いていく私たちは、森の浅いところを抜けるように奥へと進んでいった。森の中はうっすらと雪が積もっていて、全体的に白くなっている。
吐く息も白くなっていて、気温が低いことが伺える。はじめは動くのが億劫になるくらいの気温だったが、次第に気温にも慣れていきスムーズに動けるようになった。
「今日はその二つだけを採取するつもりですか?」
「そのつもりだけど、もし同時に何かを見つけた時はそっちも採取するかな」
「ふーん、そうなんだ。でも、この中で素材を見つけるのは大変そうだな」
確かに、うっすらとだが降り積もった雪は素材を見つけるのを邪魔している。この状態だといつものようには探せないだろう。でも、私には鑑定のスキルがある。
「大丈夫だよ。まだ広範囲に鑑定のスキルを発動させて探すから」
「でも、それをすると情報量が多くて頭が痛くなるとか言ってませんでした?」
「あんまり無理しないほうがいいぞ。ウチらも探すから」
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。そんなに頻繁にやるつもりはないから」
少しでも多くの素材を見つけるためには、鑑定スキルも活用しないといけない。頭が痛くならない程度に使うから、きっと問題ないはずだ。
「少しでも体調が可笑しくなったら言ってくださいね」
「うん、分かった」
「じゃあ、今日はどんどん進むんだぞ!」
三人で並んで森の中を進んでいく。進んでいくとあることに気が付いた、魔物と遭遇していない。本当なら遭遇しても可笑しくないはずなのに、どうしてだろう?
「ねぇ、魔物と遭遇していないみたいだけど……大丈夫?」
「大丈夫だぞ。耳で音を拾っているからな、魔物を避けて進んでいるんだ」
「そのほうが早く現地に付きますからね。最近はそうやって早めに奥に進むようにしているんです」
なるほど、そういうことだったのか。二人とも魔物討伐は慣れてきて、色々と試行錯誤をしてやっているのが分かった。もう、弱い魔物だけと戦っていた頃じゃないんだね。
「二人とも強くなったんだね。真っ先に森の奥へと進むんだから、ビックリしちゃった」
「まぁな、これがウチらの出来ることだからな。お金も稼げて村のためにもなる、いい仕事だと思うぞ」
「初めの頃に比べたら強くなっていると思います。出来ることが少しずつ増えていって、それに応じて戦える敵も増えてきましたからね」
「ふーん、そうなんだね。そんな中に入っちゃって迷惑かと思うけど、今日はよろしくね」
「もちろんだぞ」
「もちろんです」
二人の邪魔になっているとは思うけど、二人とも快く私を受け入れてくれて嬉しかった。だから、私は迷惑をかけないようにしないとね。
「今回もノアは戦闘に参加するのか?」
「うん、お願い出来るかな。いざという時のために、私も少しでも戦えるようにならないとね」
「分かりました、なら三人でどうやって敵と戦うか考えましょうか」
と、言っても私が出来ることは限られているんだけどね。
「いつものように魔動力で敵を足止めして、その隙に二人が攻撃する感じでいいかな?」
「それが一番手っ取り早いよな」
「そうですね、三人で協力する分にはそのやり方が一番いいでしょう」
魔動力って便利だ、物を動かせる力があるけれど、それは魔物にも通用する。魔物を魔動力で足止めをしている間に二人がトドメを刺してしまえば戦闘は終了になる。
「他の攻撃魔法は鍛えなくてもいいんですか?」
「うーん、まだ使うのが怖いというか」
「使ってみればいいと思うぞ。魔物の足止めはウチらに任せておいてさ」
「そうだね、魔法が効きそうな魔物だったらお願いしようかな」
普通の攻撃魔法もあるけれど、数えるほどしか使ったことがない。称号がレベルアップするごとに魔法の威力が上がっているから、攻撃魔法も必然と強くなっていく。
普段は日常生活の中で抑えめに使っているから安心なんだけど、いざ魔物に使うとなるとどれくらいの威力でいいのか分からなくなってくる。その力加減も訓練しておいたほうがいいのかな?
色々と考えながら進んでいくと、クレハの足が止まった。
「どうしたの、クレハ?」
「……魔物がいる、トレントだ!」
「トレントは木に擬態した魔物です、ノア気を付けてください」
二人は武器を構えると、私も身構えた。周囲を見渡してもそれらしい姿はない、あるのは木だけ。この木の中に魔物がいるってこと? 周囲を見渡していると、突然蔦が襲ってきた。
「聖なる壁!」
イリスが魔法を唱えると透明な壁が私たちを包み込む。その壁に蔦が触れると、バチッという音がして蔦は弾かれた。
「あそこにいるぞ!」
蔦の先を見てみると、そこには一本の木があった。その木は枝や根っこを動かしている、どうみても普通の木には見えない。
「他にもいる!」
クレハが反対側を見ると、そこにも枝は根っこを動かしている木があった。
「どうやら二体のトレントがいるみたいですね」
二体のトレントがゆっくりと近づいてくる。だけど、聖なる壁があって攻撃は出来ないみたいだ。
「聖なる壁がある内にどう戦うか考えましょうか」
「ウチは聖なる壁の外に出て、トレントを直接攻撃するぞ。ノアはどうする?」
「私は……」
ここで魔法を使う経験をしたほうがいいだろう。ということは、どちらかのトレントを相手にしたほうが良さそうだ。
「私は向こうのトレントに魔法を当てる」
「分かった、ならウチは向こうだな」
「私はノアの身を守ってます。二人とも、お願いしますね」
すると、クレハが聖なる壁を飛び出していき、トレントに向かっていった。私もトレントを戦わないと。
トレントは木で出来ている、だから火に弱いはずだ。ここは火の魔法でトレントを退治しよう。両手を前にかざし、蔦をうねうね動かしているトレントに狙いを定める。
火の渦を作ってトレントを囲いながら燃やすイメージだ。深呼吸をして、高めた魔力を解放した。
「いけーっ!」
両手から特大の炎が噴射した。頭の中のイメージを壊さないように慎重になりながら、火魔法を発動する。すると、手から出た炎はトレントを大きな渦となって包み込んだ。
「キィィィッ」
トレントは叫び声を上げながら暴れている。私はそのまま火力で魔法を発動させていく。凄く暴れていたトレントだったが、火の渦を喰らって次第に動きが鈍くなり、とうとう動かなくなった。
そこで、ようやく火魔法の発動を止める。
「やった、かな?」
「動いている気配はなさそうですね。やっつけたと思います」
「やった、魔法で倒した!」
私の魔法が魔物に通じたってことだよね、やった! はっ、喜んでいる場合じゃない、クレハのほうがどうなったんだろう? 慌てて振り向いてみると、丁度クレハが剣を振り下ろしているところだった。
「はぁっ!!」
クレハの気合の入った一撃がトレントに襲う。その一撃はトレントの体を深く傷つけて、その体は倒れた。
「よし、こっちは片付いたぞ。そっちはどうだ?」
「こっちも終わりました」
「クレハ、怪我はない?」
「全然ないぞ、大丈夫だ!」
良かった、クレハには怪我がないみたい。ひと戦闘を終え、聖なる壁が消えると三人で集まった。
「そっちはどうやって倒したんだ?」
「私の火魔法で倒したよ。トレントにだけ火魔法が当たるようにしたの」
「おお、凄いじゃないか! やっぱりノアには魔法の才能があるんだよ」
「私も見てましたけど、ノアの火魔法は凄い火力でしたよ」
「そ、そうかな? そっか、私の攻撃魔法でも魔物に通用するんだね」
「今度から、その攻撃魔法とやらで一緒に戦ってくれ」
「それがいいですね」
よし、今度は攻撃魔法を使って魔物と戦ってみよう。少しずつ戦うことに慣れてきたらいいな。
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