121.期間限定の素材(1)
今日の仕事は農家の人用にビートを作る日だ。家畜の世話をして、畑に降った雪を火魔法で蒸発させる。それが終わった頃になると農家の人たちが籠を持って現れた。
それから畑にビートの種を撒き、植物魔法で成長させる。するとビートが出来上がるので、それを収穫していった。その収穫したビートの量をコルクさんが計り、その量によって私に売上金が手渡される。
農家の人それぞれが自宅で使う用のビートを持って家に帰っていった。私はいつも通りそれを見送ると、残ったビートを収穫して家の食糧保管庫の中に保管した。それが終わると今度はビートから種を作り始める。
それから手早くビートを成長させて、種を作った。種を収穫して、保管庫に入れれば私の今日の仕事は終わりだ。その頃になると、昼が近くなっていた、昼食の時間が近い。
こういう時は錬金術師のお店にお邪魔するに限る。リュックの中にお弁当と昨日作ったお菓子を入れて、家を出ていった。うっすらと積もった雪の上を歩いていって、錬金術師のお店を目指す。
しばらく歩いていくと、家々が見えてきて、錬金術師のお店も見えてきた。私は店の扉を開く。
「エルモさん、こんにちはー」
店の中に入ると、温かい空気が頬を吹く。
「あ、いらっしゃい。どうぞ、中に入ってください」
店のカウンターにエルモさんが座っていた。エルモさんはにこやかな顔をして私を受け入れてくれた。
「外は雪が降っていたから寒かったですよね」
「うん、いつもとは違う気温でびっくりしたよ」
「初雪が降るくらいの寒さですからね。こっちに来て温まってください」
エルモさんに誘われてカウンターまで行くと、イスに座る。すると、私の体の周りが急に温かくなってきた。これはエルモさんが発熱の魔法で私を温めてくれているからだ。
「ありがとう、お陰で体がポカポカしたよ」
「ふふっ、どういたしまして。そろそろお昼なので、私は中で昼食を作ってきますね」
「うん、待ってるね」
そういうとエルモさんはお店の奥へと引っ込んで、昼食を作り始めた。私はコートを脱いで丸めてカウンターにリュックと一緒に置く。
しばらくお店の中を見回って時間を潰す。売れた商品を見つけて、冒険者が来ていたことが分かった。きっと対応に苦慮したんだろうなぁ、と脳裏に慌てるエルモさんの姿が浮かんだ。
「お待たせしました、食べましょう」
すると、エルモさんが戻ってきた。私はカウンターに戻ると、紅茶を差し出された。
「いつも紅茶をありがとう」
「どうしたしまして。こうして、一緒に食べてくれるだけでも嬉しいですから。それにまた来てね、と誘っているようなものです」
確かに、紅茶があるから来ようという考えになってるかも。エルモさんの入れる紅茶は本当に美味しいから、癖になってきているかも。
私はリュックからお弁当とパンを出すと、カウンターの上に広げた。それから二人で手を合わせて挨拶をすると、食べ始める。
「初雪が降りましたけど、畑仕事は出来ましたか?」
「うん、畑に雪が降っちゃったから火魔法で雪を蒸発させてから畑仕事をしたよ」
「そうなんですね。冬の間も仕事が出来て良かったですね」
「そうだね、仕事がなくなったら生きていけないよ」
魔法が使えて本当に良かった。そうじゃなかった、今頃どんな生活を送っていたのだろうか。考えるだけでも嫌になってくるよ。
「教えた錬金術の魔法は順調に使えてますか?」
「かなり重宝させてもらっているよ。今だと発熱の魔法が大助かりだよ」
「そうですね、今の季節だとその魔法が役に立ちます。他の魔法も定期的に使ってあげてくださいね。そうじゃないと、腕が落ちてしまいますから」
「あー、そうだよね。使わなかったら、腕が落ちそうだし気を付けてみる」
とくに冷却の魔法なんて、今はあんまり使わないから気を付けたほうがいいかも。夏に活躍しそうな魔法だし、しっかりと練習をしておかないとね。
そんな風に会話をしながら昼食を食べ終えた。
「実はお菓子を作ってきたんです」
「へー、お菓子ですか。どんなものですか?」
「クッキーだよ。一緒に食べよう」
「わぁ、嬉しいです。ありがとうございます」
弁当を片づけて、リュックからクッキーが包まれた布を出す。それを二人の間に広げると、丸い形のクッキーが見えた。
すると、エルモさんは紅茶をもう一度淹れると席を立った。しばらく待ってみると、ポットを持ってエルモさんは現れる。そのポットからコップに紅茶を注ぎ入れた。
「さぁ、食べよう」
「はい、いただきます」
二人でクッキーを食べる。サクッとして甘い味が口いっぱいに広がった。
「うん、美味しいです。ノアちゃんはお菓子も作れたんですね、すごいです」
「気に入ってもらえて良かったよ。昨日、二人にも食べてもらったらすごく喜んでもらえてね、嬉しかったんだよね」
「それは良かったですね」
「今日のおやつに持たせたら、飛び上がるくらいに喜んじゃってさ、作ってよかったなーって思ったよ」
昨日作ったクッキーを二人に食べさせた時、二人とも本当に美味しそうに食べてくれたな。ついつい、今日の分まで食べてしまいそうな勢いだったなー。
「牛乳と卵があるだけで、食生活が大分変わりましたね。なんだか、充実しているように思えます」
「うん、作れるものが増えたからね。まだまだ作りたいものがあるし、二人も喜んでくれるかなー」
「きっと喜んでくれますよ。だって、こんなに美味しいんですから」
そう言ってエルモさんは美味しそうにクッキーを食べてくれた。自分の作った物が美味しそうに食べられるのってやっぱりいいね、癖になっちゃいそうだ。
「そうだ、話は変わるんですけれど……ノアちゃんにお願いしたいことがあるんですが」
「お願いしたいこと? 何?」
「もしよかったら、また素材を取ってきてはくれませんか?」
「うん、大丈夫だよ」
素材採取のお仕事だ。定期的に素材採取には行っているんだけど、それとはまた違った用事なのかな?
「実は初雪が降る季節になると、生えてくる素材があるんです。それを今回は取ってきてほしいんです」
「へー、初雪が降る季節でも生えてくる素材ってあるんだね」
「はい。とても貴重なもので、今の季節じゃないととれないものなんです。今日、初雪が降りましたから、きっとその素材が生えてくると思うんですよね」
素材っていうのは不思議だ。普通なら生えない季節だとしても生えてくるんだから、普通の理なんていうものはないように思う。
「どんな名前の素材なの?」
「キノコと花、なんですけど……シュメルク茸とキリリスという花です。シュメルク茸は黒くて小さなキノコで、キリリスは青白い五枚の花弁のある花です」
「シュメルク茸とキリリスか。分かった、その二つを取ってこればいいんだね」
「はい、お願いします」
どうやらこの二つが初雪が降る頃に生える素材みたいだ。普通に考えてもこの季節には生えなさそうな素材だよね、やっぱり素材って不思議だな。
「シュメルク茸は雪に埋もれて中々見つけ辛いと思います。キリリスも青白いとはいうものの、雪の色に溶け込んでこちらも見つけ辛いです。それでも大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。もしもの時は鑑定のスキルを使えばいいからね」
「そうですよね、よろしくお願いします。どれだけ多く採取してきてもいいですから、全て買い取ります」
どれだけ多くてもいいって、太っ腹だな。そう言われると、頑張って多く探していきたくなるね。うん、沢山見つけてエルモさんを驚かせてみよう。
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