120.初雪

 朝日が窓から差し込んできて、その明かりで目が覚めた。むくり、と体を起こすと冷えた空気が体を刺す。


「うぅ、寒い」


 ここ一番の冷え込みだ、体を擦りながらベッドから下りると靴を履く。クローゼットに行き、パジャマから服に着替える。その間も冷え込んだ空気が寒くて体が震えた。


 それからいつものようにお弁当作りをして、二人のリュックにお弁当、パン、水筒を入れる。これで準備が整った、後は二人を起こすだけだ。ベッドに近づくと、声をかける。


「二人とも起きて、朝だよー」


 声をかけると、まずイリスが反応した。のっそりと体を起こすと、寒そうに体を抱え込んだ。


「おはようございます。今日は一段と冷えますね」

「おはよう。今日は寒いねー」

「ほら、クレハも起きてください」


 イリスがクレハに声をかけると、クレハの布団が動き出す。のっそりと起き上がってくると、耳をピンと立てた。


「寒いんだぞー!」


 ガバッと布団をかぶってしまった。


「着替えたら、寒さも大分マシになるから着替えよう?」

「こんな空気の中で着替えるのか? 寒くて絶対に着替えられないぞ!」

「昨日まで普通に着替えていたじゃないですか?」

「昨日は昨日、今日は今日だぞ!」


 どうやらクレハは寒さに当てられてしまったらしい。さて、これからクレハを布団の外に出すにはどうしたらいいだろう。しばらく考えると、いい案が浮かんだ。


「そうだ。二人に発熱の魔法をかけてあげるから、温かい内に着替えられるよ」

「そうでした、その手がありましたね」

「本当か?」

「発熱の魔法があれば大丈夫でしょ? ほら、布団から出てきて」


 すると、のっそりとクレハが布団の中から出てきた。すぐに、二人に向かって発熱の魔法を発動させる。二人の周りの空気を温めるように魔法を発動すると、イリスは気持ちが良さそうな表情になった。


「この温かさなら大丈夫そうです。ほら、クレハも大丈夫でしょう?」

「これなら着替えられるぞ!」

「なら、早く着替えてね」


 二人は靴を履くと、クローゼットに近づいた。それから、中から服を取り出すとパジャマを抜いで着替える。寒さのない着替えで、すんなりと着替えられたと思う。そこで発熱の魔法の発動を止めた。


「魔法を切ると、部屋の寒さが良く分かりますね」

「こんな寒さの中で着替えるなんて無理だぞ」

「私は着替えられたよ」

「ノアは強いんだぞ!」


 それからコートを手にして羽織ると、二人にリュックを手渡す。


「宿屋にいって朝食を食べようか」

「家の中がこんなに寒いんじゃ、外はもっと寒いんじゃないか?」

「家を出るのに勇気がいりそうですね」


 扉のところまで移動して、扉を開いた。すると、地面が真っ白に変わっていた。寒いと思っていたら、雪が降っていた!


「あれ、いつもとは景色が違いますね」

「あれはなんだ?」


 二人は不思議そうな顔をして外を眺めた。そうか、雪を見たことがないんだ。


「あの白いのが雪だよ」

「あれが雪か!」

「そろそろ降るとは聞いていましたが、これが雪……白くて綺麗!」


 外に出ると、一面にうっすらとだが雪が積もっているのが分かった。二人は雪の上を慎重に歩いて、自分の足跡を見つめる。


「わー、凄い! 跡が残りますよ!」

「不思議だな、踏んでも感触がないぞ」


 イリスはその場にしゃがみ込み、クレハは雪を何度も踏んでいた。初めての雪に二人ともはしゃいで可愛いな。


「ノアも来てください」

「ノアも踏んでみろよ!」


 二人が声を上げて誘ってくれる。扉を閉めて歩いてみると、自分の足跡が雪の上につく。歩く後に続いていく足跡を見て、ちょっと楽しい気分になった。


「な、なんか感触がないだろう?」

「まだ、そんなに降ってないからね。感触もないと思うよ」

「これ以上降るんですか?」

「さぁ、地方によって降る量が違うからね。ここでは、どれくらい降るんだろうね」

「じゃあさ、宿屋に行って聞いて来よう!」


 そうだ、ミレお姉さんならここに住んでいる人だし詳しいことは知っているかもしれない。今後の為にも聞いていた方がいいかもしれないね。


「よし、宿屋に行こうか」

「そういえば、お腹が減ったんだぞ」

「私もはしゃいだらお腹が減りました」


 二人ともお腹を抑えて恥ずかしそうにしていた。私も人のことは言えない、お腹が減ったなぁ。三人並んで、宿屋へと向かっていった。


 ◇


 食堂の中に入ると、外と比べようがないくらいに温かい空間になっていた。


「うー、温かいぞー」

「生き返りますねぇ」

「ほっとするねー」


 やっぱり寒い外よりも温かい室内だよね。空いている席を見つけて、そこに座るとミレお姉さんがやってきた。


「三人ともおはよう。雪が降るくらいに今朝は寒かったわね、大丈夫だった?」

「起きる時がしんどかったぞ」

「外に出る時も大変でした」

「本当に寒くなったよねぇ」

「今、朝食を持ってくるわね。コートを脱いで待ってなさい」


 そういうと、ミレお姉さんは食堂の奥に引っ込んだ。周りを見てみると、冒険者たちは温かいスープを食べてホッと一息ついているように見える。温かいと安心しちゃうよね。


 私たちはコートをイスにかけて座った。しばらくすると、ミレお姉さんが朝食を持って現れる。


「はい、今日の朝食よ」

「待ってたぜー!」

「ありがとうございます」

「今日も美味しそう」


 朝食をそれぞれの前に置かれる。三人で手を合わせて挨拶をすると、朝食を食べ始める。そうだ、ミレお姉さんに聞くことがあったんだ。


「ねぇねぇ、ミレお姉さん。雪ってどれくらい積もるものなの?」

「雪? そうねぇ、ここじゃそんなに積もらないわよ。今までで多く積もっても十センチくらいだったわ」

「へー、そうなんだ」


 この地方ではそんなに雪が積もらないらしい。それなら、畑仕事は今まで通り出来そうだし、雪が積もっても火魔法で蒸発させれば問題なさそう。


「そういえば、雪が降っても冒険者は魔物討伐とかに行くの?」

「行くわよー。足元がおぼつかないくらいの雪が降った時は行かないけれど、今日みたいに表面だけ積もる感じだと問題なく行くわね」


 そっか、少し雪が積もったぐらいじゃ冒険者は魔物討伐をしに行くんだ。過酷な仕事だけど、そうじゃないと魔物が溢れて大変なことになるからありがたいよね。


「二人は魔物討伐するつもりなの?」

「そのつもりだぞ! 他の冒険者に聞いたら、雪が降っても魔物討伐はしに行くって聞いたんだ」

「他の冒険者さんが動けなくなったら、魔物討伐はしばらく休もうとは思ってました」

「そうよね、足元がおぼつかないくらいの雪が降ったら命が危ないし、そうしなさい」


 二人とも他の冒険者に話を聞いていたんだ。それだったら安心出来るかな、他の冒険者を習っていれば大丈夫だよね。


「二人とも、無茶はしないでね。寒いから思うように体が動かない時もあるし、危険だと思ったらすぐに帰ってくるんだよ」

「はい、そのつもりです。やっぱり寒くなるといつもとは違う動きになっちゃいますからね」

「そうなんだよなぁ。いつもの全開の力は出せないんだよな。だから、無理はしないで勝てる相手とだけ戦うんだぞ」


 うん、二人ともしっかりしているみたいだし安心だ。戦闘に関しては二人の方が詳しいし、あまり言わないほうがいいよね。


 そんな風にお喋りしながら、朝食を食べ進めていった。やっぱり、温かい部屋で食べる温かい食事はいいね、ポカポカしていて気持ちがいい。

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