119.大きな仕事

 牛乳と卵が手に入ってから、食生活は以前より良くなった。色々な料理に活用して二人に食べさせると、二人はいつも美味しいと言って食べてくれる。


 それに栄養もあるから、時期にみんなの体が丈夫になっていくだろう。みんな成長期だから、牛乳が毎日飲めるのは本当にありがたい。まぁ、飲むのはほとんどバターを作り終えた後の牛乳だけどね。今度、普通の牛乳を飲ませたらどんな反応になるか見てみたい。


 家畜たちは冬になって寒いのに、元気いっぱいだ。牛乳と卵を出すほどに元気になった家畜たちの世話をするのが楽しくて、牛にはブラッシングをしたり、鶏たちはかけっこをして遊んだ。


 日に日に充実していく生活。これで、まとまったお金が入ってきてくれたら生活も安定するのにな……そう思っていた矢先に私に仕事が舞い込んできた。


 それは、家畜を世話をしている時だ。男爵様が荷物を持って私の家に現れた。


「よう、寒いな。元気にしてたか?」

「男爵様、お久しぶりです」

「砂糖は順調に作っているか?」

「はい。みんなで協力しながら、各自で砂糖を作ってます」

「そうか、それは良かった。ちょっと、家の中に入って話してもいいか?」

「もちろんです」


 私は男爵様を連れて家の中に入っていった。男爵様をダイニングテーブルに座らせると、私はその向かいに座る。


「それで、話ってなんですか?」

「以前、言っていたと思うんだが、時空間魔法の活用についてだ。その話がまとまったので、ノアに仕事を依頼したいんだ」

「時空間魔法を使った仕事……もしかして、マジックバッグですか?」

「そうだ、その通りだ」


 とうとう舞い込んできたマジックバッグ作成のお仕事。これは大きな仕事になるに違いない、そう期待した。


「俺を通して侯爵様の伝手を使ってマジックバッグを売ることになるだろう。だから、マジックバッグを売るのは遠方の地域になる。それによって、製作者を分からないようにしたんだ」

「遠いところで売ってくれると安心します。それだと、私が作ったっていう話が広がりませんよね」

「少なくとも、この周辺地域でノアがマジックバッグを作っていることは隠せると思う。仕事のやり取りも俺を通してやるから、外に情報が漏れることはないと思うぞ」


 私が作ったマジックバッグを周辺地域で売ると、いつか私が作ったっていう話が漏れるかもしれない。そうすると、周辺にいる悪い人に目をつけられてしまう可能性が高い。


 だから、遠方で売ってくれるなら安心できる。しかも、男爵様の寄り親である侯爵様の伝手を使う、それが心強い。でも、気になることがある。売ってくれる代わりに逆に要求されることはないか。


「あの……私は侯爵様に何かを要求されることはありますか?」

「要求? いや、侯爵様からは何も言われていないな。ノアが心配に思っているようなことはないから心配するな」

「でも、それだと侯爵様はあまり得をしているようには見えません」

「ははーん、なるほど。侯爵様にとってはいいことはある、それは定期的にマジックバッグを売る伝手が出来るということだ」


 マジックバッグを売ること自体が貴族にとってはいいことなの?


「マジックバッグは希少価値があり高額だ、それを売ることが出来るのは限られた伝手がある人だけだ。その伝手を手に入れらるだけでも、侯爵様にとってはいいことだろう」

「そんなに貴重な魔法なんですね」

「そうだ。侯爵様がノアを囲い込もうとすれば、簡単に出来るだろう。そのほうが安定してマジックバッグを入手出来る。でも、それをしないのがあの人のお人柄だ」


 そう、私を囲い込もうとすれば出来る権力は持っている。この男爵様よりもずっと上にいる貴族の人だから、命令一つでどうとでもなる。でも、それをしないのはそうしたくないから?


「あの人は俺のことも買っていてくれてな、ノアをここに置いたほうが俺のためにもなると考えて、ノアを囲い込もうとはしなかったんだ」

「じゃあ、私がここにいれるのは男爵様のお陰でもあるんですね」

「まぁ、そういうことになるかな。だから、ノアがここにいてくれるなら、俺の力と侯爵様の力で守ってあげられるんだ」


 そっか、私は守られていたんだね。それを思うと、安心してくる。まだ子供だから、大人の力が必要な時だと思う。だから、力を借りられて本当に良かった。


「ただし、マジックバッグを売った金額は全てノアのところには入らない。まず、マジックバッグを売る店で四割が取られ、それを紹介している俺が一割を貰う。ノアが貰うお金は半分になるだろう」

「そんなに減るんですね」

「そうだな、四割を取られる中にはバッグ本体を作る材料費と製作費も入っている。それに店舗代や人件費も必要だ。何かとお金がかかっているから、それくらい取られることになる」


 バッグ自体の制作費、売るための人件費、売る場所、必要なものがある。それだけ色々なものが必要となってくるのであれば、私の手取りは低くなるのは明白だ。だったら、半分貰えるって凄くないかな?


「男爵様の話を聞いたら、半分も私が貰えるんだなって思いました。結構多くないですか?」

「多いと思うぞ、もしかしたら四割だったり三割だったりするかもしれないところだからな。良心的だと思う」

「色々と気遣いもしてくれて、多くのお金を貰えるのは本当にありがたいです」


 そう思ってきたら、気が楽になった。確か、普通のマジックバッグを売るにしたら五百万エルくらいのお金がかかるといっていた。その半分だから、一つ売れたら二百五十万エルが手に入るってことだよね。これは凄い! 一気に生活が楽になる!


「どうだ、マジックバッグを売ると一気に生活が楽になると思わないか?」

「はい! 生活がグッと楽になるし、二人に大変な目を負わさずにいられます」

「そうだろ、きっと三人の生活は豊かになる。そしたら、のんびりと過ごしていけることになるぞ」


 そっか、マジックバッグを売ったら、もうそのお金で生活も出来るようになるんだ。というか、そのお金だけでも生活出来るような気がしてきた。


「ただ、マジックバッグは高価だからな、お金は物が売れてから入ってくることになる」

「いつぐらいになりますか?」

「来年の春に売り出す予定だから、早くて夏頃だな」

「その頃になったらお金が入ってくるんですね」

「そこまで、今までの仕事を頑張れるか?」

「はい、大きなお金が入ってくることを知ると気が楽になります」


 お金が入ってくるのは先みたいだけど、そのお陰で大分気が楽になる。先行きがどうなるか不安だったところがあったけど、マジックバッグを売れれば安定した生活が出来るようになるね。


 今は砂糖を作って、それを売ったお金で生活していけば安定した生活が続けられそうだ。うん、いい感じにサイクルが出来上がってきたと思う。


「とりあえず、マジックバッグ化にするバッグは侯爵様から預かってきた。それに順次、魔法をかけていってくれ」

「はい、分かりました。バッグは馬に背負わせていた袋にあるんですか?」

「あぁ、そうだ。あの中に三十個はある。無理をしない程度にマジックバッグ化をしていってくれ。今、持ってくるな」


 そういうと、男爵様はイスから立ち上がって家から出ていった。じゃあ、これから時間をかけてマジックバッグを作っていくんだね。ようし、砂糖作りと平行して頑張るぞ!

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