118.ドーナツとホットミルク
「「「ごちそうさまでした」」」
三人で手と声を合わせた。
「ふー、美味しかったんだぞ。まさか、ドロドロのスープが出てくるとは思わなかったんだぞ」
「そうですね、あんなスープがあったなんて知りませんでいた。はじめは美味しそうに見えなかったんですが、一口食べたら世界が変わったみたいです」
「あのなめらかな口触り、クセになりそうなんだぞ」
「あの食感、良かったですね。パンとの相性もバッチリでしたし、今までのスープよりはこっちのほうが好きです」
食後の感想を二人は楽しそうに話していった。二人ともクリームシチューが気に入ったみたいで、皿に残ったスープを綺麗に千切ったパンでとるほどに気に入ってくれたみたいだ。
「そういってくれて嬉しいよ。今度からクリームシチューもメニューに加えるね。飽きないように味も変えていくね」
「どんな味があるんだ?」
「例えばカボチャを入れてカボチャの風味を足したり、とうもろこしを入れてとうもろこし風にしたり。あ、それだと普通のポタージュにすればいいかな?」
「それもパンにつけて食べるものですか?」
「そうだよ。ポタージュだったら固く小さくしたパンを入れて、食べることも出来るよ」
「わー、とても気になります!」
クリームシチューが作れるんだったら、ポタージュも作れるよね。じゃがいも、かぼちゃ、とうもろこし……うん、味は色々ありそうだから飽きずに食べられそうだ。
「でも、今日は肉の塊がなかったから、ちょっと物足りないんだぞ……」
「お肉ならシチューに入ってましたけど」
「お皿に乗った肉がいいんだ」
「お皿に乗った肉はないけれど、お皿に乗ったドーナツならあるよ」
「「ドーナツ?」」
二人は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「クリームシチューは牛乳を使った料理だけど、まだ卵を使った料理は出してないよね? 今度の料理は卵を使った料理なんだよ。しかも、お菓子になるんだ」
「お菓子ってあのお菓子か!」
「孤児院で時々出ていた甘い食べ物ですね!」
どうやら二人はお菓子というものを食べたことがあるらしい。それなら、詳しい説明はなくても良さそうだね。
「小麦粉や卵を使って生地を作り、円にして油で揚げて砂糖をまぶした食べ物なんだ」
私は席を立つとキッチンカウンターに行った。そこに置いてあったドーナツが山となって積まれた皿を持つと、ダイニングテーブルに戻る。皿をダイニングテーブルの上に置くと、時間停止の魔法を解いた。
「甘い匂いがしてきたぞ」
「どんな食べ物なんでしょう」
「柔らかくてパンに似た食べ物だよ。ふんわりして美味しいんだ。あ、そうだ! 飲み物を用意するからちょっと待ってて」
「じゃあ、その間に食器を片づけておきますね」
「洗浄魔法を頼むんだぞ」
使い終わった食器に洗浄魔法をかけて、私は食糧保管庫に近づいた。その中から低脂肪牛乳が入った瓶を取り出すと、棚からコップを持ってきてキッチンカウンターに置く。そのコップの中に牛乳を注ぎ込んだ。
瓶を食糧保管庫の中にしまうと、今度は棚から砂糖を取り出す。その砂糖をスプーンですくってコップの中に入れた。全てのコップの中に砂糖を入れると、溶かすように混ぜる。
次に牛乳を温めていく。発熱の魔法を牛乳に向けて発動させた。しばらく魔法を発動していくと、コップが湯気が立ち上った。これでホットミルクの完成だ。
そのコップを持って、二人が待つダイニングテーブルに近づいた。
「二人ともお待たせ!」
二人の目の前にホットミルクを置くと、二人は興味深そうにコップの中を見た。
「これはなんだ?」
「牛乳だよ。っていっても、バターを作った後に出来たものだから、本物の牛乳とは違う味わいだけどね」
「湯気が立っている、ということは温めたんですか?」
「そうだよ。砂糖を入れて温めると、ホットミルクになるんだ。ドーナツと相性がいい飲み物だと思うよ」
へー、と二人は感心をした。
「これで準備が整ったから、ドーナツを食べてみようよ」
「どんな食べ物か気になるんだぞ」
「では、いただきましょうか」
三人でドーナツを手にすると、ほのかな温かみを感じた。三人で目くばせをすると、同時にドーナツにかぶりつく。瞬間、柔らかい生地の感触と甘い砂糖の味が口に広がった。
「うん、上手に出来てる!」
柔らかい生地はフワフワしていて美味しいし、白い砂糖で純粋な甘さを感じさせてくれる。とても上手にドーナツが出来ていた。反応のない二人を見てみると、驚いた顔をしながらドーナツを食べている。
「どう? 美味しい?」
声をかけると、二人がこっちを向いた。
「なんですかこれ、すっごく美味しいです!」
「信じられないくらい美味しいぞ!」
「パンのようでパンじゃない、中はフワフワで外はカリッとしていてとっても美味しいです!」
「これがドーナツというお菓子なんだな! こんなに美味しいお菓子は初めてだ!」
堰を切ったように話し出した二人はそのままドーナツを食べ進める。とても幸せそうな顔をしてドーナツを頬張る姿は見ていて気持ちのいいものだ。
一つのドーナツを食べ終える頃になると、名残惜しそうに指についた砂糖を舐めた。
「ホットミルクも飲んでみて」
そういうと二人は思い出したかのようにホットミルクを飲んだ。
「美味しいドーナツの後のホットミルク……とってもいいです」
「すっごく良く合うぞ」
「二人とも、気に入ってくれた?」
「それはもちろんです! パンのようでパンじゃないお菓子、ドーナツがこんなに美味しいものだったなんて!」
「これなら毎日でも食べたいんだぞ!」
どうやら二人ともドーナツもホットミルクも気に入ってくれたみたいだ。肉がなくて物足りないっていっていたクレハだったけど、そんなことがあったなんて忘れているぐらいな様子だ。
「ドーナツはいくつか残しておいてね。そしたら、明日の分に出来るから」
「そっか、明日の分もあるんですね」
「でも、それ以外は食べていいんだよな!」
「うん、大丈夫だよ」
私の言葉を聞いた二人はパァッと顔を明るくして、二個目のドーナツに手を伸ばした。そして、とても美味しそうに食べる姿を見て、私は嬉しくなって笑った。
やっぱり、三人で食べると美味しい物がもっと美味しく感じられるね。
◇
明かりが消えた家の中、それぞれのベッドの中でお喋りをする。
「はー……今日の料理はどれも美味しかったです」
「ウチはドーナツの衝撃が忘れられないぞ」
「そんなに美味しかった? 作って正解だったね」
「きな粉揚げパンと似ているようで、違う食べ物でしたね」
「確かに似ているなー」
眠たくなるまで今日食べた料理の話をした。クリームシチューが美味しかったとか、ドーナツが衝撃的だったとか、そんな話だ。
「ノアは私たちが知らない料理をいくつも知っているんですね」
「そうだな、どれもこれも知らないものばかりなのに、どれもこれも美味しいんだぞ」
「二人に喜んでもらえて嬉しいよ。牛乳と卵が手に入ったから、色んな料理が作れるようになったよ」
「へー、どんな料理を作るつもりなんですか?」
「聞きたいな!」
未知なる料理に興味津々の二人。さて、何を作ろうかな?
「普通の卵料理でもいいし、パスタとかも作れそう」
「パスタってなんだ?」
「小麦粉を合わせて作る、細長い食べ物のことだよ。パンとは違って、これも美味しいよ」
「パスタですか……気になります」
卵があればパスタの麺が作れると思う。そしたら、パスタ料理なんていうもの作れるなー。
「お菓子とかは出来るのか?」
「出来るよ。そうだなー……プリンとかクッキーとか作れそう」
「パンはどうなりますか?」
「バターをつくれば、それを使って美味しいパンも作れるよ。あ、フレンチトーストとかも出来そう」
牛乳と卵があるだけで、色んな料理が作れる。作りたいものが沢山浮かんできて、やりたいことが渋滞してきっちゃった。
「肉料理はどうだ?」
「肉料理は……うーん、今だったら難しいかな」
「ふふ、パンは新しいパンが作れるんですね」
「イリスばかりズルいんだぞー」
「クレハだって、パンよりも種類豊富な肉料理があるでしょ?」
新しい料理の話は尽きない。三人でベッドに横たわりながら、楽しいお喋りの時間は過ぎていった。
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