117.クリームシチュー

「うん、上出来!」


 私の前には山となったドーナツがある。沢山のドーナツを作ることが出来て、充実感でいっぱいになった。


 ようやく手に入った卵と牛乳で作ったドーナツの出来は上々だ。まだ、食べてないけれど、見た目はパーフェクト! 絶対に食べたら美味しいって分かる見た目に、さっきからよだれが溢れてくる。


 だけど、我慢。味見もしない。この世界で初めて食べる料理はあの二人と一緒に食べるって決めているんだから。そうじゃないと、美味しいものもきっと美味しくない。二人の美味しそうな顔を見ながら食べる料理が一番美味しいんだから。


 さて、まだ午前中だけど、この後はどうしようかな。今日は砂糖作りをしようと思ったけど、この牛乳を先に使ってしまいたい。バターを作った時に出た低脂肪牛乳は保存したから大丈夫。後は残った半分の牛乳だ。


 これを消費するためには何がいいだろう。大量に牛乳を使う料理……クリームシチューなんてどうかな。あれなら、牛乳を使う料理だしそれなりの量を使うことになる。うん、クリームシチューを作ろう。


 夕食を作るには早い時間だけど、時間停止の魔法があるから早く作っても大丈夫。よし、クリームシチューを作ろう!


 まずはドーナツを作った後に残った食器類の後片付けからだ。使い終わった食器類に洗浄魔法をかけて綺麗にすると、定位置に戻しておく。皿とまな板と包丁は残しておいて、これで準備よし。


 食糧保管庫から香草、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、とうもろこし、ブロッコリー、鶏肉を出す。それらをキッチンカウンターに置き、大きな鍋を取り出す。


 野菜の皮を剥き、野菜を切り、皿に乗せておく。最後に鶏肉を一口大に切れば、これで材料の準備完了だ。


 かまどに燃やした薪を入れて、上に鍋を乗せる。先ほど残ったバターを少量鍋に入れて溶かす。そこに鶏肉を入れて、色が付くまで炒めると、にんじん、じゃがいも、たまねぎを入れて、さらに炒める。


 軽く炒めたら、一旦火の点いていないかまどの上に移動させる。それから小麦粉を振りかけて軽く混ぜ合わせる。それを混ぜると水、牛乳、香草、残りの野菜をを入れて再び火にかける。


 野菜に火が通るまで煮立たせていくと、今度は塩とこしょうで味を整えて、残りのバターを入れてコクを出す。小皿にスープを装って味見をする……うん、美味しいし味もグットだね。


 そのまま煮込んでいくとクリームシチューが完成した。さじでかき回して、すくって落としてみると、いい感じにドロドロになっている。今までにないスープが出来て、きっと二人は驚いてくれるだろうな。


 鍋を火から外して、時間停止の魔法をかけておく。これでいつでも熱々のシチューが食べれるね。と、いってもまだ午前中だから食べれるのは大分先になるけれどね。


 後はパンを作るだけとなったけど、それは仕事が落ち着いた夕方に作るとしよう。先にお仕事を済ませないとね。今日の時間は砂糖作りをするつもりだ。


 砂糖は春になったら売り出す予定らしいから、冬の間の沢山作っておく予定。お金が沢山貯まる仕事だし、先のことを見据えてここでしっかりと働かなくちゃね。いつ何が起こるか分からないから、出来る時にやる。


 私はコートを羽織ると、ビートの種を持って畑がある外へと出ていった。


 ◇


「よし、こんなものかな」


 大きな瓶に白い砂糖を入れて作業が終了した。今日もビートから砂糖を作る作業は順調に進んで、錬金術の魔法を活用して白い砂糖を作り終える。自分の料理にも使うから沢山作っておかないとね。


 使った鍋に洗浄魔法をかけて、棚に戻しておく。パンはもう焼いたし、後は二人が帰ってくるのを待つだけだ。ダイニングテーブルのイスに座って、二人が帰ってくるのを待つ。


 しばらくすると、扉が開いた。


「ただいまー」

「ただいま帰りました」

「二人ともおかえり!」


 ようやく二人が帰ってきた。イスから立ち上がり二人に駆け寄ると、すぐに二人の手を掴む。


「寒かったでしょ。今、温めるね」


 二人の両手を握ると、発熱の魔法をかけて温めていく。


「ふあー、温かくて気持ちがいいんだぞ」

「この瞬間がとてもいいですね」

「ふふ、二人ともお疲れ様。体全体も温めるね」


 二人の手と全身を温めるために発熱の魔法を広く発動させる。すると、二人は蕩けたような顔になりとても気持ちよさそうだ。冷たかった手も大分温まった。


「うん、冷たかった手が温かくなったんだぞ」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、洗浄の魔法をかけるよ」


 戦闘で汚れた二人の服やコートを洗浄魔法で綺麗にした。汚れはすっかり落ちて、二人は気持ちよさそうだ。


「コートをかけたらイスに座って。今日は新しい料理を作ったの」

「新しい料理か、それは楽しみだな!」

「どんな料理なんでしょう、気になります」


 二人はコートを閉めていたボタンを外してコートを脱ぐと、クローゼットの中にコートを入れた。そして、三人で席着くと時間停止の魔法をとく。その瞬間、クリームシチューとパンの匂いが辺りに漂う。


「うわー、なんだか優しい匂いだな」

「白いスープですか?」

「そう、クリームシチューっていう料理なんだ。あのね、今日ね、牛と鶏から牛乳と卵が採れたの。それを使って料理をしてみたんだ」

「えっ、牛乳と卵が採れたんですか? おめでとうございます!」

「とうとう、採れたんだな! おめでとう!」

「二人ともありがとう!」


 二人に牛乳と卵が採れたことを伝えると、嬉しそうな顔をして祝ってくれた。採れるまでかなり時間がかかったけど、これで定期的に食材を入手出来るようになったね。


「このクリームシチューには牛乳と卵が入っているんですか?」

「ううん、それには牛乳とそれを加工したバターが入っているよ。卵が入った料理は食後に出すね」

「この料理の後にか? うーん、気になるんだぞ」

「さぁ、早く夕食を食べよう」


 三人で手を合わせて「いただきます」というと、スプーンを手に取ってクリームシチューをすくった。


「わっ、これドロドロしてますね」

「本当だ、どうしてこうなっているんだ? 美味しいのか、これ?」


 二人とも初めてみるドロドロとしたスープに警戒しているみたいだ。


「このドロドロっとした感触も美味しいよ。ほら、見て」


 私はスプーンで救ったクリームシチューを口の中へと運ぶ。すると、牛乳と野菜の優しい味わいが口いっぱいに広がって、うま味を感じることが出来た。


「うん、美味しい! ほら、食べてみてよ」

「……はい」

「う、うん」


 二人は恐る恐るスプーンですくったクリームシチューを口の中に運んだ。しばらく、口をもごもご動かすと、驚いたように目を見開いた。


「美味しいですっ!」

「初めて食べる味だけど、美味しいぞ!」

「でしょ? このドロドロとした感触もいいでしょ?」

「はい……なんかこの感触のお陰でスープがより濃厚な味になっているような気がします」

「口に入れた感触もいいんだぞ。食べていて気持ちいというか、嫌じゃない感触だ」


 二人とも驚いた様子でクリームシチューを食べ進めた。はじめは躊躇していたみたいだけど、一口食べて美味しさを知るとどんどん食べ進められるみたいだ。


 ここは一つ、違う食べ方も教えてあげよう。


「普通に食べるものいいけれど、パンを千切ってつけて食べるのも美味しいよ」


 籠に入ったパンを一つ取って、手でちぎるとクリームシチューにつけて食べる。パンの香ばしさとクリームシチューのなめらなかスープが合わさって、とても美味しく感じられる。


「うん、スープがドロドロしているからパンに沢山のスープをつけることが出来るんだよ」

「いつもとは違う感じですね。やってみましょう」

「どんな感じになるんだろう」


 二人もパンを手にすると、手で千切ってクリームシチューにつける。そして、零れないように気を付けながらそのパンを口の中に運んだ。もぐもぐと口を動かしていくと、二人の表情が明るくなる。


「この食べ方、美味しいですね! いつもとは違う感触なのに、こんなに美味しいって感じるなんて凄いです!」

「パンとクリームシチューの食感が合っているぞ! これなら、いくらでも食べられそうだ!」


 二人ともこの食べ方を気に入ってくれたみたいだ。ニコニコと笑いながら、パンを千切ってクリームシチューと一緒に食べている。この後に控えるドーナツの時にどんな反応を見せてくれるか楽しみだ。

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