116.ドーナツ

 卵だけじゃなくて、モモから牛乳が出てきた。この事態に私は少しパニックになった。同時に両方出るってことある? もしかして、みんなで今日出そうって事前に相談してたんじゃないの!?


 アワアワと慌てふためいていると、モモがコートの裾を引っ張った。良く見ると、しきりに後ろ足を蹴っている。どうやらこの後ろ足は乳を示しているみたいだ。


「そっか、乳が張って居心地が悪いんだね」


 牛乳が作られるようになって、乳が張り出したんだろう。モモにとっては久しぶりの感覚で、きっと我慢できないのだろう。モモは元は乳牛だったから、この症状になると人間がどうにかしてくれたと覚えているのだ。


「よし、モモ。今から牛乳を取るね。ちょっと待っててね」


 私は牛舎を飛び出して家の中に入った。棚から大きな鍋を取り出すと、それを持って牛舎へと急ぐ。牛舎ではモモが落ち着きのない様子で待っていた。


 私は鍋をモモの乳の下に置き、地魔法で石のイスを作ってその上に座る。


「それじゃ、搾るよ」


 私はモモの垂れさがっている乳を手で握ると、搾った。


 シャー


 白い牛乳が鍋の中に入った。本当にモモから牛乳が取れるようになったんだな、その事実に少し感動をした。それから両手で乳を搾って、牛乳を搾り出す。


 搾り続けていくと、少しずつ鍋に牛乳が溜まっていく。どれくらい出るか分からないけれど、出なくなるまで牛乳を搾っていこう。


 ◇


 あれから時間をかけてモモの乳を搾った。大きな鍋いっぱいの牛乳を搾ることが出来て、モモも乳の張りが無くなって今ではのんびり放牧スペースで草を食べている。


 私は鍋を魔動力で宙に浮かせながら、家の中に入った。キッチンカウンターの上に鍋と採れたての卵を置く。初めての家畜からもらった畜産物に感動した。


「卵と牛乳が同時に手にはいるなんて……やった!」


 ここにあの二人がいないのが寂しいが仕方がない、今は一人で喜ぶしかないね。念願だった卵と牛乳を手に入れて、考えることはどんな料理をつくるか、だ。


 普通に卵料理を作るのもいいし、材料に混ぜて違う料理にしてもいい。牛乳はそのまま飲んでもいいけれど、料理にも加工品にも出来るから悩ましい。


「あ、殺菌しないと」


 そうだ、卵にも牛乳にも菌がついているはずだ。これを取り除くことが先決だろう。丁度、錬金術の魔法に殺菌の魔法があったら、その魔法を使って殺菌しよう。


 両方に向けて手を向けると、殺菌の魔法を発動させる。念入りに殺菌魔法をかけて、安全を確保する。殺菌魔法をかけ終わると、今度は鑑定をして状態を調べる。うん、どうやらしっかりと殺菌出来たみたいだ。


 さて、何を作るかなんだけど……先日考えていたドーナツを作ろうかな。今なら白い砂糖もあるから、美味しいドーナツが出来るはずだ。大量に作って二人に沢山食べてもらうかな。


 そうと決まれば、必要な材料を集めよう。小麦粉、天然酵母、砂糖、卵、牛乳、バターだ。ここにないものは、バターだけなんだけど、バターは牛乳から作れる。


 別の鍋を取り出すと、その中に半分の牛乳を入れて蓋をする。牛乳からバターを作るためには撹拌が必要なんだけど、錬金術の魔法でそれがある。それを使ってバターを作るつもりだ。


 鍋にした蓋を両手で抑えると、撹拌の魔法を発動させる。すると、鍋の中に入っていた牛乳が動き出す。回すというよりは上下に振るイメージをして、牛乳を動かした。鍋の中で牛乳は上下にいい感じで動いている。


 その魔法を十分くらい発動させた後、蓋をとって中を見てみる。蓋の裏に塊がついていたり、牛乳の中に塊が浮いていたりした。これがバターだ。


 皿とスプーンを持ってくると、塊を集めて皿によそっていく。残さず綺麗にバターを取ったが、大量の牛乳を使った割にはある程度の量のバターしか取れなかった。まぁ、こんなものなのかな?


 バターを取った後の牛乳はいわゆる低脂肪牛乳だから、このまま飲める。冷却の魔法で牛乳を冷たくすると、大きな瓶の中に入れて、食糧保管庫に保存しておいた。これでいつでも冷たい牛乳が飲めるね。


 これで材料が揃った、ドーナツ作りを始めよう。大きな木の器を取り出すと、その中に卵を割り入れて軽くとく。次に砂糖を入れて、またとく。牛乳をいれて、とく。


 そこまでの材料を入れると、今度はバターを入れる。だけど、その前に発熱の魔法でバターを溶かしてから、先ほどの中に入れて混ぜ合わせた。


 最後に小麦粉と天然酵母を入れると、全体を良く混ぜて一塊の生地にする。出来上がった生地を冷却魔法で冷やしながら、時空間魔法の時間加速を加えて、少し寝かす。


 それが終わると、まな板を出して打ち粉をした上に生地を乗せる。一塊の生地を両手を使ってころころと転がして、一本の棒にした。それから、適当な長さに包丁で切ると、切った生地の端と端を繋ぎ合わせて輪にした。


 うん、どこをどう見てもドーナツだ。このドーナツをひたすらに作っていく。全ての生地をドーナツに仕上げると、今度はこのドーナツを揚げていく。


 食糧保管庫に行くと、中からラードの入った鍋を取り出した。油を一回揚げただけで捨てるのは勿体ないから、こうして保管して数回使うようにしている。


 その鍋をかまどの上に置くと、火を点けた薪をその下のくぼみに入れた。油を熱している内に、皿にまぶす用の砂糖を入れておく。これで揚げたてのドーナツに砂糖をまぶす準備は完了した。


 そうこうしている内に油の温度が上がった。ドーナツを入れた皿を持って油の近くに行くと、優しくドーナツを油の中に入れる。すると、パチパチといい音と共にドーナツが揚がっていく。


 数分待った後にドーナツを裏返しにすると、片面が茶色くカラッと揚がっていた。他のドーナツも裏返しにして揚がるのを待つ。しばらく待っていると、いい感じに揚がり始めた。そこで、揚がったドーナツを砂糖の入っている皿へと移し替える。


 移し替えたドーナツに両面にたっぷりと砂糖をまぶす。白い砂糖が油の吸着力でドーナツにまぶされていった。砂糖をまぶし終えたドーナツを別の皿に置くと、時間停止の魔法をかける。これで、食べる時には揚げたての美味しいドーナツを食べることが出来るね。


 さて、どんどんドーナツを揚げていこう! 私は油の前に戻ると、生地の状態のドーナツを揚げ始めた。

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