115.牛乳と卵
白い砂糖が出来たことが嬉しくて、その日はずっと砂糖作りをしていた。納品用と自分たち用を両方作らなくちゃいけないから、作業量が多い。それでも、嬉しい気持ちのお陰で楽しく砂糖作りが出来た。
おかげで今日収穫したビートは全て使い切ってしまった。魔法のお陰でかなり時間が短縮されたことによって、砂糖作りが捗った結果だ。お陰で瓶には沢山の白い砂糖が溜まった。
今日はその白い砂糖を使ってきな粉揚げパンを作ろうと思う。きっと、今までよりも美味しく出来るはずだ。やっぱり、雑味のない砂糖が一番美味しいと思う。
砂糖作りが終わると、夕食の準備をする。具だくさんのスープを作り、きな粉揚げパンを揚げる。作った料理は時間停止をかけて、二人が帰ってくるのを待った。
「ただいまー」
「ただいまかえりました」
二人が帰ってきた! 私は二人に駆け寄った。
「おかえり! 今日はどうだった?」
「今日もいつも通り順調だったんだぞ」
「危ない場面もなく、比較的安全に討伐出来たと思います」
「そっか、無事で良かったよ。はい、洗浄魔法」
外で魔物と戦ってきた二人には様々な汚れが付いている。その汚れを洗浄魔法で綺麗にすると、今度は発熱の魔法を発動させた。
「ふわー、温かいんだぞー」
「この瞬間がとても好きです」
二人は気持ちよさそうに発熱の魔法を受けてくれた。二人の手を掴むと冷たいが、発熱の魔法のお陰で段々と温かくなっていくのが分かる。こんなに冷たくなって、大変だったよね。
「二人ともお疲れ様。温かいスープときな粉揚げパンを作ってあるよ」
「本当ですか!」
「やった!」
「でも、今日のきな粉揚げパンは一味違うんだよ」
自信満々にいうと二人は不思議そうな顔をする。
「一味違う……何か違う調味料でも入れたんですか?」
「パンが大きくなったとかか?」
「それは食べてからのお楽しみ。さぁ、コートをかけて一緒に食べよう」
二人にコートをかけるように促すと、二人はクローゼットに近づいてコートをかけた。それから三人で席に座り、手を合わせて挨拶をする。まずは温かいスープを食べて、体を温かくする。二人とも美味しいと言って食べてくれるから嬉しい。
スープを食べ終わると、今度はきな粉揚げパンだ。
「見た目はいつも通りですね」
「くんくん、匂いもいつも通りな気がするぞ」
「まぁまぁ、食べてみて」
食べるように勧めると、二人は不思議そうな顔をしてきな粉揚げパンを食べた。はじめはあまり変わらなかったが、徐々に表情が変わっていく。
「いつもより美味しいです! なんていうか、甘さが強くなっているような気がします」
「甘さが変わった感じがするぞ! 良く分からないけれど、甘さときな粉の味しか無くなったみたいだ」
「ふっふっふっ、実はね砂糖が白くなったんだ」
私は席を立って棚から砂糖を取り出して、二人の前に出す。
「ほら、これが新しく作った砂糖だよ」
「わぁ、白い砂糖ですね! いつもは茶色い砂糖でしたが、白い砂糖なんていうのが出来るんですね」
「うわぁ、綺麗だなこれ! ノアが作ったのか?」
「錬金術の魔法で作れたんだよ」
「へー、そうなんですね。色んな魔法を使いこなして凄いですね」
「やっぱり、ノアが新しい魔法を覚えるといいことが起きるんだぞ!」
錬金術の魔法のお陰だというと、二人が笑顔になりながら褒めてくれる。それだけで本当に嬉しくなって、私も笑顔になった。
「そうだ、二人にお願いがあるんだった。私をね、魔物討伐に連れて行ってくれないかな」
「また素材採取ですか?」
「それもあるけれど、ちょっと自分を鍛えたいなって思って」
「ノアが自分を鍛える?」
「うん、二人に聞いて欲しい話があるの」
私は真剣な表情になって二人に向き直った。
「私が覚える魔法は珍しい魔法ばかりなんだけど、それを狙ってくる人がいるかもしれないの」
「ノアの魔法は珍しいから、そういう人たちが出てきても可笑しくないですね」
「そんな奴が出てきたらウチらが倒してやるぞ!」
「だけど、常に二人が傍にいてくれる訳でもないでしょ? だから、一人の時に自衛出来る手段が欲しいの。私の魔法を使えばそれは出来ることだけど、咄嗟に動けないかもしれない。だから、その訓練をしたいの」
私の魔法はどれも強いと思う。だから、正面から対峙した時は負ける気がしない。でも、そうじゃない時がある。それは不意を突かれた時だ。そういう場合にも対処出来るようになりたくて、魔物討伐で感覚を鍛えたかった。
「魔物との戦いで自分を鍛えたいの。そしたら、いざという時に動けると思う。自分の身を守るためにも、二人に協力して欲しいの」
「そうですね、魔物との戦いはそういう感覚を鍛えるにはいいと思います」
「ノアも強くなりたいんだな。ウチは協力するぞ、イリスはどうだ?」
「もちろん協力しますよ。悪い人に狙われると聞いて、黙っていることは出来ません。今出来ることをやっていきましょう」
「二人とも、ありがとう!」
私は二人に抱き着いて感謝を示した、すると二人は照れ臭そうに笑う。外は寒くて大変だけど、少しずつ自分を鍛えていこう。そしたら、いざという時に対処出来ると思う。
「二人の足を引っ張らないように頑張るね」
「そこは頼ってくれた方が嬉しいですよ」
「ウチがノアを鍛えてやる! 覚悟しておけよ!」
「ふふっ、クレハが凄く偉そうです」
「先生、お願いします」
三人でふざけ合って、笑った。心強い二人に頼らせてもらって、自分を鍛えさせてもらおう。ついでに素材採取もしていけば、エルモさんも喜ぶよね。時間が空いた時にエルモさんのお店に行こう。
◇
翌日、二人と別れた私はいつも通り家畜の世話にやってきた。
「さぁ、餌だよー」
まずは牛のモモに水と餌を与えた。ちょっとモモの挙動が可笑しいけど、なんかあったのかな? あとでじっくりと見るとして、先に鶏たちに餌を与えに行こう。
餌を持って鶏小屋に行くと、まずは鶏たちを外へと出す。その後に鶏小屋の中を掃除をした。そして、いつもの卵チェックをする。今日はあるかな、とドキドキしながら巣を確認すると、そこに卵があった。
「嘘……卵だ!」
とうとう鶏たちが卵を生んだ! しかも、三羽ともだ! 巣には一つずつ卵があり、合計三個の卵を手に入れることが出来た。私は嬉しくなって、三羽の鶏を呼んだ。
「おいでー、ココ、ルル、テテ」
すると、鶏たちがゆっくりと近づいてくる。その鶏たちをいっぺんに抱きしめた。
「ココ、ルル、テテ、卵ありがとう!」
ギューッと抱きしめると、鶏たちが暴れ出した。
「ココーッ!」
「あぁ、ごめんね」
ハッと我に返り、慌てて鶏たちを離した。その後の鶏たちは何食わぬ顔をして鶏小屋に入り、餌場へと向かった。でも、まだ餌を入れていなかったので空になっている餌場を見て、もう一度外に出てくる。
「餌だよね、ちょっと待ってて」
私は慌てて餌を持って鶏小屋に入った。そして、餌場に餌をバラまいてもう一度鶏たちを呼んだ。鶏たちは素直に反応に鶏小屋に入ると、餌を突き始めた。
ようやく落ち着けた私は、巣にあった卵を潰さないように優しく手に取った。白い卵が三つ、私の手の中にある。念願だった卵を手にして、それだけで嬉しくなって笑顔が崩れない。
大事な卵をコートのポケットの中に入れると、牛舎へと戻っていく。牛舎の掃除をして、モモを放牧しなくちゃ。その前にモモの様子が可笑しかったから、それも調べないといけないな。
牛舎の中に入り、閂を取ってモモの傍に行く。
「モモ、どうしたの?」
「モー」
モモは私のコートの裾を引っ張って、何かのアピールをしている。後ろ足をしきりに蹴っているようだけど、どうしたんだろう?
私はしゃがみ込み、モモの異変を探ることにした。モモの体を観察していると、あることに気づいた。モモの乳が膨らんでいる。もしかして、これは……
私は恐る恐るモモの乳を手で握って、搾ってみた。
シャー
「牛乳だ!」
モモの乳から牛乳が出てきた!
「モー」
モモはそこが正解だったと言わんばかりに鳴いた。
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